第5話 干し肉作りとスキル鑑定

 大会議室に戻った仁と真那は二人で旅立つことを皆に告げた。慈愛はわかっていたかのようにニヤニヤと笑いながら頷いた。最初は二人で選ばれたことに照れくさい感じだったが、こうなったらやるしかない。皆が応援の言葉を掛けてくる。一部の従業員は自分が選ばれた人間でなくモブキャラとでも思ったのか、悔しそうな顔をしている者も数人いた。




 慈愛は10日後を旅立ちの日とし、それまでは準備期間とした。いきなり見知らぬ土地に放り出されるより知識は蓄えた方が良い。危険から回避する術もだ。




 他の従業員も大忙しとなった。


 食料品が沢山あると言ってもその内に腐ってしまう。今は非常用電源で冷蔵・冷凍庫は動いているが、それも次第に止まってしまう。そこで設備課により考えられたのがこちらに一緒に転移してきている自転車を使って自家発電をする事であった。


 自転車の後輪やペダルに発電装置を取り付けて自転車の運動エネルギーを電力に変換、それを非常用電源である蓄電器につなぎ電力を確保する。幸いにも自転車は何十台もある。これを昼夜交代で若い男性社員が漕ぎ続ける。




 また、開発課は工場にある小型のスモークハウスを用いて干し肉の作成をおこなった。なるべく日持ちする食料を仁と真那に持たせる為だ。


 まず牛肉を薄く一口サイズに切り脂肪を取り除き塩漬けして一晩寝かせる。その後、塩漬けした牛肉をスモークハウスに入れ、低温で燻煙する。次に燻煙した肉を乾燥させる。こちらもスモークハウスの機能で乾燥工程を用いて数時間乾燥させるが、非常用電源であまり電気の無駄遣いはできない。その為、肉の内部まで完全に乾燥しきれないので、屋上で1週間ほど外気にさらして追加の乾燥を促す。肉の内部まで均一に乾燥させ、工場にある包材で小分け包装したら完成だ。




 従業員たちが手分けして色々と活動している中、仁と真那は慈愛と共に大会議室に3人だけでいた。慈愛がまず二人のスキルについて説明をした。仁と真那はそれぞれスキルレベル3であると告げる。真那は喜んでいたが仁はこういうのってチートとかあるんじゃなかったか?と低い数値に少し不満げな顔をした。




「ちなみにステータスオープン!とか言っても何も出んからな。恥ずかしいだけじゃぞ」


 また余計な知識を慈愛はさらけ出す。やらなくて良かったわと仁は思ってた。


「あ、さっき私やったら何も起きませんでした」


 真那が恥ずかしながらチョコンと手を挙げた。おいおいやったんかい。仁はツッコミたくなるが心に留めた。




 あとは二人のスキルが何なのかが問題だ。慈愛はスキルの力量は簡単な魔法を使えばわかると言うが、スキルの種類はわからない。ここで特殊なアイテムを使うそうだ。慈愛は布に包まれた手鏡のようなものを取り出す。この鏡となる部分は半透明になっており両面から覗けるようになっている仕様であった。慈愛は手鏡越しにまず真那を見る。


「ステータス~~オープン!」


 慈愛は言わなくてもいい言葉を発して真那の顔を赤く染めた。なんて意地悪な奴だと仁は慈愛を見た。


「おお、大当たりじゃ!オヌシは魔法のスキルじゃ!火と水の両属性を持っておる!かなりレアじゃぞ!」


 真那は両手を口元に合わせて小刻みにジャンプして喜んでいた。


 魔法は全人類の夢だからな。元の世界に限ってだが。仁は羨ましい気持ちと自分のスキルへの期待が高まっていた。




「次はオヌシじゃ」


「須沖 仁です。掛け声はいらないので」


「すおき・・じん?」


「んぁ?何だぁ?」


「いや、何でもないのじゃ。掛け声はいらんのじゃな!」


 慈愛は「オ~ケ~」と言いながら手鏡を右手に持ちながら手の平を上に向け首を横に傾けて呆れたポーズをした。その瞬間、バッと手鏡を仁に向けて言い放った。


「ステータスオープン!」


 早口で言いやがった。こいつが言いたいだけじゃないのか。何かバカにされている気分だ。しかし今はそんな場合じゃない。仁は慈愛の方をジッと見て回答を待つ。




「んん?んんんん~・・・」


 慈愛が何やら怪訝けげんそうな顔をする。まさかハズレか・・・。冒険に役立たないスキルだったりとか?仁は不安になり始める。


「え?なに??俺のスキルは何だったの?」


「んん、あぁ。け・・剣じゃな、オヌシは剣士のスキルじゃな!」


 明らかに慈愛は適当に嘘を言っているように見えた。仁は鏡を奪い取ろうとしたが慈愛はバッと頭上に上げる。


「鑑定は終いじゃ!次にこれからの事を説明するぞ!」




 仁は納得いかなかったが真那は剣士と魔法でカッコ良いとはしゃいでいた。まぁ、確かに二人だけだがバランス的には良いかもしれない。俺が本当に剣士だったとしたらだが。


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