第2話 落ち人
ああ、嫌な夢を見た。大きな地震が起こって・・・古代の恐竜みたいなのが建物に侵入してきて・・・それから・・・
周りのザワザワしている雰囲気を感じ取り仁はハッと目を覚ます。
『夢・・・じゃなかった・・・』
本社棟にある大会議室だった。このとんでもない世界に転移して、プテラノドンを率いた女性が現れ、ここに298名全員が集められていた。仁は一番後ろで壁に寄りかかるようにし、あぐらをかいて寝てしまっていたようだ。
なぜか全員が振り返り仁を見ている。仁とは反対に位置する集団の先頭にはベニヤ板の壁を蹴破った女性が仁に指をさしている。
「え・・?あ、少し寝てしまっていたようで・・・」
仁がそう言いかけたとき、振り返っていた数人の一人が言った。
「須沖課長、皆のために頑張ってください!」
はぁ?寝てる場合じゃないってことか、こんな大勢の前で公開処刑みたいなことやめてくれ、恥ずかしいわ。しかしそうではなかった。
「須沖勇者!」
「課長ならできますよ!」
何なんだ・・・。皆が仁に向けて声を掛けている。何か期待されている?
隣にいた若い男性社員が仁が口をポカンと空け理解していないことを察して耳打ちする。
「須沖課長はスキル持ちですよ。元の世界に帰るための方法を探しに旅に出るんです。羨ましいっス」
「なんだってっ!!」
大きな声を出して驚いて立ち上がると更に注目を集めた。なんでこんな事になってしまったのか。
―――時間は異世界の女性が初めて現れたところまで遡る―――
女性はプテラノドン(仮)から飛び降りて建物内に着地する。仁を含めた従業員は少し後ずさりをした。
「<落ち人>ってなんだ?俺たちのことか」
仁が話しかけると、周りをキョロキョロと見て女性は話しだす。
「ワシは六賢者の一人、慈愛(じあ)じゃ。知らんだろう?それがきさまらが<落ち人>だと言う証明じゃ」
有名人なのか?偉そうな態度だが、どこか気品も見られる口調だ。
慈愛は仁たちに味方だと告げ、全員を集めろと指示した。
「全員集めて外にいる奴らの餌にでもするつもりか?」
仁は先ほどの命がけの行為を忘れていなかった。この非日常の中で素性が知れない女の言うことを素直に聞くつもりはない。
「ん?プテラノドンは草食だぞ。肉も食わなくはないが好んで食わん、生肉などもっぱら食わんぞ」
今まで似ていると言うことでプテラノドン(仮)としていたが、どうやら本物の古代恐竜らしい。
「しかし、俺らはそいつらの一匹に食われそうになった!」
「んん~。まことか~?」
慈愛は後ろを振り向き、何やらプテラノドンと話しているかのようだ。誰もが話せるの?って思っていたに違いない。しばらくすると慈愛は急に大声で笑いだしこちらに振り向いた。
「この辺りはワシの領土でな、プテラノドンにパトロールをさせておる。今回騒動をおこしたのはこの子じゃな」
振り向かずに親指を後側に向けて1匹のプテラノドンを指した。先ほどのプテラノドンとわかるまで数秒掛かったが、落ち着いてみると他の個体より一回り小さかった。
「生まれてまだ半年でな、はりきってパトロールしていたようだが、話に聞いていた<落ち人>を発見した。近くで確認しようとしたら勢い余って建物の中に突っ込んでしまった。その後、一人の男が窓から飛び降りようとした為、慌てて追いかけて止めようとした、と言っておるよ」
仁は一気に肩の力が抜けた。勘違いで命かけて窓突き破ったの?何か急にカッコ悪いじゃん。仁は渋い顔をした。
「はは~ん、もしかしたら飛び降りようとしたのはオヌシか?命は大切にせーよ」
慈愛が笑いをこらえながら話すと真那は仁の腕を掴み慈愛を睨みつけるように言葉を発した。
「それで慈愛さん、皆を集めればこの世界の事を説明してくれるんですか?」
慈愛は目を細めて真那を見つめ落ち着いた口調で話した。
「そうじゃ、この世界の事、そして元の世界に帰れる可能性の話をしよう。」
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