第24話 下種の末路は惨めで無様


「ハァ、ハァ、ハァ……」


荒い呼吸に焦点の定まっていない目、まさおが瘴気ではないのはわかる。とりあえず草鹿さんと朝倉を逃がさなきゃなぁ、と思うが、背後の姫子がどうにも逃がしてくれそうにない。


「なんだか大変な事になってるみたいだね、たっくぅぅぅん?そこの性欲を我慢できなかった人のお目当てはたっくんじゃないみたいだし、早くたっくんこっちに来なよ、私と逃げよ?」


「ク、クヒヒ。いいぜぇ、女2人おいて逃げるなら見逃してやるぜぇ、たっくぅぅぅぅぅぅん???」


ゆっくり迫ってくる背後からの姫子の声に、まさおが言葉を続ける。……いやどうみてグルだろこいつらー!!


「ほ、本当に……俺だけなら逃がしてくれるのか?」


 怯えた様子でまさおに聞くと、我が意を得たりとばかりに“わかるよー”と良い笑顔を浮かべたまさおが深く頷く。


「あぁ、ギブアンドテイクだ。お前は助かる、俺はセックス。取引と行こうじゃないかぁ。女なんて他にもいるんだ、こんなところで痛い目みたくないもんなぁ?賢い判断だぜぇ」


「―――だが断る。このたっくん、自分の身可愛さに女の子を見捨てるような真似はしないんだぜ!」


 そう言ってまさおに中指を立てる。そんな俺の様子に、目元をピグピグさせて顔を醜く歪めるまさお。そこにはかつてのイケメン歌い手の面影はナッシング。


「こ、この、このガキャァー!てめー、俺に『NO』っつーんだな?!無実の俺を罠に嵌めて冷たくて暗い留置場送りにしたってのを寛大な慈悲の心で、女2人で許してやろうとするこの俺の『清い心の思いやり』に『NO』だっつーんだな!?そんなの……メチャゆるせねーよなぁー!!」


 そう言いながらポケットから手を出したまさおの手には、素人目に見てもわかるゴチャゴチャ改造されたスタンガンが握られていた。それ、違法じゃない?大丈夫?もっと罪のカウンター貯まっちゃわない、まさお?


「ぶ、ぶぶぶぶぶぶ、ぶっ殺してやるぞタカトータクミィ!!死ねぇ!!」


「ちょっとたっくんには手を出すなって言ってるでしょ?!」


 涎を垂らしながら突進してくるまさおと、なぜか焦ったような姫子の声。うむむどうする、俺に向かってくる分には草鹿さんと朝倉は助かるけど、と思ったところで視界に朝倉がいない。なんだ?と思ったら普段のダウナーでやる気のない動きとは違う機敏な動きで、俺達の背後に迫っていた姫子のさらに背後へと回り込んでいた。姫子を背中から押す朝倉。


「なっ、ちょっとぉ?!」


 朝倉に勢いよく突き飛ばされた姫子をさっとかわすと、丁度俺達の前に姫子が飛び出す形になった。


「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃぢが、わだじじゃにゃいでじょぉぉぉぉぉ」


 ……そして姫子はまさおにぶつかかり、まさおの持っていたスタンガンに接触した姫子が激しく痙攣しながら何事かを言っている。さすがにヤバいと思ったのかまさおも慌ててスタンガンの電源を切ったようだが、姫子はそのまま地面に崩れ落ちた。物騒すぎるだろ、まさお配信LIVEでさらにアウト積み立ててるじゃねーか!!


「近くにいたアンタが悪い」


 そんな2人の様子を見ながらしれっと言ってのける朝倉。偶然に偶然が重なっちゃったねぇと偶然でゴリ押ししようとする朝倉だが、さすがの草鹿さんも引いてる。


「お、おわっ、すまねぇ姫子。後でお詫びに抱いてやるからな」


「だ、だれがあんだなんがどじびびびびびびじびれ」


 陸に打ち上げられた魚みたいにビタンビタンビクンビクンしている姫子に一生懸命に声をかけているまさお。すべてはチャンス!!ヨッコラァァァァ!!


「逃げるんだよォー!」


 その隙に俺は草鹿さんと朝倉の手を引き走り出す。どうせこれは生配信LIVEされてるので俺達はここを逃げ切ればいいのだ、そうすればまさおは確実に実刑で消えるでしょ。後ろがあいたならそっちに走って逃げればよいのである。


「まてそれはおれの女だぞ!!」


 後ろからよたよたと追いかけてくるまさお、いや何言ってんだあいつ。ついでに「グェーッ」と言う声が聞こえたが、まさおは俺達を追うのに目が言っていて足元の姫子を踏みつけたようだ。ついでにそのまますっ転んでいる。何あのグダグダなコンビ(?)。


「おハーブだ、おハーブが足りねぇんだ…おハーブが俺に元気と勇気をくれる!!勇気100倍しおたんマン!!」


 そう言いながらポケットから原色ギドギドの明らかにあやしい錠剤を取り出し口に含むまさお。


「キタキタキタキタキターッ!やっぱおハーブなんだよなぁ!!」


 立ち上がり元気に加速してくるまさお。は、はやくポリスメーン!!今配信がどんな状況になってるかわからないけど!!


「たくみ、私と一緒に地獄に落ちよう」


 走る俺達の正面、走ってきた誰かとのすれ違いざまにそんな声を聴いた。逆光で一瞬誰かわからなかったが、しゅーこちゃんだ!!八車さん家のしゅーこちゃん先生だ!

 走ってくるまさおに向かって走っていき、俺達とのすれ違いざまにパンプスの音を鳴らしながら両足をそろえて飛び上がるしゅーこちゃん。


「お前はあの時のクソアマァ!?丁度いい、てめーもぶち犯してぶっ殺してやるぞオラァ死ねぇぇぇ!」


「―――そぉい!!」


 しゅーこちゃんに見覚えがあるのか何か言ってしゅーこちゃんに跳びかかろうとするまさおだが、しゅーこちゃんの方が早い。カウンター気味に放たれたしゅーこちゃんのドロップキックのような蹴りがまさおの胴体にめり込み、まさおは身体をくの字に折り曲げている。


「ぎょぱぁっ?!」


 勢いよく蹴り飛ばされたまさおが吹き飛び地面を転がると、地面で痙攣している姫子の上に折り重なって止まった。無様……あまりにも無様すぎる。


「買い物の追加があったので追加のお金を持って君たちの後をおいかけていたんだけど、結局追いつけなくてな。レンやキララからまさおが皆を襲っているという連絡がきたので―――急いできた」


 そう言ってピースサインを出すしゅーこちゃん先生。いやー間に合ってよかったですありがとうございますしゅーこちゃんありがとう、ありがとう!!

 そして皆がつーほーしました!してくれたのかパトカーのサイレンの音も聞こえる。いやぁ、これでザエンド…ってね。あ違うジエンドだわ。


「あ、今更だけどこれ配信LIVE中だからなまさお」


「はひゃっ、そ、そんにゃぁ~……」


 そう言ってまさおは意識を失ったが、起きたら多分もう刑務所イキスギィ!じゃなかった刑務所行超特急だとおもうなぁ。


「ふぅ、終わったよ」


『それは騒動が?まさおの人生が?』


俺の独り言にタテがツッコミいれてるけど、多分両方でござるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る