第21話 私は悲劇のヒロイン【幼馴染視点】

 

「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!クソクソクソクソクソクソ!!くそがーっ!!」


 キーボードを持ち上げて何度もテーブルに叩き付けるとキーが宙を舞い割れたキーボードが散乱した。だがこの程度邪私の腹の虫がおさまらない。


「ムカつくなぁ運営!私のサービスを悉く邪魔しやがって!!なんで私に気持ちよく配信させねぇんだ!私は弱者男性どもにちやほやされていたいんだよ!」


 感情のままに叫び興奮のあまり肩で息をするほど意気が上がっているが、耐えきれずに拾い上げたキーボードの残骸を壁に投げつける。


「何がBANだよ!パンパンしろおらぁぁぁぁぁっ!!」


 感情が制御できずに叫び散らすが、この家には私しかいないので誰も文句を言わない。ゴミ父が留置場送りになってからゴミ母はお金だけおいて仕事に没頭するようになって、勝ってきても疲れて寝ているだけだ。

 子供の面倒も満足にできず現実逃避するようなゴミ親なんかもうどうでもいい。


 ……結局、学校も付属の通信制高校への編入という形で去る事になった。

 任意というが、断れば退学で中卒だ、断れるはずもない。始まったばかりの高校生活は終わり、折角軌道に乗った個人V活もガワを理不尽に奪われ、両親はどっかいって、学校は事実上の退学、そして最愛の幼馴染には別れを告げられて暖かい団欒も失い、私には何もなくなってしまった。ついでにまさおもいなくなった。いやぶっちゃけまさおはもうどうでもいいけど、まさおだし。


 なんとかVのガワを取り戻すために収益やお年玉の残りを使ってPCや配信機材を買い、再起をかけて配信者をはじめて、プライドを捨ててSNSでエゴサして配信を見に来ていた弱者男性(笑)にガチ恋営業を仕掛けて最初は伸びたがすぐに頭打ちになり、そして―――たっくんママがあろうことか新しい個人Vのデザインをして、しかもキララやレンといった大手が拡散したおかげで話題はその2人組に集中していた。話題をかっさらって行かれてしまった。

 私が何をやっても、たっくんママの新しいVコンビには勝てない。

 肌の露出を増やしたりしたらアカウントごとBANされてしまった。


 ……配信者として取り巻きを作ったらアシェルの事を暴露して取り巻きをファンネルとして飛ばすはずだったのに!!アシェルを取り戻すはずだったのに!


 何度アカウントを作り直しても即座に凍結されてしまう。これじゃあ翼をもがれた天使、いや蝶だ。

 このまま引き下がれるかとコテハンでネット掲示板で主張したけど荒らし扱いされて馬鹿にされた。

誰もかれもが私を馬鹿にする、舐める、虐げる。悔しい、悔しい悔しい悔しい。どうしてどいつもこいつも私の邪魔をするのよぉぉぉぉっ、何で上手くいかないの?!むかつく、むかつく、むかつく。私何も悪い事してないでしょお!!!!!


  ……どうして、何故と聞いても誰も答えてくれない。何もかも持っていた筈だったのに、何もかも失ってしまった。今の私には何もない。そう思うと悔しくて悲しくて涙が出る。屈辱だ、私がこんな目にあうなんて世界の損失でしょう?!


 それにたっくんもたっくんだ。一度くらいの浮気で掌返して自分をクズだと思わないのだろうか?しかも私をゴミみたいに捨てて、何もかもを奪っておきながら、自分は草鹿と朝倉の2人を侍らせていい気になってる。私の浮気は駄目で自分はハーレムが許されると思ってるのも姑息。いや、卑劣だ、卑劣様だ。



「ぢぐじょう!どぼじでごんなごどに!!」


 泣きながらベッドを殴りつけ、壁を蹴り、荒れ狂うが気分は晴れない。


「……こんなの絶対おかしいよ」


 私が何もかもを奪われて苦しんでいるのに、私のことをきにかけるどころか女の子にちやほやされているたっくん。思えばあのえくすとべのむという2人組の声は草鹿と朝倉によく似ている気がする。

 私を捨てて草鹿と朝倉に乗り換えたのか!!そんなの許せるわけないッ!!


 ……そうか。そうだ。たっくんなんだ。私にすべてを与えてくれていたのはたっくんがいたから。そしてたっくんが私を捨てたから私は今こんな風に惨めに落ちぶれているんだ。たっくんをとりもどせば、何もかも全部上手くいくんだ。

 でも私の力では無理だった。そう思ったところでスマホがメッセージの着信音が鳴った。


『今一旦保釈されたけど一発やろうぜ』


 ……なんだ、まさおか。

 もうこいつに利用価値はないし無視しても……そう思ったところでスマホを手に取る。このまさおを上手く使えば何もかもすべてうまくいくかもしれない。どうせもう私には守るものも、立場も何もないんだ。躊躇する必要なんてない。


 そう、ネット小説で理不尽に婚約破棄されたり追放される聖女はいつだって最後にざまぁをするんだ。なら……私にはきっとざまぁが出来る筈。

 あのクソビッチ2人からたっくんをとりもどして、私が持っていたものを取り返すことができる……全く懲りない悪びれない、反省能力ゼロの下半身性欲犯罪者――――まさおを使って。

 私は素直に毒を飲んで命を絶つような馬鹿じゃない。ロミオを取り戻しに行くジュリエットだ。


 思わず手に入れた鬼札に、私は思わず笑みがこぼれる。―――まだだ、まだ終わらんよ……!

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