第19話 浮気する幼馴染はなぜかすぐ自滅する


レンやキララとの交流は俺たち三人にとって有意義なものになり、学ぶことが多かった。しかしどうして俺達みたいな縁もゆかりもない子供にわざわざ?と気になったのでそれとなく聞いてみると、色々とあってV活動の意欲が下がったり、続けていけるか悩んでいたので気分転換になレバと思って、との事だった。個人V最大手となれば人生順風満帆かと思いきや、色々と大人は大変なんだろうな、と思いつつ話を聞いた。


 お開きになっての別れ際に、レンとキララからは


「「まさおにだけはなっちゃだめだぞ」」


 と釘を刺されたけど、さすがにまさおになるのは逆にハードルが高いしあんな人間の屑なろうと思って慣れる者じゃないなと苦笑するしかなかった。


 それから、母さんがVの仲の子にも逢ってみたいというので草鹿さんと朝倉を家に招いて色々と話したらインスピレーションが捗ったらしく、母さんの筆がノリに乗って無事Vのデザインが出来上がった。

 黒金のゴスロリドレスの“甲斐座(かいざ)えくす”と、紫を基調にしたエスニックな衣装の蛇使い、“王野(おうの)べのむ”。どちらも母さん入魂の出来だった。仲間内での公開をしたときに、タテヨコが顔を見合わせて何事かを考えていたけど、


「いずれわかるさ……いずれな」


 といってその時は教えてくれなかった。

 後は、アドバイスをもらったレンやキララの中の人達にもしゅーこちゃんづてて改めてお礼を伝えてもらう事も忘れない。


 俺もLIVE2D作業をこなし、無事デビューとなった初投稿は、キララとレン達が呟きを引用して拡散したおかげで初回からバズって“えくすとべのむのアウトサイダーチャンネル”はあっという間にチェンネルの登録人数でヒメネコを追い抜くことになった。

 レンとキララの予期せぬエールに応えるべく俺も編集作業を鋭意頑張り、チャンネルの登録人数は順調に増えていった。

 えくすとべのむ、もとい草鹿さんと朝倉のトークはあるある雑談やゲームプレイがメインで、真面目にゲームを進めるえくすと感覚と勘でトンデモプレイをする2人の掛け合いを頭を空っぽにしてゲラゲラ笑えるものになっていた。会話の内容は脚本とかではなく2人の素なんだけどね。

 あと、“えくす”のガワは巨乳美人なのだが事あるごとにべのむ(朝倉)の無自覚巨乳トークで瀕死になっているのでPADいじりが爆速で定着してしまいキャラ立ちがついたのも人気の一旦だと思う。流れるPADコメントに詫び寂び感じちゃうよね~。


 そしてヒメネコんに登録人数でダブルスコアがついたころ、満を持して?タテヨコが用意してきたのは“えくす”と“べのむ”の3Dモデルだった。タテヨコ有能すぎて草生えますよ!!!

 タテヨコにアドバイスを受けながら3Dモデルの動かし方についても勉強して、毎日充実して楽しんでいた中で―――それは起こった。


 ぶっちゃけ、純粋にえくすとべのむの活動が楽しすぎて歯牙にもかけず忘れかけていたヒメネコがチャンネル数に伸び悩み、ついでに取り巻きも離れていったのでお色気路線に転向しはじめたのだ。

 話題になっていればそれだけ人も集まり、人が集まることでさらに人を呼ぶ。

 個人でやっている姫子と、チームでやっている俺達を比べるのは酷かもしれないがそこは仕方がない。だが未成年でそんなデジタルタトゥーを残すような事するのは迂闊だぞアホか、あの馬鹿何やってるんだ、と頭を抱えた。

 露出度の高い服を着たり攻めたカメラアングルをしたりしているのはちょっと引いてしまう。そこには姫子なりの焦りを感じたが、そのやり方は悪手だと。

 特に女性リスナーはそういったお色気路線はウケにくい。下心ありの男性リスナーだけになってしまうので長期的に見るとファンが頭打ちになる(とレンやキララが言っていた)。

 そして姫子が満を持してか、


「実はそこそこ有名なVをやっていた」

「今は事情があってVを引退させられた」

「いずれ詳しくその話をするつもり」


 等と配信の中で匂わせをしてきたのだ。……やはり姫子はアシェルの事を蒸し返すつもりだったんだろう。


――――そしてそれから間を置かず、姫子もといヒメネコのアカウントは凍結されていた。


 あっけないくらいに拍子抜けだが、露出を増やしたりしていた事で規約に引っかかった模様。

 あーあ、言わんこっちゃない、言ってないけど。余計な事するから垢BANされるんだって。従来ののんびりjkトーク路線維持されながらアシェルの事に触れられてたらもう少し対処に苦労したかもしれない。

 何かやらかすと思いきや始まる前に高速自爆成仏とか姫子ェ……。

 その後もヒメネコチャンネルⅡ、ヒメネコV3と名前を少し変え甦ろうとしてはBANされてた。何度BANされても見苦しく甦ろうとするけど多分要注意人物扱いされてるから多分無理だと思うなぁ。


「たっくん、どうしてヒメネコはすぐ死んでしまうん?」


 朝倉にそんなことを言われたけど、とりあえず「坊やだからさ」と返しておいた。


 そんなこんなでヒメコは完全に自爆してしまっているが俺達の新しいV活は順調で、もう姫子の事抜きに皆で楽しくやっていた。姫子をけん制するためのポジションを兼ねて立ち上げたVだったけど、今は純粋に皆で造り上げるV活が楽しい。


 一方、何度もBANされて甦る事で悪目立ちしたヒメネコは、「こいつまさおと一緒にいた女と声にてね?」「いや、引退したアシェルじゃね?」と界隈で騒がれるようになった。

 ヒメネコ(引退V)=まさおと一緒にいた女=アシェルという方程式が仮説として拡散されだしたけど完全一致で草。ほらな?オタクのダメ絶対音感ってすげーんだって。

 完全に図星をつかれてこれ以上浮上しようとすると追及が及ぶことを恐れたのか、ヒメネコはついに転生と再起を諦め、ついにネットの海から消えた。


 ヒメネコの時に元・引退したVとか余計な事を言っちゃったのが致命的だったねぇ、匂わせのつもりだろうけどそんなこと言ったら特定されるに決まってるでしょ。

 えくすとべのむに話題をかっさらわれたりファンの一部を引っぺがされて焦ったのは間違いなく在るんだろうけど、姫子一人だとこんなに脇が甘いのかと遠い目で見るしかない。

 姫子、どこにも居場所、無くなっちゃったね……。雉も鳴かずば撃たれまい、南無。知らんけど。

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