第18話 今の俺達は負ける気がしない


「―――というわけで母さんに2人分、Vのイラストをお願いしたいんです」


 帰宅して母さんにジャンピング土下座をキメて、またV活したいんだけどと相談したら『本気……?』と正気を疑いような顔をされたがそれは仕方がない……母親としてもVママとしても思う所はあると思う。

 あの後、草鹿さんが『同じV活でヒメネコに機先を制す』と提案をしたときにも俺は悩んだものの、最終的に首肯したのは、結局の所単純な理由だ。


 ―――楽しかったから。


 姫子は残念なゲスだったり終わり方は散々だったけれど、蝶野アシェルを作っている時、動画を作ったり音楽を打ち込んだりすること自体は楽しかった。裏方作業のや、動画編集というのは俺にとって思っていたよりも楽しい時間だった。だからできるならまたやりたいと思ったのだ。

 後は草鹿さんと朝倉のやり取りは素で面白いからVとしてみてみたいという気持ちもあった。ダウナーなお色気担当と貧乳コンプレックスのコンビでの掛け合いをくさかさんが提案したとき、みてみたいと思ったのだ。ちなみに自分自身の事を『貧乳コンプレックス』と言う草鹿さんが今にも死にそうな顔と血涙でも流しそうになりながら言ってたので多分そう言う所がナチュラルにネタになってるんだと思うよ。

 

 「そうねぇ。……いいわ、でも2人分となると少し時間を頂戴」


  そんな感じで俺なりに色々と自分なりの気持ちを母さんにアピールした結果、最終的に俺の我儘を聞いてくれた。わぁい母さん優しい!


 それからは学校でもどんな企画をしようかと話をしたり、あとタテヨコの力で俺の動画編集PCが大幅にグレードアップしたりした。マジ感謝だってばよ。


 そうしてやることが明確になったことで日々の生活もなんとなくだけど張り合いが出てきたような気がした。

 しゅーこちゃんにも何か雰囲気が変わったと言われたので、草鹿さんと朝倉と個人V活動をすることになったんですという話をしつつ、DTMとか動画編集とかそういう事するのが性に合ってるみたいでという話をしたら参考になりそうな個人的な知り合いを紹介してくれるので色々と話を聞いてみるといいと言われた。


「どんなことでも目標を持って取り組むのは良い事だと思う。私は君のやりたい事を尊重するし出来る応援するよ。私は君の先生だからね」


 ……なんてしれっと言って、しゅーこちゃんはいい先生だけどそれよりいい女何じゃないかと思った。世の中の男見る目ねぇなぁ。


 そして教師のしゅーこちゃん監督の元、週末にしゅーこちゃんの知り合いで個人V活動をしている方達にお話を聞くことになった。待ち合わせは市内にある個室のレストラン。お勘定は気にするなと言われたけど普段学校帰りのファミレスしかしらない俺や草鹿さんや朝倉からしたら未知のお店で緊張してしまう。

 そうして草鹿さん、朝倉と落ち合ってから待ち合わせの時間より少し早くに店につくと入り口でしゅーこちゃんが待っていた。

 少しだけお洒落なシャツに細身のパンツスタイルでキリッとした出来る女というオーラを醸し出しているしゅーこちゃん。


「早いな。2人ともついて先に待っているぞ」


 そういって中に案内されて予約してあった個室へと案内されると、しゅーこちゃんと同じ年頃の女性2人がいた。


「やぁやぁ初めましてだね、私は夜野キララだよっ☆」


「こんにちは、結弦レンです。しゅーこの生徒さんたちなんだって?」


 そういって自己紹介をしてくれた2人の女性―――本名ではないのだろうが、その名前は聞き覚えがある。あと、その声も個人V活動をするときに色々と見た動画でよく聞いている。


「ファ~~~、どっちもラスボスじゃん」


 朝倉が珍しく心底驚いて宇宙猫みたいな顔をしている。すげぇ、あの朝倉がフリーズしてる。


「どうもはじめまして、高遠です。しゅーこちゃ……八車先生の受け持つクラスの生徒で、V活動のDTM打ち込みとか編集をやってます。こっちの子は草鹿さんで、こいつは朝倉と言います」


「あの、私草鹿といいます。まだデビュー前ですけど私たちも八車先生の生徒です。お会いできて光栄です」


「2人ともおっぱいでかいですね」


 俺、草鹿さん、朝倉と順番に自己紹介をしていったんだけど朝倉だけ変なこと言ってる。いや確かにでかい。……ハッ、いけない!


「たっくん…ろうそくみたいで綺麗だね」


 レンとキララのたわわに何かを幻視しているのか虚ろな目で草鹿さんが呟いている。やめろそれは本編始まったら死んでるフラグだと肩を揺さぶる。最終的にマスコットの中で姑になっちまうからいけない。


「……あはははは、しゅーこから聞いた通りに面白い子達だね。いいよ、何でも聞いて♪私たちで応えられることやアドバイスできることならなんでも答えるよっ」


「うんうん。なんか青春~って感じがして懐かしくなっちゃうなぁ」


 そういってレンとキララが上機嫌に話してくれている。

 ……しゅーこちゃんの人脈どうなってるんだ?!と素直に驚いたけど、現状個人Vとして最高峰の2人から話を聞けるというのは願ってもないチャンスだった。棚ぼたのようなものだが独学でやっていた俺にとっては願ってもない学びのチャンスでもあると柄にもなくテンションがあがる。

 一方で結構ガチガチに緊張している草鹿さんと、「私よりおっぱいでかい人お母さん以外で初めて見た」と驚いている朝倉。朝倉お前はマイペースすぎるところがあるのでもうちょっとこう、空気読もうな。


 DTMの打ち込みや編曲は外注しているとの事だったが、選曲や企画の立て方、何よりリスナーとのやり取りや盛り上げ方、コメントの拾い方など2人の話はあまりにも参考になりすぎた。2人とも説明が上手いというか話を人に伝えること自体が上手なのだが、これも普段V活動で顔の見えないリスナー達との会話をしているだけあって流石だな、と思う。


 まだまだ子供の俺達が自分で考えたり思いついたことは、結局のところ子供の範疇でしかないと痛感する。蝶野アシェルでの経験は無駄ではなかったけれども、ああすればよかったのか、こうすればと自分の過去の経験と比較・すり合わせをしても学ぶことばかりだ。

 ……やはり、人生経験を積んだ大人の考え方、特に個人Vとして頂点を争う所まで上り詰めた人たちのアドバイスというのは貴重な金言である。

 草鹿さんと朝倉とこれから作るVはきっと、蝶野アシェルを越えていくものになる、そんな予感がする。少なくともいつ爆発するか得体が知れない姫子には、負けないのは確定的に明らかだ。


 そんな事を思いながら他の2人を見ると、草鹿さんは持参したノートに一生懸命書きこんでいて、すごいやる気と努力を感じるのは根が真面目だからだろう。朝倉も真剣な顔で話を聞いているが……


「どうやってそこまで大きく育てたんですか?まだまだ私が小さいって井の中の蛙でした。教えてください先生たち」


と興味津々に質問してるけどお前はちょっと静かにしておこう、な?真剣なベクトルが一人だけ違うから。あと、そこで流れ弾食らった草鹿さんが致命傷を喰らってひんしになってるからやめたげてよぉ!

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