第17話 歌い手の家業が燃える一方で幼馴染が妙な事をしている模様

「ねぇたっくんネットニュース見た?

 まさおの実家の会社、まさお父退任だって!まさおが原因でまさお父がやってるメインの会社に飛び火して、ついでに母親離婚して逃げてったとか書かれてるね、女性週刊誌には家を出ていくまさお母がすっぱぬかれてるし、まさお父は詐欺まがいの営業やパワハラが社員から暴露されたりして、今はまさおの事件よりもまさお父のイワックスカーネットの方がTVで話題だよ」


 へぇ~、まさお一家離散かぁ。ネットミームでおもちゃにされまくってるのは知ってたけどいつのまにそんな事になってるんだろう、ドンマイまさお。でも自業自得だと思うから可哀想だとは思わないんだぜ。


「あいつイワックスの社長の息子だったのか。イクッ!すぐっイク!イワックス~♪だっけ。やたらCMでみたりしたよね、最近そういえばみなくなったけど」


「私はあのCM嫌いだなぁ、そこはかとなく下品で」


 俺がイワックスのCMソングを言うと、草鹿さんが心底嫌そうに言った。確かに、小中学生男子はネタにしそうな感じだけど女子受けは悪そうなフレーズだよね。まさおっぽいし。親子でセンスが似てるのかな?

 なんて、そんな風に草鹿さんや朝倉と一緒に昼食をとっていると、神妙な顔をしたタテ&ヨコがやってきた。


「ヤ~ングメェ~ン、これは面倒な事になったかもしれないでござるよ」


 いつでも不敵なタテにしては珍しい。どうしたんだろう?と草鹿さんや朝倉と顔を見合わせながら聞くと、配信の途中からの様子だった。


『どもども☆ヒメネコちゃんだよぉ~☆みなきてくれてありがと~』


―――俺は、いや、俺達はこの声を知っている!この声を垂れ流している奴を知っている!!


「うわっ姫子か!!!!!!!!!!!!!!」


 凄く嫌そうに頷くタテ。スケッチブックで顔を隠しているがこの声は間違いない、姫子だ。

 アイツ学校に来てないと思ったら生身で配信おっぱじめてるのかよ!!!!!!!!うわしかも結構チャンネル登録者数増えてる!!!!


「所謂ガチ恋営業をしたりして微妙にファン……もとい信者を着実に増やしていっているでゴザルよ。これもうわかんねぇなでゴザル」


 もう嫌な予感しかしない。ガワを取り上げられて編集もできなくなったら生身で配信とか危機管理意識/ZEROさんかよ馬鹿なのあほなの?!?!?!


 いやスケッチブックに描いた顔で顔を隠しているけどこれは色々な意味でやべーだろ、と思う。


「その顔、たっくんも気づいたでゴザルな?

 ……オタクは何故かその多くがダメ絶対音感を持つでゴザル。オタクであればほぼ誰もが不思議と備えるクラススキルと言ってもいいでござろう。

 アニメやゲームを介した声優の声は何故か聴き分けれるってやつでござるな。拙者たちにこの配信を止めることできぬでござるがこれ、アシェル聞いてた層が聞いたら絶対わかるでござるよ。これいずれろくでもない事になるのにインド人占い師の魂を賭けるでゴザル」



「どっからインド人占い師出てきた」


 タテの言葉にツッコ身を入れるが、俺も1000%そう思う。やってくれたな姫子、しかし馬鹿なのかコイツ!!


 ちょっと調べたらまとめサイトでも“期待の新生スケブ配信者ちゃん”みたいにまとめられていた。確かに生身の(実はjk)女子がスケブに描いた顔で素顔を画してたら話題になろう。どこまで計算されているのかわからないけどこうかはばつぐんだ!


 とはいえ中身出しは自分が爆発炎上する危険もあるし今はアシェルの話題が燻ったままの状態なんだぞ。


 ……いや、だからこそ、か。消えてしまう前に捨て身で来たのか、無敵の人だから。もしくは何も考えてなくて承認欲求満たすためだけに自爆した可能性も……在ると思います。

姫子は滅びぬ、何度でも甦るさ!じゃねぇんだよなぁ。思い出の中でじっとしていてくれないかなぁもう!


「今の所スパチャ貰いながら囲いを作っている段階でゴザルがこれ何とかした方がいいと思うでござる」


「ヒメネコ氏はアニメ声なのと、身なりなどから明らかに未成年ってわかりやすいでござるから結構男性リスナーが釣れてるしスパチャもしっかり稼いでるようですのぉ。さすがに制服着たりはしてないだけの分別はあるようですが」


 タテの言葉に、配信の録画をみながらヨコが続ける。確かに姫子は生まれ持ったアニメ声だから、ガワがなくてもこういった配信には向いている、と思う。


「いやでもどうすりゃいんだこれ。俺の事やアシェルの事に言及して来たら最強パッパや母さんに話をするけど今どう干渉すればいいんだ?」


 配信の内容自体はフリートークとゲームやってるだけなんだよなぁ、確かに。この学校も配信行為自体は禁止してなかったし、姫子のほかにも配信やってる奴何人もいるんだよなぁうちの学校。成績よければあんまり学校もとやかく言わないstyleだし。うーん……。


「……とはいえこれは文字通り浦桐さんにとっては最後の一手なんじゃないかなぁ。あとできることってこれくらいしかなさそうだし。ただ、私の勘だけどこの配信絶対騒動を起こすためにやってるとは思うんで放置するのはオススメできないかな」


 たわわの上にセットした豆乳を呑みながら朝倉が続けるけど、朝倉の勘はなんか当たってる気がする。俺もなんか嫌な予感がするし。

 確かに、V活動を喪い、学校にも来れずその進退ががけっぷちの姫子が今出来る事は確かにこれぐらいだろう。これをなんとかしたら姫子は大人しくせざるを得なくなる、そんな気がする。


「干渉する、という発想を逆転したらいいんじゃない?私に良い考えがある!……というわけで朝倉、あんたにも地獄まで付き合ってもらうわよ」


「……ヴェッ?」


 ―――草鹿さんが何とも言えない様子で、良いアイデアをひらめいてしまったという表情をしながらそう言った。そして唐突に話を振られてびっくりした朝倉が豆乳を胸元にこぼして、しっとり濡れた谷間が透けていた。


「泣くよ、すぐ泣くよ、絶対泣くよ、ほら泣くよウッ、ウッ」


 草鹿さんがそう言いながら涙目になってて言ってる自分が泣くのかよ、と。草鹿さんだけに草なんだぜ。

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