第13話 後悔~私は可哀想なプリンセス~【幼馴染視点】

 

 ――――私の名前は浦桐姫子。私はきっと、世界一不幸なシンデレラだろう。


 高遠巧、たっくんは近所に住む私の幼馴染だった。

 面白くてお調子者で馬鹿っぽいけど人に優しいたっくんは、子供の頃から男子にも女子にも人気があった。

 そんなたっくんの一番近くにいる女子というポジションは心地よいもので、クラスの他の女子にも羨ましがられて優越感に浸る事が出来た。勿論、たっくん本人の事も好きだけど。そうして私はたっくんの隣で同じ時間を過ごして成長していった。


 たっくんに不満はなかったが、やっぱり見た目のかっこよさとかは物足りないと思っていたし、年頃の女子らしく歌い手や配信者への憧れはあり、そういったキラキラした世界に近づきたくてたっくんにお願いして個人V活動をはじめた。

 たっくんのお母さんは書いている挿絵のラノベが幾つもアニメ化している有名イラストレーターだったので、個人Vとはいえ結構なファンもつき、私の個人V活動は順風満帆だった。


 そんな中で憧れの鉢山紫苑―――しおたんから声をかけられた。初めは偽物じゃないかと疑ったけれど、合ってみたら本物のしおたんだった。そんなしおたんに誘われたら断れるはずなんてない。私はその日のうちにしおたんと関係を持ち、恋人同士になった。


 クリスマスも、たっくんとデートするはずだったけどしおたんに声をかけられたので、当然しおたんとのデートに行った。午後から夕方までの間だったけれどしおたんとイチャイチャとした時間は最高にドキドキした。特にしおたんはエッチをするときに、彼氏の名前を呼ばせたり、彼氏よりしおたんの方がよいと声に出させるのが好きで、それは私にとってもたっくんにマウントをとっているようでやみつきになった。


 とはいえ季節のイベントデートをドタキャンしたのはたっくんに悪いなとちょっと思ったので、お正月に埋め合わせをしたりもしたけれども、しおたんから声をかけられた時はたっくんと約束があってもしおたんを優先した。

 当然だ、今を輝く歌い手のしおたんが私を好きと言ってくれる―――その優越感と誘惑は、止められなかったから、仕方がないと思う。憧れは止められなかった!幼馴染でいつでもあえるたっくんより、しおたんを選ぶのは普通だと思う。


 だがそんな生活をしていたら、ある日しおたんとの二股がバレた。しおたんはたっくんに暴力を振るったけど、―――目撃者もいないし、たっくんには後で謝ればきっと許してくれる筈と適当にその場はしおたんに合わせることにした。あと、たっくんが惨めに蹴られて蹲っている姿は、無様でとても面白かったから。

 どうせたっくんは昔から謝れば許してくれるからと、私はしおたんに口裏を合わせて、その場をさってしおたんとラブラブな時間を過ごした。

 後で適当に謝って、なんだったらエッチしてあげてもいい。初めてはしおたんにあげてしまったけど、その分しおたんとたくさんエッチしたのでたっくんを満足する筈だから、結果的にたっくんも得したと思うし。


 ……だがそれは失敗だったようだ。

 その場面はどういうことか録画されていて、あっという間に世界中に向けて拡散されてしおたんは爆発炎上火だるまで絶賛大炎上からの逮捕で留置場にスリーポイントシュートされてしまった。


 ―――まずい。


 なにがまずい言ってみろ、というレベルではなく、たっくんは本気で怒っている。いや、私を許すつもりがない気がする。このままじゃヤバいと焦った。


 私はきちんと謝った。誠心誠意。

 だけど、たっくんは許してくれなかった。謝ったら許すというのは小学生でもわかる事なのに。こんな風に、わたしから何もかもを奪われるような謂れはないはずなのに!


 私の心の拠り所であった“蝶野アシェル”というガワは理不尽に奪い取られて、そしてしおたんは逮捕されて、たっくんからは手ひどく裏切られて、私の周りには何もなくなってしまった。ほんの少し、余所見をしただけで、こんな仕打ちをうけるなんて酷すぎる。最終的にはたっくんのところにかえってあげるつもりだったのに!!


 それから、たっくんの家でご飯が食べれなくなったけどパパとママにどう説明すればいいか悩みながらレトルト食品を食べて誤魔化していた。


 レトルト食品を買いだしている時にたっくんに出会い、謝ろうとした。謝ろうとした!!でもたっくんは草鹿の貧乳ペチャパイ女と仲良く腕を組んで歩いて、あまつさえあの万年Aカップ女と付き合ってると言った。私がいるのに。私が浮気したときはあんなにひどい仕打ちをしたのに、自分は乳無し女と付き合っているとそう言った!

 悔しさで打ち震える私に、恋する乙女の笑顔を向ける草鹿。瞳に星を輝かせたその幸せな笑顔に言葉にできない敗北感と屈辱と恥辱を感じ、私はたっていることができずその場で崩れ落ちて泣いた。当然、たっくんがすぐにかけよって慰めてくれると思ったが、たっくんは私をおいて去って行った。ありえないことだった。


 そんな食生活もある日パパに気づかれ、問いただされたのでクズ野郎に騙されて弄ばれて捨てられた私を、たっくんは辛辣な言葉で切り捨てて一方的に絶縁したと今の状況を説明した。


 ……当然、パパは烈火のごとく怒り、たっくんの家に怒鳴り込んでくれた。パパはいつも、昔はヤンチャしていたといっていた。パパが正論で責め立てても、たっくんのお父さんはよくわからない屁理屈をグダグダと捏ねて言い訳をしていた。そんな下種極まりない態度に業を煮やしたパパがたっくんのお父さんをぶちのめしていたが、パパは暴行の現行犯で逮捕されてしまった。何で?!パパ悪い事してないじゃない!悪いのは、都合のいいことばかり言っているたっくんのお父さんやたっくんじゃないの?!


「う~…うううう、あぁぁぁんまりだぁぁぁぁ!!AHYY!!!」


 叫ぶパパが警官達に取り押さえられ、じたばたしながら暴れたが、抵抗虚しく連行されて行った。呆然とその光景をみていたけれど、ママや私も、話を聞きたいと同行を促される。どうしてこうなったの?何がいけなかったの?


 ママはパパの分まで働くからと家に帰ってこなくなり、代わりに食費として9万円を置いていった。30日、1食1000円で食べて暮らせ、という事らしい。一食たった1,000円なんて少なすぎる!!!!パパがいたときは、週の内4日は外食だった、それが、1食1,000円ですませなんてありえない!せめてその倍くらいは置いていってほしい。


 しかも、泣きっ面に蜂とばかりに蝶野アシェルのSNSや、たっくんのお母さんの公式アカウントから、蝶野アシェルの活動終了と削除の告知がなされた。

 私が苦労して育て上げてきた蝶野アシェルという私の半身、私のアバターを訃報に私から奪い、あまつさえ削除するなんて言う。こんなの絶対おかしいよ!

 私は抵抗するべく必死にコメントやリプライを送ったい、DMを送ったが悉くブロックや削除をされてしまう。新しいアカウントを作って延々とやっていたが結局イタチごっこで通じない。


―――こんなはずじゃなかった。私は、幸せになるはずだったのに!! なんでこんなことになってるの、私はどこで間違えたの?


 それからは辛くて学校にも行けず、家で引きこもる日々。それでも何か買ってこないと、渡された9万円ぽっちを財布にいれてショッピングモールにでかけたら、たっくんがいた。愛憎交じった感情が心中を蠢く中で、草鹿のブスと朝倉のホルスタイン女が左右からたっくんの腕にだきついて、たっくんを困らせている。やめろ、“そこ”は私の場所だ!


―――どけっ!!!私は幼馴染だぞ!!!


 返せ、返せ、返せ返せ返せ返せ返せ!!断罪断罪断罪断罪断罪断罪断罪断罪死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!


 このままだとたっくんの心が完全に私から離れてしまう。たっくんは絶縁すると言っていたけど、10年一緒にいたんだからきっとまだ私への感情が全部消えてないはず。だけどこのままじゃ完全に接点が消えて手遅れになってしまう。


 何か起死回生の手を、この状況を覆すアイデアを、何とかしないと、なんとか考えないと―――まだ何か手はある筈。

 焦燥感にかられて胸をかきむしりながら、私は楽しそうに腕を組んで歩くたっくんと、胸無し草鹿と、乳だけ陰キャ朝倉を睨みながら、悔しさと口惜しさに呻いた。

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