第12話 個人V垢削除で幼馴染が荒らしに必死ですが俺は楽しくお出かけです
姫子が不登校になって、漏れ聞こえる話によると家に引きこもっているようだけれどもそれは姫子の自由、と特に気にせず俺の毎日は続く。草鹿さんや朝倉とのお出かけが明日に迫った夜、母さんに話があると呼び止められた。
「たっくん。アシェル―――蝶野アシェルの事なんだけれども、いいかしら」
蝶野アシェルというのは俺が姫子とやっていた個人Vの事だ。姫子と絶縁して以降、配信活動等はしていなかったな。一応、姫子と絶縁した日にツブヤイターにログインして、「諸般の事情により更新を休止します」とだけ書いておいたけどその後もみていたリスナーの人達からは心配するコメントなどが届いていた。あと収益化も一応オフにしてあるけれども、チャンネルそのものも削除しないといけないだろう。
「浦桐さんとあんなことになったし、蝶野アシェルの活動を正式に終了しなければいけないと思うの。SNSでの告知や、チャンネルの削除ね。今回の件は事情が事情なので、ママもSNSで告知を出すわね」
「そうだよねぇ。一応、それとなくSNSに投稿はしておいたけれども正式に終了をしないと、応援してくれた人たちへの筋もあるもんね」
という訳でまず、母さんがSNSでツイートをした。
自身がデザインした蝶野アシェルの活動終了について、配信者の重大な契約違反行為があり今後の活動が難しくなったためである旨を、姫子の個人情報や事情に触れない範囲で丁寧に説明した文書画像を用意して呟いていた。
フォロワー数6桁の母さんの情報発信は、蝶野アシェルを見ていない人たちにも広まり『“伊地智(いちじ)イノ”先生の個人Vが活動終了』ということでバズった。アシェル自体はあくまで個人Vとして中堅程度の位置づけだが、それでも母さんのネームバリューは強かったので配信を見ていない母さんのファンにも何事が起ったのかと動揺が走っていた。
もちろん、ネットニュースなんかも面白がって記事にしていたりしたが、これは仕方がない事だと思う。
何が起こったのか憶測が憶測を呼ぶが、妙に鋭いネット民が「まさおと一緒にいた女子の声がアシェルと似ている気がする」と言ってプチバズっていた。
すげぇ、完全正解!!!!!!!!ネット民の特定力とか洞察力すごすぎるだろ!!!!とはいえ、はい正解ですとは言えないのでそこはだんまりのまま黙っておくしかない。
時を同じくして、蝶野アシェルのSNSでも同様の旨の告知分を張る。
観てくれていたファンは惜しんだり、事情を知りたがったり声が多かったり、事態を知って面白半分でリプする人もいた。
『応援してくれた皆に感謝しています、こんな形での活動終了になり、申し訳ありません。今までありがとうございました』
心からの感謝と謝罪を告げた。週末が終わったらチャンネルも、SNSも削除する旨を告げた。それまでに送られるリプやコメントは、運営した側としてきちんと目を通そうと思う。
―――改めて、蝶野アシェルというVtuberは消滅する。姫子にとっては拠り所だったかもしれないが……これは仕方がない事だ。姫子の事はさておき、アシェルの活動の中でDTMをしたり動画編集をしたのは大変だったけどやりがいあったなぁ、と感慨深い気持ちにもなった。
そんな中、SNSやコメントで時折、捨て垢で「アシェルを返せ」「私がアシェルだ!!!」「こんな横暴な終わり方許されない!!」「訴えてやる!!」「削除なんて許されない!!」というコメントがついていたので、あぁ……姫子かぁ……と思いながら削除とブロックを繰り返した。愉快犯の荒らしとみられたのか殆どの人は無視していたが、そう言う事すると勘の良い人は何か気づいてしまうかもしれないというのに。
あと、必死になってコメントやリプしてる場合じゃないと思うし、先に自分の身の振り方をどうにかした方がいいんでないかな、知らんけど。
そして迎えた日曜日、草鹿さんと朝倉と出かける日だ。待ち合わせに時間よりも15分ほど早めにモールに到着して待っていると、ほどなくして2人が一緒に来た。
「はよーんたっくん」
今日は寝癖もなくきれいに髪がまとめられている朝倉がやる気なさげな挨拶をしてきた。あ、草鹿さんが身支度手伝ったんだね、わかるとも!
「たっくんおはよ♡今日は両手に花のデートだね♡♡」
休みの日という事もあってかテンションが高い草鹿さんに先導され、俺達は下着屋に向かった。
「それじゃたっくんはここで待っててね♡」
「また後で呼ぶねーぃ」
そう言っていくつかの下着を抱えた朝倉と、草鹿さんが声をかけてきた。2人で試着してくるようなので、俺は店の外で待ってることにする。女性の下着売り場で待ってるほど俺に度胸は無いんだぜ。
「学生さんかな?今日は彼女とお友達の荷物持ち?」
手持無沙汰に待とうとする俺を気遣ってか、店員さんが話しかけてきてくれたけれど、どう説明したものか一瞬戸惑う。
「いえ、えっと……」
と訂正をしようとしたところで、何か面白い事をひらめいた様子の朝倉がウッキウキで店員さんに声をかけていた。
「そうなんですよ~、私たち2人ともたっくんの彼女なんです」
朝倉がそう言うと、店員のお姉さんが驚いた様子で俺を見る。
「―――そうそう、たっくんすっごくモテて、一人の女の子じゃ満足できねーぜって言うから私たち、2人でたっくんの彼女してるんですよ~」
草鹿さんも面白い事になったなとノリノリで追い打ちをかけた所為で、店員さんが俺を視る目が見る見るうちに女の敵を見る目になっていく。
「ウエッ……まさおかよ……」
すごく心外です誤解です店員のお姉さん!!
完全にゴミを見る目、蔑む軽蔑の目でみないでください!!本当に違うんです!安心してください、童貞ですよ!!?ぬわぁーんッ!!
草鹿さんと朝倉はいたずら成功イェーイ♪といった様子で店員さんの背後でハイタッチしてるが、俺の名誉のためにどうか否定してくださいませんか?!
店員さんが俺から露骨に距離を取り、まさお扱いしてるんですけどぉ?!?!っていうか今年のネット流行語にまさお関係入選するでしょ、ネタとしても言葉としても広まりすぎ草映えるんですけどぉ。
そんな朝倉と草鹿さんがわいきゃいと試着室に消えていき、店外で待つ俺を店員さんがまさおを見る目で警戒しているという針の筵の状態は1分が1時間に感じる位だった。なんてひどいいたずらをするんだっ……まさお扱いなんて酷すぎる……ぴえん。
「たっくん、ちょっときてー」
朝倉の呼ぶ声に、店員さんの目を気にしつつ店に入っていく。幸い、俺たち以外にお客さんはいない。ちなみに店員さんは俺の動きに合わせてじっと凝視してきているが完全に要注意人物を見る目なんですけどぉ…!
「どうしたー、何か荷物でも持ってたほうがええのかい?」
「んーっと……」
声をかけながら試着室に近づいたところで、試着室から延ばされた手に掴まれて試着室に上半身を引きずり込まれる。
「観てもらった方が早いかなっーって、どうかな?……あやや、たっくん大胆」
「ふもっふ?!」
腕の主は朝倉で、試着室の中には上半身が下着姿の朝倉と草鹿さんがいた……のだけど俺は引っ張られた勢いのままに朝倉の谷間に顔を突っ込んでいた。
「わぁーたっくん大胆」
俺の顔を下着姿のままたわわな谷間に挟んだ朝倉がいつものごとく気だるげにいっているが、俺は慌てて顔を離す。
「でっか!?!?じゃなかった、エッッッッ……じゃない、ごめん!!!」
あまりの衝撃に思わず俺も頭がバグってしまった。すごく……柔らかいです……あと呼吸が出来なくなる圧倒的な“圧”。いったいどれだけのサイズだというんだ……!
「いいよー、たっくんだしねえ。私は紫がいいかなって思うんだけどどうかなぁ」
朝倉は薄い紫色のブラをしていた。朝倉は確かに紫が良く似合うイメージがあるし、わかる。ちなみに突然の出来事にフリーズしている草鹿さんは、黒地に金の刺繍が入っているブラをしていて、そっちも似合ってた。草鹿さんは何となくだけど黒に金のラインとかイメージが似合う気はするんだよな。
「ちょっ?!たっくんそういうのはホテルとかで…!!」
混乱してバグったのかとんでもない誤解をしている草鹿さん。
「すまん、どっちも似合ってると思う!!俺はいいと思います!!」
そう声をかけて試着室から上半身を出した。ふぅ、とんでもない目にあったぜ。
「――――やっぱりまさおなんですね」
―――すぐそばに来ていた店員のお姉さんが、白い目で俺をながらそう言っていた。違う、違うんですぅぅぅぅぅぅっ!!
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