第11話 幼馴染が不登校になってるようですが俺には関係ないよ


「へー、しおたん……じゃなかったまさお、余罪でたんだ」


 今朝も話題のネットニュースを見ていたけど、まさおが手を出していた女の子の中にまさおを訴えた子がでたようで、他にも未成年淫行の余罪でも再逮捕されているとニュースになっていた。

 なんでもPCに行為中の動画が保存してあったとか、その動画を使って関係を言いふらさないように口止めを強要していたことも出てきたようだ。俺の他にもまさおから暴力を受けたという証言が炎上系インフルエンサーにタレコミされている。

 クソコラ素材としてネタにしまくっていたけどまさおって相当頭おかしいのではないか??と ネット界隈も騒然としていた。うーん、まさおさんマジまさお。

 ちなみにそれはそれとしてクソコラは止まらない。ネットの住人に情け容赦というものはないのだ、公共のおもちゃ、まさおである。


 そして昼休みに今日も今日とて草鹿さんや朝倉と賑やかに昼食をとっていたけど、草鹿さんがついに半泣きになりながら朝倉を買い物に強制的に誘っていた。

 毎日サイズがあってないブラだからと胸の位置をなおされるのをみるのはつらかったようだ。光の消えた哀しみの瞳で下着買いに行こうと誘っていた。

 朝倉も面倒くさいと頑なに渋っていたが、何か閃いたようにたっくんも行くなら行ってもいいよと言うのでなし崩し的に俺も買い物に連行されることになったのである。

 今週の日曜日は草鹿さんと朝倉とショッピングモールに買い物だ……女子が下着買ってる間俺に何を知ろというのだと思わなくはないけど今日の草鹿さんに歯向かったら行けない気がしたし、“持たざる”草鹿さんの悲しみは察するものがあったので、仕方ないと思って出かけることを承諾したのだ。

 あと聞いた話で、父親が逮捕されて以降、姫子は学校を休んでいるようだった。まぁあんな騒動起こしてそうそう簡単に学校へは来れないよなぁ。当然だよなぁと他人事のように聞き流してるけど。俺には関係ないんだぜ!!出席日数とか大丈夫なのかな?留年とか、そもそも退学とかならない?知らんけど。


 ……なんて思ってた矢先の放課後、しゅーこちゃんに声をかけられた。


「高遠、少し時間いいか?」


 いつもの手伝いの雑事かと思ったけど違うらしく、人のいない所に行こうかとしゅーこちゃんに誘われて屋上への階段を上り、鍵で屋上を開放して立ち入る。昼休みは生徒にも開放されているのだけど、放課後で施錠されているのだ。

 座れ、としゅーこちゃんに促されてベンチに座ると、隣にしゅーこちゃんが腰かけた。


「君はE組の浦桐と親しかったと聞いている。最近、浦桐が学校に来ていないのは知っているな?」


 よく存じ上げていますとも、の気持ちを込めて頷く。姫子が学校に来ていないのも知っているけどど姫子自体が直接的な問題を起こしたわけではないとはいえ父親逮捕はヤバいと思うし、まぁ、そうなるな。


「君も知っていると思うが、浦桐は成績優秀で卒業後に有名な国立大学への進学も期待されていた生徒だ。それが、父親が逮捕されたことや学校に来なくなったことで職員の間でも騒がれていてな。今、浦桐がどうなっているか、聞いてはいないか?」


 あー、やっぱり問題になってるんだ。確かに姫子、頭は良かったんだよな。あの両親勉強はできるみたいだし親譲りで頭は良かったんだろう。学年でも首位争いしてるだったっけ。学校からしても期待の優等生だったわけね。


「そう言う事なら俺は蚊帳の外ですね、もう姫子とは別れて縁切りしてますし。

 しゅーこちゃん相手なら隠す必要もないとも思うんですけど、姫子の父親が暴力振るった事件って、うちにのりこんできて俺の父さんを殴ったんですよ」


 俺がそう言うと、禁煙パイポを零して驚いている。


「何…だと…」


黒い着物着て日本刀振り回したりする人みたいなリアクションがじわる。


「それは……なんというか……大変だったな。お父さんの具合は良いのか?」


「おかげさまでその後も元気ですよ、毎日仕事も行っています」


 そう返事をしたが、しゅーこちゃんはマズい事聞いてしまったなと後悔の表情を浮かばせている。あぁ、なるほど。この質問はしゅーこちゃんの意志ではなく、誰か―――恐らく上長から“浦桐姫子”と親しい俺に様子を聞いてくれと頼まれたのか、理解したぜ。しゅーこちゃんも大変ねー。


「……ま、人生いろいろありますよ。俺も良い事も悪い事ももっと悪い事もいっぱいありましたしね」


 しゅーこちゃんが気にしないように努めて明るく言うと、しゅーこちゃんはそんな俺を見てから空を―――もっと遠くを見上げながら、訥々と語りだした。


「……君は達観がすぎるのではないか?

 あたしもこうみえて昔は真面目な優等生で、勉強に部活動に、一生懸命な学生だったよ。君ぐらいの年頃の時にはね。

 完全とか、調和とかそういうものがあるって信じて頑張ってた。

 ……けど色々あって人生挫折の繰り返し、今はヤニ吸う時間だけが楽しみの彼氏いない歴年齢の教師をやってる。……けど、君はまだ高校生だ、諦めるにもまだ早すぎると思うが?」


 落としたパイポを携帯灰皿にしまって、新しく出した禁煙パイポを咥えながらそう言うしゅーこちゃんの横顔は――――大人びているが年頃の少女の様で、寂しげだった。

 しゅーこちゃんが時々見せるそういう表情が気になって俺はしゅーこちゃんを意識してしまうのかもしれないなぁ。


「……しゅーこちゃんが経験した今までのことは俺には何も言えることがないですけど、それでもしゅーこちゃんは俺からみたらかっこいー先生ですよ。アニキ!って感じします。素敵だと思います」


 俺がそう言うと、しゅーこちゃん驚いたように目を丸くしてから、苦笑するように笑った。


「……女性にアニキだなんていうんじゃない。それとも高遠、お前あたしの弟にでもなりたいのか?」


「おっと地獄姉弟結成のお誘いですか?」


「冗談だよ。……まったく、君はほうっておけない生徒だな」


 それから、今の俺の状況や姫子との浮気を含めたその後のトラブルについてもざっくりと説明しておいた。腕の骨折はまさおのせいか、となんとも微妙な顔をしていたけどしゅーこちゃんまさおと何かあったんだろうか??


「―――男女の事だ、色々ある。私がいうのもなんだが、別れたならまた出会いもあるだろう。おっと、学生の間は学生らしい健全な男女交際をするようにな」


「じゃあ俺はしゅーこちゃんがいいですね!!!!!!」


「高校卒業したらな」


 チェッ、フラれてしまった!……なんてね。冗談で聞き流してくれるしゅーこちゃんだから言えたけど。


 それからもうすこし屋上で休んでいくというしゅーこちゃんと別れて屋上を降りて曲がり角を曲がった先に、草鹿さんがいた。


「なんでしゅーこちゃんにコナかけてるの?

 私がいるよね朝倉もいるよねっていうかたっくんやっぱりおっぱいなの?

 朝倉は私も友達だからいいけどしゅーこちゃんにまでちょっかいだすの?

 よくないなあ……そういうのって。たっくんは高校生でしょ?先生と親しくするのは……どうかな?」


 首を微妙に右に傾けていて顔の左半分が髪で隠れている。右目に光は無くどんよりと濁っている。最近の草鹿さんからは何かこう……“重み”を感じる気がするんだよなぁ……。病んでるというか…こう、じっとり、ねっとりしたものが視える。

 うーん、気のせいっていうことにしておこう、そうしよう!!

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