第10話 幼馴染父を留置場へシューッ!超エキサイティン!
母さんが作っているのはクリームシチューだろうか?とてもおいしそうな匂いが鼻腔をくすぐり、フォ―――――ン、とファンの音も聞こえる。料理の真っ最中の用だ。
「家に帰ってきたら姫子が一人でインスタント食品を食べていたからおかしいと思って問いただしたら―――悪い男にだまされた姫子を辛辣な言葉で捨てて、あまつさえ他の女子と仲良くしていると聞いたぞ!見損なったぞ巧くん!」
うわぁ、姫子ってば父親に自分に都合のいいように説明したのかぁ。あと、この姫子父に巧くんとか呼ばれるとさぶいぼが出るぜ、ぞぞぞぞっ。
「いや、浮気した上に暴力振るわれた俺を放置したのは姫子で―――」
「黙らっしゃい!姫子は今、泣いているんだぞ!!」
事実を正しく説明しようとしたが話の途中で遮られた。駄目だ、このおっさん頭に血が上ってるのか人の話を聞かない。いや、昔から自信満々で居丈高な人だったが相対するとこんなに怠い気分になる人だったのか……。
「どこぞの准将はお引き取りください」
しかし父さんは姫子父のそんな様子も全く気にする様子もなく落ち着き払っている。見た目は中年おっさんだけど父さんのこういういざという時に頼りになるところは素直に尊敬できるな~。
「だれが准将だ!フン、私は天才な上に顔も良い人格者だからだからあながち間違ってはいないがな……!!それはさておき、10年も一緒にいた関係だというのにあっさりと見捨てるような薄情な一家だとは思わなかったぞ!!」
「10年も一緒にいたパートナーをだまして二股かけたのはそちらの娘さんですよね」
だが父さんは姫子父の態度を気にする様子もない。最早、事務処理でもするかのように的確に反論していく。
「……それに、娘がやっていたVtuber活動も一方的に取り上げたと聞いているぞ!お前たちに奪い取られて、VtuberのSNSのアカウントもログインできなくなったと泣いていた。姫子の生きがいを奪うとは、血も涙もない極悪人どもめが!!」
「契約書に従っての処置ですがご覧になりますか??」
都合が悪くなると話を変えて、感情任せに喚き散らす姫子父に対して淡々と事実で返していく父さん、レスバ強すぎるてウケる。
「えぇい、ああいえばこういう!自分に都合の良い理屈ばかりならべるんじゃないッ!!そもそも巧君がもっとしっかりと姫子を繋ぎ止めていればこんな事にはならなかったんじゃないかね?結局君の不甲斐なさに原因があるんだろう!男として恥ずかしいと思わないのか!!」
姫子がやらかしてるだけで何で俺が責められなきゃならねーんだと呆れながらオッサン……じゃなかった姫子父を見るが、言ってやったぞ!とドヤ顔をしている。姫子母も、そうだそうだと言っています。似た者夫婦かぁ……。
「年相応に健全なお付き合いをしている彼氏の裏で浮気する方が非常識でしょう。10年以上の付き合いがあって生活面でも趣味でも支えてもらっている恋人に砂をかける真似をすることの方が恥ずかしいのではないですか?」
呆れて閉口している俺をよそに、父さんは淡々と姫子父に言葉を返している。
「そもそも根本的なところとして、うちがそちらの娘さんの食事を用意する理由がない。うちの息子が親しくしている子だからと、私たちもおたくの娘さんにはその気持ちを汲んだ対応をしていただけの事。
本来であれば両親が共働きで在ろうと何であろうと、自分の子供の食事は両親であるあなたたちがするべきことだ。
私たちがそれをしなくなったからと言って、何かを言われる謂れは無い」
「やかましいぞっ!10年以上もやっていたことを一方的に反故にするのが非常識だと言っているんだ!」
「自分の保護者としての義務を他人に押し付けようとする方が非常識でしょう。それに、私たちは好きでやっていたとはいえ、10年以上そちらの娘さんの食費をいただいたことはありません。―――厚意で施していただけですよ」
施しという言葉で姫子父を侮蔑することも忘れない父さん、容赦ねぇなぁ。
「何だと?!それではうちがお前の家に恵んでもらっているようではないか!!失礼だぞ!!うちは研究職で忙しいからアンタ達を信じて姫子を預けていたんだぞ!!」
「忙しいからと言って週の半分自分の子供を放置するのは親としては失格でしょう。お金を渡していたのかは知りませんが、ハウスキーパーなりお手伝いさんなりを雇ったり、食事の手配ぐらいいくらでもできたはずですよ。
それに、厚意をあだで返すような子に今までと同じように接するのは無理というもの。お引き取りください」
「キィィィィッ!!黙って聞いていれば屁理屈こねてっ!おたくの行動で姫子は深く傷ついたのよ‼!慰謝料よ!慰謝料を請求してやるわ!!」
姫子母がヒステリックな金切声をあげて、俺や父さんを指さしながらギャォォォンン!と叫び声をあげている。
「なにをどうやって慰謝料を請求するというのか理解に苦しみますね」
父さんがため息交じりに言い返すが、姫子母は顔を真っ赤にして絶叫する。
「ハァッ!?姫子は女の子なんですけどぉ?女の子の心を傷つけた時点で有罪に決まってるんですけどォ?!」
「そんな事で罪に問われるほどこの国の司法は甘くありませんよ。
それに係争となったらこちらにも証拠はあります。
親の背を見て子は育つといいますが、貴方たちをみていると、まず子供に仁、義、忠、信、勇、謀。そういったものを正しく子供に教えることの大切さを痛感しますね」
「なんだとこの野郎ッ!!俺達を馬鹿にしてるのかっ」
姫子父がついカッとなったのか、父さんを殴り倒した。――――はいダウトー!!
頬を殴られた父さんがよろめいたののでサッと後ろに回って支える。
「「きゃあっ、パパかっこいい!!」」
「フフン!俺も若いころはヤンチャしてたからな…!さぁ、ぐだぐだと能書き垂れてないで姫子に詫びろ!!姫子の食事を用意しろ!小僧から石を取り戻せ!3分間待ってやる」
石ってなんやねんとツッコみたくなるのをグッと堪える。
自分が何をしたのか理解しないまま、妻と子に褒められてイキッている姫子父。これで研究職かぁ……いや、姫子も地頭はいいから勉強はできる人たちだったんだろうなぁ。社会常識はなかったのかもしれないけど。さて、1,1,0、っと。
「すいみません、家に近所の人が怒鳴り込んできて父さんが殴られました。現行犯でしょっぴぃちまってつかぁさい」
「「「……は??」」」
間の抜けた顔をする浦桐一家。
「ちなみにこのやり取りはドローンで録画していまーすヌルッフフフ!」
「「「ハァッ!?」」」
俺がクイッ、と親指で背後にある階段の上を指さすと、そこにはしおたん暴力事件の時に活躍したドローン君がいた。さっき咄嗟に操作しておいたんだよねー。ちなみにこれもLIVE配信中なんだぜェーイ、みんなみてるー??
ドローン君大活躍過ぎるのであとで 丁寧にキレイキレイと掃除してあげようね。君活躍しすぎィ!
「さっきから鳴っていたファンの音は換気扇ではなくそれだったのかぁぁぁぁっ?!と、盗撮だ!犯罪だ!!」
「いえ、自分の家の中で撮影していたところにあなたたちが来たんですよゼハハハハハッ」
そこは適当なことを言っておく。
それから顔を青くした浦桐一家が逃げ出した後警察が到着したので、ドローン撮影の動画を見せつつその場で警察に聴取を受けたけど普通に現行犯で事件扱いになった。
「父さん最初からこれを狙ってたりした……?」
「さて、どうだろうな」
フッ、と父さんは不敵に笑ったけど、よくよく考えたら10年以上あの浦桐両親をみていた父さんならその性格を熟知していたのでこうなることを、もしかしたら―――姫子に絶縁を言い渡した時から想定していたのかもしれないな、なんて思った。
ちなみに翌日の朝、地方TVで小さく、姫子父が逮捕されたことがニュースでやって吹いた。捕まるの早すぎィ!
ニュースを見ながら父さんは、あの家お金だけは人一倍持ってるみたいだから金に物を言わせて弁護士雇ったり保釈金詰んだりはするだろうねと父さんは言っていたが、それでも社会的には姫子父は終わりだろう、ナムナム。
昼休みにいつものごとく草鹿さんと朝倉と弁当を囲っていると、朝倉が思い出したように言った。
「昨日のたっくんのドローンLive毎回面白すぎたんだけど。あの父親やばかったね」
胸の上に豆乳のせてチューと吸いながら言うが俺もそう思う。
やはり時代はドローンよエフッエフッ。……そしてそんなことを言いながら今日も微妙な顔で胸の位置を調整している朝倉。
「お前のそのパイポジなおし、目のやり場に困るからもっとこう慎みというか人目を気にしてだな……」
「たっくんになら別にみられてもいいし」
むぅ、返答に困る事を言われると反応に困る。
「……最近変だなと思ってたんだけどまたブラのサイズが合わなくなっちゃってたんだよねぇ。あぁ~……買い物にいくのめんど~い」
やる気なさげに言う朝倉に、そうなのぉ?!と思わずツッコみそうになる。今でもただですらばるんばるんしよるなのにまだ成長しているのか……?!
その会話の最中、やけに静かな草鹿さんが気になったのでチラとみると絶望の表情で朝倉の胸部を凝視していた。
「ウゾダ……ウゾダドンドコドーン!!」
あぁ……これが持つものと持たざる者……無慈悲な格差……。
俺は雪山で冷やし土下座でも決めそうな草鹿さんの背中を優しくたたきながら、人は平等ではないという哀しみを知るのであった。
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