第9話 襲来、幼馴染一家


 次の日から、草鹿さんは遠慮なく腕を組んできたりお昼時になれば当然一緒にお弁当を食べるようになった、ちなみにそこは朝倉も一緒。タテヨコや他の男友達と食べる時はそちらを優先させてくれるけどねー。


 あとはV活をしなくなったので放課後にしゅーこちゃんの頼まれごとを手伝ったりも引き受けるようになった。

 

「何で君は教師からの頼まれごとに嫌な顔をしないんだ?」


 と、しゅーこちゃんからは怪訝な顔をされることがしばしばあるけど暇になったのでというとなんか微妙そうな顔をしていた。折角の高校生活なんだから何かやりたい事は無いのかと心配されたり聞かれることもあるけど残念、俺には夢がないのだ。


 その間も、姫子が俺に接触を図ってくることがあったけどそう言う時は大体なぜかそこに草鹿さんがいるのでなんやかんやで姫子は追い返されていた。何であいつまたこっちによって来ようとするんだろうね、俺を気にせずどうか自由に生きていってほしいものである。あとどうして草鹿さんはいつもベストタイミングで現れるんだろう。ふしぎ!


 そして今日も今日とて草鹿さんと朝倉と一緒に昼食を食べていた。

 俺の隣では両手でスマホゲーを操作している朝倉が、胸の上に豆乳の紙パックをのせている。


「それ、ちょっと前に流行ったたわわなチャレンジ的な奴じゃん。すげー」


「栄養全部おっぱいにいってるからね」


 俺の言葉に、何でもない事のように答えつつ胸の上にのせた豆乳をズズズ、と啜る朝倉。そう言う所の無頓着さが朝倉らしいというかなんというか。

 そしてその言葉に草鹿さんが虚ろな目になっている。その谷間はフルフラット甲板だもんね……。完全にまな板だよこれだもんね。昔何かで貧乳はステータスとかあったし、胸だけが女の子の魅力じゃないと思う。俺はおっぱい星人だけど。


「うーん、パイポジ微妙だなぁ」


 パイポジ……おっぱいのポジションということかッ……!朝倉はそう言いながら制服の上から胸の位置をゴソゴソと調整している。セットした豆乳の位置の収まりが微妙だからのようだが、健全な男子には中々に目のやり場に困る光景だぜ。


「ここではリントの言葉で話してどうぞ」


 草鹿さんは虚ろな目で朝倉の胸を凝視しながら何か言っているが、よく意味が解らない。2人とも日本語で頼む。


「そう言えばたっくんって浦桐さんの他に子供のころからの友達とかっていないの?」


 豆乳を呑みながら聞いてきた朝倉の言葉に、そうか、友達かぁ……と頭上を仰ぎ見ながら記憶をたどると、仲良い友達はいたなぁと思いだす。


「小学生の低学年くらいまでなんだけど、マサっていう仲の良いダチはいたよ。学校は違ったけどな」


 そういうとなぜか草鹿さんが復活して話に参加してきた。うん?なんでそこで草鹿さんが反応するんだろ。


「へぇ、そのマサって子とはそんなに仲が良かったの?」


 なぜかウキウキしながら聞いてくる草鹿さん。


「あぁ、いつも半袖に短パン小僧で、日に焼けたサルみたいな顔した奴で―――ゲフッ」


 なぜか草鹿さんが脇腹を毒突きしてきた、痛いなっ?!恨めし気にジト目でみている。俺、何か変な事いったか?!言ってないよねぇ?!


「ゲフゲフン。まぁえっと、放課後とか休みの日とかによく公園で遊んだよ。あー、姫子が一緒にいる時もあったけどな。

 マサとは喧嘩したり言い合ったりすることも多かった気がするけど、それでもなんだか妙にウマが合うというか、気が合ってな。親友というか相棒と言ってもいいぐらいには仲が良い友達だったと思うよ」


 そういうと、でれでれと照れている草鹿さん。今の話に草鹿さんが照れる理由がなくない??


「でもまぁ、小学生の多分2年ぐらいだったかな?マサが引っ越していくことになって、それっきりだ」


「そーなのかー」


 話を振ってきたはずの朝倉は、今はもうスマホゲームの操作に夢中になってる。マイペースな奴だなー、いいけど。


「ね、ねえたっくん。そのマサが引っ越していく前に言ってたこととかって、何かない?覚えてる?」


 なんだったっけな。なんか色々しょーもない事言い合った様な気はするけど……


「確か、リブラはディフェンスタイプとか嘘で、普通に超強いから流行る前に絶対買っておけだっけ。いやぁ、あのアドバイスのおかげで俺大会で勝ちまくったんだよなリブラ持たずんば人にあらずだったわ」


「違ーう!違わないけどちがーう!」


 なぜか草鹿さんが声をあげている。お、おおぉ?!今日の草鹿さんはいつにもまして一喜一憂の表情が豊かだなぁ。のほほん。


―――高校生ぐらいになったら、凄くかわいい女の子がたっくんの彼女になるから


 引っ越す当日、俺にお別れを言う前にいつもの公園まで来てくれたマサが荷物を積んだ軽トラックに乗り込む前に言った言葉だ。残念ながら凄くかわいい女の子というか幼馴染の彼女には浮気されて失恋したけどねぇ。


「……うーん、思い出せない」


 なんとなく、理由はないけどそう言ってごまかしたが、そんな俺の顔を草鹿さんがじっと見ている。


「……ふーん?」


 心の中を見透かすような視線に、つい目を逸らす。


「ねー、2人とも、それよりこれ見てよ!マジウケるんですけど」


 そんな時、話に乱入してきた朝倉によって会話は打ち切らた。

 なんだなんだと朝倉のスマホに全画面で映された動画を俺と草鹿さんが覗き込む。と、そこには『おとしおん!』というタイトルのそのショート動画が表示されていて、サムネ画像は逆さまののフルーツポンチを持ったしおたん(笑)のコラ画像。


『しおんのポンチ気持ちよすぎだろポンチ気持ちよすぎだろ(そぉいそぉい!)

 しおんのポンチ気持ちよすぎだろ気持ちよすぎだろ(そぉいそぉい!!)

 しおんのポンチ気持ちよすぎだろポンチ気持ちよすぎだろポンチ(そぉい!)気持ちよすぎだろ ま☆さ☆お』


 当然、そぉい!!の合の手がはいる時は背景でビーターンと投げられるまさお。

 なwwwんwwwだwwwこwwwれwww。不条理すぎるんだけどストレートに腹筋に来るアホみたいな動画である。フルーツポンチを逆さまに……ポンチ……チン…あっ(察。


「なんか1日で10万再生いったって」


「まさおwwwおもちゃにされすぎて草生えるヨホホホホホホ!」


「ところでなんでたっくんっていつも笑い方変なの?」


 朝倉が不思議そうに聞いてくる。そうか、そうだ言ったことなかったっけな。


「あぁ、俺昔バス事故にあった事があってな。元々は一人で婆ちゃん家に泊まりに行くぐらい婆ちゃんっ子だったんだけど、バス事故に遭った時に一緒にバスにのってた婆ちゃんに庇ってもらって俺は九死に一生を得たんだよ。

 救助が来るまでに俺を庇ったまま、大好きだった婆ちゃんは死んじまったんだ。それ以来なんか笑うって事がしっくりこなくてなぁ。色々笑い方を試行錯誤してるだぜ。幸い皆そういうネタの個性だってスルーしてくれてるのはありがたいところ」


 さらっといった俺の言葉に草鹿と朝倉と真顔になって凍り付いている。しまった、自分なりに軽く言ってみたつもりなんだけどこういうところの些事加減は難しい。

 俺としてはもう昔の事だとある程度区切りをつけたし、変な笑い方でも笑えるようになってるだけマシかなって思ってるんだけどね。時間がたって、傷跡がふさがれば人間前を向いていくもんだなーと実感してるよ。


「なんか、変な事言わせてゴメン」


 朝倉が珍しくマジ凹みしている。こんな殊勝な朝倉はらしくないぞ!すぐにフォローせねば。


「気にすんな、っていうか俺が気を遣わせるようなことを言ってすまんかった。俺なりに前を向いてるので俺の笑い方はなんかこういう物だと思って生暖かくスルーしてくれると嬉しい」


「大丈夫だよ。私が絶対、たっくんが笑えるようにしてみせるから」


 話を聞いていた草鹿さんがそう言って俺を見つめてくる。その目には昨日のように、星が輝いていて吸い込まれそうだった。

 どろりとした深淵のような目をするときもあれば、こうやって吸い込まれるように輝く目をするときもあるので不思議な子だなぁ。なんとなく草鹿さんは他人の気がしないんだよなぁ……よくわからないけど。


 そしてその日、家に帰って母さんが料理の準備をし、父さんが新聞を読んでいる時にその事件は起こった。ピンポーン、というチャイムが鳴った後にガチャガチャとドアが乱暴に開けようとされる。なんだろう?と思ったが父さんに制止された。


「あのバカ一家が来たか。……ここは任せてもらおうか!」


 父さんが眼鏡の位置をなおしながら立ち上がった。螺旋な王様みたいな台詞だけどそれ死亡フラグじゃなかろうか。

 とはいえ父さん1人を向かわせるのも心配なのであとをついてく…ついてく。徹底マークのポジションだよ!

 父さんがドアを開けると、開口一番怒声が響いた。


「高遠ォ!姫子がインスタント食品を食べていたから話を聞いてみれば、姫子を出入り禁止にするとはうちの姫子を飢えさせるつもりかァッ!」


 神経質そうなインテリメガネの男は姫子の父親だ。


「振られたら掌返しなんて器の小さい一家ね、訴えるわよ!!損害賠償よ損害賠償!」


 同じく目つきの鋭い女の人は姫子の母親だ。

 ……そしてひたすら泣いている姫子。

 うわーぉ、面倒くさい奴らがきたなぁ。


「――――黙れ、物乞いが」


 眼鏡の奥で父さんの目が鋭く光っている。あ、父さんめっちゃ怒ってるわ。

 物乞い、という言葉に顔を真っ赤にする姫子の両親。


 父さん、がんばえー!そう思いながら俺は心の中でペンラをぶんぶんと振り、父さんを応援するのであった。

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