第5話 俺は歌い手☆鉢山紫苑(後)~そしてクソコラ素材へ【まさお視点】
レンとキララともう一人、黒髪を結い上げた目つきの鋭い女が腕組みしながら俺を視ている。まだ20代前半ぐらいだろうか?イイ身体の美人なので思わずムラッとおれの股間のしおたんもソワソワするが、どうもそういう状況ではないようだ。
――俺の彼女のレンとセフレ兼ATMのキララが一緒にいるこの状況、ヤバい。そんな気がする!
「お前はいいよなぁ、好き放題に女に手を出して傷つけて。あたしぁやさぐれ女教師、八車秀子(やぐるましゅうこ)。こっちの結弦レンは私の従妹で、そっちの夜野キララはあたしのダチだ。『2人から彼氏が浮気してるかも』って相談をうけてたんだけど、相談受けてる2人の言う彼氏像があまりにそっくりなんでもしやと思って2人を引き合わせたら、彼氏が同一人物だったからびっくりしたよ。しかも、今日2人を引き合わせてお互いの彼氏の情報交換してたら、その浮気彼氏がこのタイミングで暴力動画でバズるなんてお前今までどんだけ悪徳積んできたんだ?因果応報って知ってるか??鉢山紫苑――――いや、岩井まさお」
そう言って俺に侮蔑の目を向ける八車。俺にそんな目を向けるとか許されねぇぞ!!!しかし立ち回りは完璧だったと思ったけどバレてたかっ。
「最低!!こんなクズだったなんてしおたん―――じゃない!アンタなんかもう、まさおよ、この……まさお!!」
レンが俺を蔑むような、ゴミをみるような目で睨んできている。その目が、中学の頃の、そして、高校の頃の俺に向けられていた視線が重なった。甦るのは、バカにされていた日々。
「ハァ?誰がクズだオラァ!俺をバカにするんじゃねえ!!ぶっ殺してやる!!」
俺をバカにするなんて許せねえと殴りかかるが、仁王立ちしていた八車とかいう女に胸倉掴まれて押されるようにして投げられる。
「そぉい!!」
そんな八車の声と共に後ろに押されるようにして背中から地面に落ちた。すごく痛いよママァ……。っていうかカウンター投げとかゲームかよクソッこの八車とかいうアマァ!!
「紫苑、酷いよ。本気で好きなのは私だけだって言ってたのに……!」
背中をうって悶絶している俺に、キララが責めるように言ってくる。うるせーな、泣きたいのは俺の方だろどう考えても!!俺が何をしたっていうんだよ!!!イケメン無罪だろ?!まずはこの俺を心配しろよ!こんなに俺が痛がってるんだぞ?!くそくそくそっ!
「ハッ、しらねーよ。つーか、俺みたいなイケメン歌い手様がお前1人で満足するわけねーだろ、俺はしおたんなんだぞ!バカがよ!!」
笑いながらそう言ってやると、蹲って泣き出すキララ。くそ、めんどうくせえ。つーか、どうみても暴力振るわれた俺が被害者だろ?あの寝取られ敗北者のたっくんが被害者なら俺も被害者だろこんなの。同じのはずだろ!?炎上案件じゃねーか、誰か今の録画してねーのかよ、1000%有罪だろこのアホ女どもが犯罪者だろ!!
「―――まさお、お前アタシの身内を笑ったな?あたしも笑ってもらおうか」
そう言いながら八車とかいう女がゆっくりと俺に近づいてくる。
くそが、誰がまさおだ俺は鉢山だ、鉢山紫苑なんだ!まさおじゃねえ!給食を配膳するときに最後まで配膳してもらえなかった、班分けではいつも余って嫌々引き取られた、女子に話しかけられても一歩下がられた、あの頃のまさおじゃねえ、俺はまさおを辞めて鉢山紫苑になったんだ!誰にも、まさおなんて呼ばせねえ!!
「黙れぇっ、てめえらまとめてぶち犯してやるァァ!」
「そぉい!!」
拳を握りしめて男女平等パンチで八車の顔面を殴りに行ったが、掛け声とともにまた投げられた。
「あびゃっ?!」
次の瞬間、俺は間の抜けた悲鳴をあげながら再度地面に横たわっている。全身が痛い。ゆるせねえ、絶対に許せねえ。ブチ犯しの刑確定っしょ!!立ち上がりながら怒りに燃えて中指を立てる。
「二度も投げやがって、絶対ゆるさねぇ。顔面が腫れ上がるまで殴ってから、俺のオベリスクで泣くまでゴッドポンチオクラッシャーしてやるぞぉぉぉ!!!!」
「そぉい!!」
「ぎゃんっ!!」
またそぉい!!の掛け声で投げられて悲鳴を挙げさせられる。完全に犯罪だ、これは犯罪だろ?!?!
「こうなったらとっておきだぁ!しおたん!ウルトラ!ファイティング―――」
「そぉい!!」
クソーッ、せめて最後まで技名言わせろ!!!
「ぽげぎゃっ?!」
―――そしてまた背中から打ち付けられて悲鳴を上げる。もう投げられまくって体中が隅々まで痛い。
「……あ、まさお。言い忘れてたけどあたしは古武道やってる家でずっと鍛えてるから。男女であっても小卒ヒキニート野郎に負けはしないよ」
八車とかいう女がしれっという。今更言うんじゃねぇよ?!そんなのずるじゃねーか!!何の罪もない、か弱い俺を滅多打ちにしやがって、外道が!!
「ぐ、ぐううう、ぐそがぐそが、くそがくそが!!畜生、おぼえてやがれ!!」
こんな所にいられるか!俺は家に帰るぞ!!俺は女3人に背を向けて走り出す。俺に暴力を振るいやがって、ゆるせねえ!!ママに言いつけて絶対この落とし前つけさせてやるからな!!!!俺は昨日のバカガキやあのアホ女達への報復を胸に泣きながら実家に帰り、ふかふかのベッドで寝たが――――次の日の昼頃、目が覚めたらまた俺のバズり動画が増えてた。
「【悲報】鉢山紫苑、逆ギレ婦女暴行未遂もクソザコナメクジでフルボッコだドン!!【女の敵】」
それは昨日の八車、レン、キララ達とのやり取りの動画だった。女たちの特定はできないようになっているが、俺が喚き散らしながら何度も投げられている動画が面白おかしく1カメ、2カメ、3カメと駆使して編集されて俺が最大限みっともなくみえるようになっているのがわかる。
――――ハメられた。昨日、俺がキララの所に行くのをわかっていて、アイツらはカメラを準備して待ち構えていたんだ。昨日のアレは罠だったんだ。なんてひどい事する奴らだ、これが、これが人間のやることかよぉぉっ!
『そぉいwwwwwww!!』
『これは世界の恥さらし!!惨めすぎて無惨様www』
『次回、しおたん死す!デュエルスタンバイ!!』
『もうこいつ終わったでしょ。二度と表舞台に出れないねぇ』
『昨日の今日で燃料投下しすぎww』
『いいクソコラ素材がきたなぁ』
『これはそぉいされるしおたんの床打ち音MADが流行る』
頭がくらくらする。足元が崩れ落ちるようだ、力が入らない。
俺は勝ち組で、美しき肉食獣で、飛ぶ鳥を落とす勢いの歌い手様の筈だろ?!それがどうして炎上して、ネット民のおもちゃにされて、笑いものにされてるんだよ……!
なんなんだ。何で、どうして俺がこんな事になってるんだ……?!これは嘘だろ?そうなんだろ?なぁ、誰か教えてくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!
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