第3話 転落の始まり~今更謝られてももう遅い~

 クラスにつくとギプスで腕を固定した様子にクラスの皆から声をかけられたので、適当に転んでこけたとお茶を濁しておく。

 俺が席に着くと、俺の左側の席に朝倉が着席していた。……朝倉とは席が隣同士なのだ。


「隣の席のよしみだから不便なところは手伝ったげるよ」


「ありがとナス!」


 朝倉とそんな雑談をしていると、クラスの中でも3番目位に男子に人気がある草鹿さんが俺の席の近くに来て朝倉と話をはじめた。草鹿さんはよく手入れされた髪に毛先だけ軽くパーマをかけている、おしゃれさんな女子だけど、男兄弟に囲まれているので男子の好きそうな話題や趣味にも造詣が深くて話のレパートリーも交友関係も広いのだ。

 ちなみに胸が小さいことをいじるとスゴ味のきいた怒り方をするので禁句だよ。前に他の男子が胸がない事をセクハラ弄りしすぎた時は漫画で表したら7ページ半くらいは無駄無駄無駄って殴られて再起不能ってたからね。皆も人が嫌がる事は言っちゃだめだぞう?


 そんな草鹿さんは朝倉と仲が良いので朝倉の隣にいる俺も話しかけられることが多いんだけど、何とか朝倉をおしゃれに目覚めさせようとする草鹿さんVS見た目に無頓着でやる気のない朝倉のやりとりはいつもの光景……なのだが今日は、草鹿さんが俺に話しかけてきた。


「ねーねー高遠君、その左手捻ったのって昨日?」


「エグザクトリィ(その通りでございます)」


「もうひとつ聞いていいかな。昨日の夜バズってる動画で寝取られ被害者さんが捻っていたのは左手だよね?」


「君のような勘の良い子は嫌いじゃないよ」


 ……草鹿さんにはばっちり怪しまれていた。タイミングがタイミングだし、しゃーない。草鹿さんは、『ふーん……高遠君フリーになったんだ。へぇ……』と言いつつ、予鈴が鳴ったので自分の席に戻っていった。何その意味深な台詞ぅ。


 それから授業中や昼休みに片手がつかえず不便なところでは朝倉に手助けしてもらったので生活で困る事は無かった。ぬぼーっとしているが朝倉はいいやつである、おっぱいおっきいしな!!

 昼休みには背が高く痩せたオタクな男友達・タテこと立川と、太っているオタクの男友達・ヨコこと横井が昼飯を誘いに来たので一緒に食べた。ちなみに動画編集して拡散したのがこの2人である。名前と特徴からタテ、ヨコの渾名で呼ばれているこの2人も中々キャラが濃くて面白い奴らなのだよー。

 動画編集にお礼を言いつつ賑やかに食堂で食事をとっていると、姫子が俺を呼びに来た


「あの、たっくん。少しいいかな」


 昨日の事だよなー、とため息を堪えつつ頷き、丁度食べ終えた食事をかたずけタテヨコに挨拶してから姫子に促されるままに校舎の裏についていくことにする……が、去り際にタテにパァンと腰を叩かれた。そしてタテの隣でヨコがサムズアップしている。


「―――気を確かにもつでゴザルよヤングメーン。たっくん殿には拙者たちがついておりますゆえ」


「浮気者死すべし慈悲は無い。グッドラック!」


「おー、サンキューな、タテ!ヨコ!」


 そう言って、俺はタテとヨコに別れを告げて姫子の後を歩いていく。……お互い道中は無言だ。 


「昨日の事はごめん」


 人気のない校舎裏につくと、そういって目を逸らしながら謝ってくる姫子


「謝るくらいなら最初からしなければいいんじゃないの」


 俺がそう返すと露骨イラッとした様子を見せている。もう少し態度を隠せ、子供の頃からお前は悪感情を表情に出しすぎるんけど悪い癖だと思うよー。


「浮気して他の男とヤリまくってたってのも最悪だけど、俺が暴力振るわれてるときもしれっと鉢山の側についただろ。

 しかもその後も怪我して蹲ってる俺の事見向きもしなかったじゃん。あんなことされて許せると思うのか?どっちかっていうと浮気よりも暴行されて怪我してるのに放置された事の方を俺は怒ってるよ。証拠映像なかったら俺泣き寝入りさせられてたかもしれないんだし」


「それは……でも、でも、だって、あの時はそうするしかなかったし……」


 嘘つけお前ノリノリで鉢山の擁護してたじゃねぇか!!しかも手首折れて呻いてる俺を心配する様子もなく迷わず鉢山の車に乗り込んでホテルにイってただろっ!迷わず進めイけばわかるじゃねぇんだよなぁ~。


「こうやって謝りに来たのも昨日の動画がバズってるから保身のためじゃないのか?」


「それは違うよ!本当に悪いと思っているんだから!」


 姫子さんや、そう言う割には目が泳いでるぞ。スウィム、スウィムと。五輪選手も真っ青の見事な目の泳ぎっぷり、完全に図星つかれての挙動不審になってるんじゃが??


「まぁ、それはどうでもいいや。俺はもうお前を信用できない」


「……うっ、ううっ、でも、でも」


 何故か悲しそうな顔をするがお前にそんな表情する資格ないと思うんじゃが???何で被害者みたいな顔してるの?悪いの完全にお前だよね、骨折してる俺放置してホテルにいって浮気男とサカってたのお前だよね??


「……つーかさぁ、いつからだよあの歌い手と二股かけてたの」


「それは……その……」


 言いにくそうに口をつぐむ姫子。


「この際だ、正直に言えって。その代わり俺はお前の顔や声はネットで公開しないから」


 ……うん、俺はね。


「……去年の年末、クリスマスの前ぐらいから。個人Vの人気が出だした時にしおたん……じゃなかった、鉢山さんに声をかけられて、それで……」


「ファ~~~~ッ?!ってことは去年クリスマスのデートを当日ドタキャンしたり、バレンタインの夜に急に風邪ひいてあえないっていってきたのも、お前の誕生日に家の用事が入ったって言って都合が悪くなってプレゼントだけうけとってサッといなくなったのもあの鉢山とあってた……ってコト?!」


「うっ……ご、ごめんなさい」


 俺もなんかドタキャン増えたなとは思ってたんだよ。

 でも正月は初詣行ったりと、ドタキャンされてもその後に埋め合わせされたから納得するようにしてたけどやっぱりダウトじゃん!!!

 ギクリ、と擬音がつきそうな様子で固まっている姫子。普通に最悪すぎるんじゃが?!じゃが?!いやこれ幼馴染としても今後会いたくないし普通に絶縁一択でしょ。

 うーん、でも母さんが“多分別れてもあの子は考えが甘いし普通にこの家にご飯食べにくると思うから、その時にママがガツンと言うからね”っていってたしなぁ。そのあたりのダメ押しは母さんに任せるとして、今は俺に出来る限りの範囲で姫子を拒絶しておこう。


「いやーきついでしょ。別れよう……あとこれからは用事がなければ話しかけないでくれ。家が近いし幼馴染ではあるけれど……男女の愛情はもう無いよ」


 暴れ馬専門ジョッキーがインタビューに答えた時みたいな表情をしながら俺が言うと、すすり泣きを始める姫子。


「う、ううっ。別れたくないよぉ。たっくんのことは一番好きで大事な人だったんだから!本当だよ!!」


「でも一番好きで大事だって言う俺とはエッチなことしないって言ってたのに歌い手さんとは裏でヤリまくってたんでしょ?しかも昨日も怪我してる俺の心配よりもホテルへGO!って、それで一番好きって言われても説得力ねーっすよ姫子さんや」


「それは―――!!だって、しおたん有名だし、カッコいいし、私、ずっとしおたんのファンだったから……つい、断れなくて」


 いや、確かに鉢山有名人だしな、そこはわかる。そして彼氏持ちって知っててしかも未成年に手を出す鉢山がゲスでクズ野郎なのもあるけどさぁ、暴力振るわれてるのにノリノリで鉢山を擁護したり、その後も怪我してるのに放置されたのはお前自身がした選択なんだよなぁ。あと時々鉢山の事をしおたんって呼ぶのがにじみ出てるぞ姫子ェ……。


「あの鉢山ってのが彼氏持って知ってて手を出すクズなのはさておいても、一番好きで大事な人とやらが暴力振るわれて怪我してるのに捨て置いてエッチしにいく人は無理、付き合うとか絶対無理」


「あ、あれはちょっとおかしくなってただけだから!今はもうそんなことないから!」


 そうね、鉢山さん絶賛大炎上してるものね、自分も燃えるのが怖くなっちゃったから逃げてきたんだね、わかるとも!いやー、だからといってこっち来んな?


「まぁ、なんでもいいよ。兎も角別れよう。というか、別れてくれ、頼む。これ以上お前を嫌いになりたくない」


「う、ううう、うううううっ、うぁぁぁぁん!どうして?!私は……幸せになりたかっただけなのに……」


 顔を覆って泣きはじめる姫子。鏡の中の世界から出られなくなって消えていくキャラクターの断末魔みたいなこと言いながら号泣してる。なんというか……泣きたいのは俺っすよと、ギブスで固められた左手をみながらため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る