嘘
21歳
嘘
頭がいい狸のハットリは、友人も多く皆に好かれて一見幸せそうな人生を送っている。
「狸当たり」が良く、誰にでも愛想を振りまく彼は、どんな時も円の中心にいる。
そんな彼の悩み。
それは彼はもう200歳を超えるが、死ねないこと。
たいていの狸は6,7年もしたら土に還るが、どうもハットリだけは死ねずにいる。
200歳になるとは言ったものの、特段体に異常は無いし、むしろ健康的な肉付きからは歳を推測することはほぼ不可能である。
ある日、ハットリの話を聞こうと多くの狸が彼の周りに群れた。
ハットリは自分を愛すること、そしてその愛を振りまく事を説いた。
そこに集まった狸達は、その丸い眼の目頭を熱くした。
咽び泣く狸もあった。
ハットリの生きた200年間の内、少なくとも150年はこうして若い狸達に愛を教え説く事に費やしてきた。
またとある日、ハットリはいつものように愛を説いた。
「他狸」を理解しようと努めること、愛するものには献身を惜しまないことを説いた。
そしていつものように、そこに集まった狸達は涙を流した。
しかし、ハットリはこの日200年の人生の中で初めての経験をする。
200年も生きていたら、初めての出来事なんてもう底を尽きかけていたが、こんな事は未だかつて無かった。
丸い眼を潤わす狸達の中に、つまらなそうに毛繕いをする雌狸。
彼女は全くハットリの話に興味など無く、ハットリ教に取り憑かれた親に仕方なく着いて来たらしい。
彼はハッとした。
彼女の名がマコトであること、彼女もまた頭が良いこと、そして彼女は森一番のいじめられっ子である事を知ったのは彼女が擬死した日のことだった。
ハットリは彼女の死を長い間引きずった。
200年も生きてきたのだから、たった一匹の狸との死別などもう慣れっこだったはずなのに。
大切な狸が亡くなれば一日中泣き喚いて、また大切な狸に出会う。
そんな事を繰り返す200年だったのだから。
ハットリは泣く訳でも無く、悲しむ訳でも無く、しかし毎日毎日彼女の死を悼み続けた。
ハットリはやがて例の集会を開くことは無くなった。
この事を多くの狸が悲しみ、ハットリを心配した。
ハットリはそんな狸達を馬鹿だと思った。
そして、自分が誰よりも賢くて誰よりも惨めな生き物だと悟った。
ハットリは死んだ。
この世は惨めだと、自分は愚かだと知ったその日に。
この物語を作ったのは俺だと自慢気に話す狐のソラはもう今年300歳になる。
こいつに友達など居ない。
もちろん自慢気に語りかける相手なんてのは、妄想の中の狐のトウマに決まっている。
ソラはマコトに会いたかった。
嘘 21歳 @nisemono_fake
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます