第17話 竜の眼

 EUにおける最上位レアリティ「Ⅹ」。

 いわゆる激レア中の激レアアイテムと言って差し支えないアイテム――その一つが

 その入手方法はただ一つ。エンドコンテンツの頂点「螺旋の塔」で行われるギルド頂上決定戦で優勝すること。

 と、入手難度はクッソ高いのにその用途は専用武具の製造やスキン化、特殊アイテムへの錬成など無数に存在する沼アイテムだ。


 俺が「きのぼう」に配合できていない素材の一つでもある。


 ――欲しい。正直喉から手が出るほど欲しい。


「どうかな? 湊くんのきのぼうがあれば、良いとこ行けると思うんだ~勿論私たちも頑張るし!」


 しかし、あの熾烈極まるギルド対抗戦を初心者3人と隠居ボッチ1人で勝ち抜けるわけがない。優勝賞品が竜の眼となれば、各所から熟練ユーザー・ギルドが参戦することは目に見えている。


「……すまんがパスだな。あんまり目立ちたくねえし」


 しばしの沈黙。


 宇垣は俺の返答をある程度予想していたのか、すぐに驚いたりはせずアイスを黙々と食べきってから小さく「ごちそうさまでした」と言った。


 そうして、俺と向き合う。


「やっぱ急に参加してもらうのは厳しいよね、ごめん。あの二人も押しかけて迷惑かけちゃったし……重ねてごめん。ただね――」


 その瞬間、宇垣は少しだけ悲し気に笑った。


「――大事な友達と、少しでも長く一緒に遊びたいって思っちゃったんだ……えへへっ、変だよね、ごめん」


 たかがゲームだと言ってしまえばそれだけのことである。


「……」


 だが、されどゲーム。彼女の表情にはどういう訳かそれだけではない何かがあるような気がしてならなかった。

  

 影。


 それが昨日宇垣と初めて過ごした時からずっと感じている違和感。


 こうして夕飯時を過ぎても尚ファミレスでダラダラと時間を潰しているこの瞬間にも、俺の中の違和感は膨れ上がっていく。


 宇垣はずっとEUを開いて雑魚狩りを片手間に繰り返していた。時折かかってくる誰かからの着信にも反応せず。


「……」


 彼女にちらつく謎の影を俺はどうにも見過ごせない。が、影に近づくには実体である彼女自身のことをもっと知る必要があるだろう。

 ……そして、俺と宇垣を繋ぐのはただ一つ、EUだけだ。


「ごめんね、湊くんに迷惑かけるつもりはなかったし、やっぱりこの話はなかったことに――むぐっ!?」


 思考がまとまる前に、手で彼女の言葉を遮る。


 俺は俺が何をやろうとしているのか、良く分からなかった。


 ただ、


「――やるからには、勝つぞ」


 俺は、昔っから負けず嫌いなだけだ。

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