第14話 合理的判断とギャル
「キミさ、EUスゴイ上手いんでしょ? あーしとフレなってよ~。あ、ってかまず連絡先交換しよ? ちなみに私の連絡に5分以内に返信なかったら罰金ね」
いきなり俺の前に現れたのはキャピキャピなギャルだった。
シュシュで留めた金髪ツインテールをぶら下げて、派手なネイルを携える。
え、というか5分以内返信ってマジ? どこの自動返信Bot?
「てか、から揚げ美味し。ウケんだけど」
もう一度言おう。ギャルである。
なんでウケてんだよ。てかから揚げ喰うな。
勿論、俺の中の危機回避センサーはこの事態を回避すべき事案として計測している。
「え、ええと俺、連絡先と言えるような媒体を持ってなくて――」
これぞ完全な緊急回避! あらゆるモンスターの攻撃を最小限最低限のコストで避ける俺流の戦闘スタイル!
「あーそうだ、――私の裏垢、すっごいえっちな画像上げてるんだけど、知りたい?」
「アカウントIDメモしておきました、これでお願いします。ギャル様」
知りたいです。教えてください、アカウント。
クソ気持ち悪い一句読んでしまいそうな勢いである。
「ギャル様って何、めっちゃウケる。まぁいっか。とりま契約成立ね」
くっ! 不甲斐ない俺! 脅しに屈するなんて! こんなはずでは!
いや、脅しって怖いなぁ! こういうギャルのモノ言わぬ脅しに屈する俺ではなかったのに!
あぁ! 決して下心におぼれて反射で答えてしまったとかではない!
そう! 断じて!
「楽しそうに話しているところ悪いが、そこの風紀を乱している女子生徒。まず名を名乗るべきじゃないか?」
と、自己防衛に必死な俺の眼前に座る八重樫がカットインしてくる。
「え~? なに、キミ湊くんの知り合い? おっかしいな~湊くんはボッチだって聞いてたんだけど……?」
とんだ不名誉な噂である。
だがしかし、俺には今八重樫というイマジナリーフレンドが――
「ふむ、それは間違いじゃない。客観的事実だ」
バカ、俺の前でボッチを肯定するな、どつくぞ。
「じゃ、キミ誰?」
「僕は彼の同級生、八重樫学だ。さ、次はキミの番では?」
なぜか睨み合う両者。
ぴりついた空気が漂う。
「あーしは、白井千紗。D組」
「――らしいよ、湊」
なぜか突然会話のボールを俺に渡す八重樫。
いつ爆発してもおかしくない爆弾を俺に渡すな!
「え……いや、らしいよって言われても……」
「そうやってキミは黒髪美人の名前も聞けてないんだろ? こういう突然押しかけてくる人間に耐性がないのは仕方ないが、名前くらいは最初に聞いておく方が合理的だ。じゃないと呼び方に困る。そうでしょう? 白井さん」
そして今度は白井——と呼ばれたギャルにボールを回す。
なんだこいつ! 会話の魔術師だ! 合コンとかで会話を大回しするタイプの奴だ!
「へ? あたし? え、あ、そ、そうかもね八重樫くん……なんて……」
ほら見ろ! ギャルも困惑してるじゃねえか!
「これで僕の用件は済んだ。どうぞ後はお二人でごゆるりと」
八重樫はそう言ってぺこりと頭を下げると、食べ終わった食器を持って席を立ってしまった。
「……行っちまった……」
取り残されるギャルと俺。
「え、えーと、湊くん。とりまそういう事だからEUよろしくね。……ちなみに八重樫くん、さっきの感じ怒ってるかな? あーしそういうの鈍くてさぁ」
ギャル白井が気まずそうに俺に問う。袖をまくってスカート丈を校則ぶち破って短くしている彼女だが、問うている内容は至極まっとうな人間のソレである。
「いや、アイツはアレが普通だから、多分大丈夫かなと……」
「そ、そう? ならよかった……あ、ごめん、ミキたちに呼ばれてるみたい……それじゃまた後でよろしくね」
「う、うい……」
他のギャル友に呼ばれたらしく、白井は俺の元から去っていく。
そうして、俺一人が円卓に残った。
気付けば、スマホの画面には先ほどのギャルの連絡先が登録されていた。
今朝の黒髪美人と言い、さっきの白井と言い。
なんだ、何かがおかしい。
昨日までの俺の生活が音を立てて崩れていくのを、俺は感じていた。
ピロン。
「……ん?」
スマホにやってくる、聞きなれない通知音。
俺がついさっき入れたSNSアプリのモノだった。
『さっきは突然ごめんね~、これ、お詫びの印』
陽射しを遮るように、左手で目を隠して、
零れんばかりに実ったたわわな果実を右手で可能な限り覆った、
一糸まとわぬ姿の女性の自撮り。
『ど? 興奮した? EU手伝ってくれたらもっとすごいの見せてあげるよ♡』
……………
早く帰ってEUしてえなぁ。
昼食時を終え、少しずつ閑散としていく食堂の中で俺は天を仰ぐのであった。
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