第7話 配合

「――配合ってそっち!?」


 この部屋に入ってすぐディスプレイに自分の携帯を接続し、EUの世界にログインした宇垣の姿を見て、俺はすぐに気づいた。


 宇垣は俺を見上げながら、きょとんとした表情で首をかしげる。


「――へ? そっちって?」


 いえ、こちらの話です。とはいえず。


 「EU」には「配合」というシステムが存在する

 任意の物体2つを組み合わせて、新たな物体を生み出すモード。

 物体はアイテムでも武器でも何でも良く、何が出てくるか分からないドキドキ感がこのシステムの魅力だ。


「私最近EU初めてね、一度でいいからアイテム配合やってみたかったの。でも暗がりの山窟クリアしないと解禁されないでしょ? あそこ何回やってもダメでさぁ~」


 比喩とかじゃなくてホントにゲームの中で配合したいってだけだったのね。

 と俺は合点する。


 でも、でもさぁ……紛らわしいよマジで! 男子高校生の煩悩を舐めないでほしい!


 少しばかり怒りに震えながらも俺は久しぶりにやる「プライベートでのEUマルチプレイ」に心を躍らせていた。

 

 ――と同時に、疑問が生まれる。


「……あれ、なんで俺がEUやってることを……?」


「え? あ、あぁ、それは……」


 そう。こんな現実はおかしいのだ。


 確かにEUは老若男女を問わない圧倒的なプレイ人口を誇るゲームだ。クラスの中でもほとんどの人がやっている。

 でも、

 わざわざクラスの端っこで一人ゲームをしている俺をピンポイントで狙ってきたのはなぜだ? ウチのクラスで言えば佐渡とか山岸が「EU」の話題で散々威張り散らしているのを、隣のクラスの彼女は知っているはずだ。


 しばしの沈黙の跡、俺の疑いの目に耐えきれなくなった宇垣は、少し気まずそうな顔をしながら口を開いた。


「――き、昨日のことなんだけど、さ。見ちゃったんだよね、私」


「……見た?」


「う、うん、」


「見たって、何を……?」


 聞くまでも無いとは分かっていた。

 でも、聞かないわけにもいかなかった。


「きのぼう+9999……」


 きのぼう。


 このゲームを始めた時にプレイヤーが装備している初期武器。


 攻撃1、スキル無し、売却金額1ゴールド。何の変哲もない、ただの棒きれ。

 それを9999回以上「配合」したというだけの話。


 なんだそれ、と笑い飛ばせばよかったのかもしれない。

 

 でもできなかった。

 それは、そのアイテムは、EUそのものだったから。


「――昨日酒場で人助けしてたMってプレイヤー、湊くんだよね……?」


 迂闊に聞かなければよかった、今でもそう思う。

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