第5話 魅惑のお誘い
「あ、待ってたよ~湊くん、わざわざごめんね」
屋上で待ってくれていた謎の女子生徒は、風になびくショートボブの髪を手で抑えながら、にこやかな笑顔を見せた。
「待たせて申し訳ない。で、話って?」
単刀直入に切り込む。生憎俺のようなコミュ障に他愛もない世間話を出来るほどの胆力は無いのだ。
「あー、うん、そのことなんだけど……」
歯切れの悪い反応だ。……もしかしてこの子ホントに俺からカツアゲしようとしてるのか? カツアゲへの罪悪感からくる躊躇いか?
などと冗談めいた思考を巡らせながら俺は彼女を見つめる。
茶髪のショートボブヘアー。やや低めの背丈に、優しそうでおっとりとした表情。
全体的に漂う清楚さと愛でたくなる小動物のような雰囲気とは裏腹に、出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる隠れナイスバディ女子。
……ふむ。やはり俺はこの女子のことを知らない。同じ学年かどうかも怪しい。そもそもこんなかわいい女子と俺に接点があるわけがないしな。
「……よし、もう大丈夫、言える言える。言うんだ、私。頑張れ、私。」
俺がひとしきりの分析と自虐を終えた頃、彼女は意を決したように俺に切り出した。
ぱっと明るい感じで、
まるで何かを思いついたように、
「み、湊くん、私と配合してみない?」
「……え?」
配合? え? 俺と?
……え?
いや、配合ってねえ。
交わり的な、受粉的な、大人の階段的な、あれ?
……いやド下ネタじゃん。
清楚な顔してド淫乱か? この人。
顔赤らめて言うことではあるけど、それにしても堂々と言い切りすぎじゃないか? というかそういう行為のことを「配合」って表現する感性、特殊過ぎない?
無限に浮かぶ「?」をよそに、彼女はもじもじしながら俺に近づいてくる。
じりじりと、俺の逃げ道を奪うように。
「だ、ダメかな……? あんまり人前で頼めることじゃないし、安心して頼める人も湊くんしかいなくて……」
俺は、――
「――喜んで!」
爆速で応答していた。
「ほんと!? やったぁ!」
なんなら右手まで上げていた。
授業参観に親が来て「良いとこ見せなきゃ」と張り切っている小学生みたいな勢いで天を衝く右手。
「じゃあ早速この後配合しよ! 場所はそうだねぇ……どこかのネカフェとかでしよっか」
ネカフェ!? 初回からネカフェ!? 難易度高すぎない?
え、てかなんでそんな手慣れた感じなの? もしかしてこれは、罠か……!?
「ん? どうかした? 湊くん……もしかして私と配合するの嫌だった?」
人差し指を口に添えて俺の様子をうかがう彼女。
プルンと揺れる胸に俺は気を取られてしまった。
「とんでもない! 善は急げだ、行こうか!」
前言撤回。気を取られるどころか精神を侵蝕されていた。
「誘ってみるもんだね~ふふっ。たのしみだなあ、湊くんとの配合」
言いながら彼女は屋上の出口へと向かった。
その後姿にどことない背徳感を覚える。
……俺はこれから、彼女と配合する。
人生初の、配合。男女の配合。
あばばばばばばばばばばばばばばばばばばあ
心の中のリトル湊が躍動する。
俺の性春ラブコメは今ここから始まるんや!
いざ行かん! 約束の地へ!
……ってあれ? 俺この子の名前聞いたっけ?
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