第五章:最初の一歩。

05/11日


今日は体育祭の練習があるらしい。高等部全員で校庭に集まり、説明を聞いて、練習をする事になった。


競技は【ダンス】【徒競走】【リレー】【大玉転がし】の四つで、今日は徒競走の練習をするのだとか。俺は、十七番目に走るらしい。


順番待ちをしていると、俺の目の前に宝城さんがいた。


折角近くに居るからまた何か話したい。


何とか話題を絞り出そうとしていると、彼女の靴に目が止まる。


靴底の一部分が剥がれて、靴下が見えていた。


昨日は雨が降っていたので、靴下が汚それうだったので、この話をする事にした。


俺「あの…宝城…さん?」

宝城さん「うん?キミは…奏くんのクラスの…磯島君。」

俺「あ、あ、ああああの…あの…あの…あの…え、えええ、え、えっと…えっと…その…えっと…」

宝城さん「うん?(クスッ)どうしたの?」

俺「その…えっと…靴底に穴…空いてますが、だい大丈夫そう…ですか?」

宝城さん「そうそう、そうなんだよねー。買い換えなきゃなぁ…ん?!あれ?右側もじゃん!!」

俺「あれま、本当だ。うーん…と昨日雨降ってますし…泥濘も出来てると思うので、気を付けてくださいね。」

宝城さん「ありがとー。」


やはり、この程度で会話が続く訳がなかったが、話が出来て心から嬉しかった。


そこからは普通に練習して、体育祭練習を終わらせる。


あれ以降、俺から積極的に話しかけに行った。


話を聞いてくれるだけで嬉しくてたまらなかった。


そこから【友達】になれた気がした。


それから俺の毎日は変わる。


クラスメイトと話し、宝城さんと話し、他クラス、他学年の人、色々な人と話せるようになり、俺の毎日が幸せな日々に変わっていった。


とても幸せだ。


だが、こんな幸せな日々は人を騙して作った幸せ、こんなの許されるわけがない。


俺の心は罪悪感と嬉しさの二つの気持ちに裂けた。


いつまで隠し通せるのか、毎日恐くて、怖くて怖くて、仕方がない。


いっその事言ってみようかとも思った。


でも、そんなことしたら、また嫌われて、避けられて、また一人孤独になってしまうかもしれない。


俺はもう、何も分からない。


でも、毎日が楽しい、その気持ちは紛れも無く真実で、何よりも皆の俺への気持ちは暖かかった。


だが、ある日墓穴を掘ってしまう出来事が起きた。


いつも通り話している時、俺はこんな質問をした。


俺「皆は遠足とかって行ったことある?」

宝城さん「うん、あるよ~。」

遠藤「コク…」

浦三「おん。」

宝城さん「 懐かしいね〜、遠足。小1の時に学校の行事で行ったよ〜。 」

浦三「それなー。」

遠藤「コク…」

宝城さん「磯島君もやっぱり行った?」

俺「え?…あ…う、うん。うん!行った行った!」

宝城さん「楽しかったよねー。」

俺「…うん。」

宝城さん「?」


俺は嘘をついてしまった。


小一、即ち俺が一番荒れていた時期。


楽しい事など有る訳がない、今でも小学生だった頃の自分の夢を見る。



何かやらかす度、父に説教される。


父 「お前はどうしていつもいつもそうやっていろんな人に迷惑をかけるんだ…いい加減にしろよ!!なぁ!!」


もう何度聞いた言葉だろうか、俺は当時の記憶を鮮明に覚えている。


慌てて話題を変えようとすると、遂に恐れていた事を、宝城さんに聞かれてしまった。


宝城さん「そういえばいつも、磯島君だけ、あまり小学生の時の話しないね?もしかして嫌だった?」


遂に痛い所をを突かれてしまった。


自分人身の精神面で、これ以上隠し通せないと判断し、俺は腹を括り、話す事にした。


俺「そうではなくて……ハァ…実は皆に隠していた事があるんだ。」

皆「ん?隠していた事?」

俺「…………俺、小学生の時、親も手に負えない程、荒れていたんだ…恐らく小学生の時の俺を見たら引くと思う。それ程荒れてたんだ…だから、友達だと思っていた奴皆中学に上がると、俺の事を睨み、避けられて、無視された。その事実を隠して、性格を作って、今の【自分】を作り上げた。」


その事実を遂に言ってしまった。もう後には引けない。100%引かれた、嫌われた。あんなに欲しかった友達を失ってしまった。そう思っていたが、皆の反応は意外な反応だった。


宝城さん「あ、そうだったんだぁ。へぇー…何か以外、すっごく優しいからそんな風には見えなかった。誰にでもそういう過去はあるんだね〜。」

浦三「そうだな。本当に以外。」

遠藤「ウンウン…」

俺「え?何も…思わない…の?俺…皆を騙してたのに……」

宝城さん「誰も騙されたなんて思ってないよ、それに、【騙す】じゃなくて、【自分を変えてる最中。】だと、私は思うよ。」

浦三、遠藤「ウンウン」


まさかの反応に、涙か止まらなかった。【過去】ではなく、【今】が大事なんだと、実感した。


第五章(終)

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