壱【蝦夷地へと潜入せし二人の事】・side舟4
函館は、小さな町だという。
古くから蝦夷と呼称された北の地は、戦後の改革により囚人の収容地へと変わった。囚人の収容のために準備されたにしては、土地の面積は広く、実際に収容施設として使われているのは十パーセントにも満たない。
そこで彼らは、開発をさせられている。
開発――土地の開発・開墾というわけではなく、技術や機具などの開発である。
都の企業が自社の職員だけではできない仕事を、または自社の職員に任せるには危険な仕事を『彼ら』に行ってもらおうというのだ。実際に少なからざる事故が起きているというし、亡くなる囚人もいるというが、職員の事故はまだ一件も起きていない。
その職員らは、基本的に囚人らと寝食を共にするということはなく、函館の町と職場を往復するという生活をしている。そんな町が、函館にはあった。
あった。はずなんだ。
僕らが桟橋から函館の地にやってくると、聞いていた町はなく、そこには門があった。
コンクリートの塀と厳重な鉄の扉。
聞いていた風景とは、違っていた。
僕らは三人の囚人と一緒に刑務官に船から下ろされた。
でも、玄海さんは降りてこない。
何でだろうか。
「扉を過ぎて、中央収監施設へ向かってもらう。普段ならば、そこから各収容所へ向かってもらうのだが……現状リニアは運行停止状態にある。中央収監所で、一度拘留とさせてもらう。異論は認めない。では、行くぞ」
『はい!』
元気に返事をさせられ、歩かされる。
刑務官たちは、小脇に銃を抱えていた。
施設は、彼らの網膜と指紋、カードキーで開いた。
「あの、すみません……」
僕は、傍らの刑務官に小声で話しかける。
「黙れ!」
「え!?」
唐突に、怒鳴られる。
「貴様らに、人権はある!」
「は――?」
いきなり銃床が鳩尾に叩き込まれる。
「ぐっ――」
「勝手に話しかけろ」
「……何を」
腹が痛い。
でも、無理矢理立ち上がらせられる。
「なんか変だ」
そう柴崎さんが叫び、自身の手錠に力を入れた。
「あれ?」
「粛正!」
刑務官らが一斉に叫び、柴崎さんへ銃を振るう。
すぐに彼は地面に打ち伏せられ、頭から血が流れるほどの暴力を浴びせられる。
僕も手錠に力を入れてみる。
でも、その手錠は外れるようにはできていなかった。
「……え?」
「彼らは、侵入者らしい。ここで生きていてもらうしかない」
一斉に銃が向けられる。
絶体絶命だった。
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