壱【蝦夷地へと潜入せし二人の事】・side舟3

「じゃあ、囚人側は囚人服を着てくれ」

 という刑部卿の一言で、僕らは着替えさせられることになった。


 柴崎さんがすぐさま脱ぎ始めて、見事に鍛えられた体が露わになる。

 続けて脱ぐ身になってほしい。


「土御門さん、こちらを」

「はい?」


 甲斐さんの手より薄手のベストが渡される。


「最新の防弾ベストです。従来品の半分ほど、それでも防御は十二分に。さらに様々なポケットが大量に」

「ポケット……、ありがとうございます」


 僕がそれを素肌の上に着込むと、玄海さんが近づいてくる。

 服の下に着るのにポケット? と思ったが、そこに何枚も紙が突っ込まれた。


「とりあえず使えそうな式神を折って突っ込んでおく」

「はい。あ、ありがとうございます」


 僕はとりあえずされるがままになる。

 様々な紙片がポケットの中に何十枚と。


「武器……は、あっても無理か」

「ナイフも拳銃も心得はないですよ」

「はあ……お前がもう少し昼の稽古に行かんか?」

「ゴリゴリの他の人と稽古して生きて居られますかね」

「まあ、無事帰ってこられたらだな」


 最後に何か硬い物がポケットにつっこまれ、そしてこっそりと一枚の紙を渡された。

 自分は耳を指し、もう片方の手の人差し指が口元に当てられる。

 僕は防弾ベストの背中側の内側に張り付けて隠し持つ。


「では、仕事をしますか」

「おう、行ってこい」


 本物の刑務官が二人やってきて、僕らに手錠をはめた。

 足にも鎖が渡される。さらには腰ひもも。


「お二人には、特別な手錠をご用意しました。身の危険を感じたときには、強く引っ張ってもらえると、鎖が取れます――っと、今はやめてくださいね、替えはないので」

「すみません」


 柴崎さんが、いきなり試してみようとしていたらしい。


「では、他の囚人に交じっていただきます。ここからは我らも囚人として扱いますので、ご容赦願います」

「はい」と僕が普通に返答する。


 が、そこで刑務官は、すっと笑みを消して言う。


「声が小さいですよ。本当なら、怒鳴っているところなので気を付けてくださいね」

「は、はい……いえ、はいっ!」

「よろしい。では、船へ」

『はい』


 柴崎さんの大きな声とキレイに揃った。



 

 船には、すでに三人の囚人が乗っていて、あとから乗ってきた僕らをぎろりと睨んできた。


「さっさと座れ。すぐに出航だ」

「はい」


 僕は促されるまま、一番近くの席に着く。

 隣には、顔にまで刺青の入った若い男がガンを飛ばしていた。


「……」


 顔をジッと固めておくしかないな。

 めんどくさそうな相手だった。


「てめえよぉ……何したんだよ」

「はい?」

「オレは鉄砲玉でよ……しくったけどな。てめえは、なんだよ」

「僕は、何もやってない」


 つい口を付いて出た。

 此間まで、本当にあったことだったから……

 途端に、こいつは馬鹿みたいに笑いだした。

 刑務官が「うるさい。静かにしろ」と怒鳴る。


「くけけ……、もう向こうに着いた気でいるのかよ」

「?」

「おい、聞け。そいつは殺しだってよ……さっき聞こえたんだ」


 柴崎さんが代わりに言った。


「おとなしそうなナリをしてるが、結構なサイコパス野郎みたいだぞ」


 何言ってるんだと思ったが、変に絡まれるよりは怖がってもらった方がいいだろうという判断なのだろう。

 まあ、それでいいかと納得する。


「さっきの」

 僕は、小声で聞く。

 怒られたくはないし。

「向こうに着いた気? ってなんのことです?」

「はあ? 知らねえのかよ」

「ええ……」


 逆にこの人はなんで知ってるんだ。


「うちのグループの噂でな。聞こえてきたのよ。向こうは、もう蝦夷ではないらしいぜ」

「え?」

「向こうは、嘘のみが真実の国・嘘つき村なんだってさ」

「嘘つき村?」


 まるで冗談みたいなことを、彼は真面目な顔で言った。

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