壱【蝦夷地へと潜入せし二人の事】・side舟2
徳川刑部卿との調整で、僕らは2日後の夜に弘前へ到着という日程となった。他の者たちは、都より空路で弘前港へと向かうらしいが、こちらは陸路で、遠野に寄り道するわけである。
少しばかり余裕を持った、重役出勤である。
徳川刑部卿が満足そうにして微笑んでいると、部長はおもむろに僕らの耳元に顔を寄せる。
「気をつけろよ」
「はい!?」
僕はいきなりのことに驚く。
玄海さんもまた「要らんことすんな」と怒りつつも、部長の腹芸はわかっているようだ。
「何か掴んでやがるな?」
「最初に途絶えたという網走の収容所だが、カメラが消える直前の映像がある。徳川卿とは別ルートでもらったデータでね。君等の端末に、送っておくよ」
「何が写ってた?」
「夜警の本分かもってところだな。実際、軍部の人間よりも陰陽師の方を多めにスカウトしてるって話だからね」
彼は飄々と言うが、実際だいぶヤバい状況ということだろう。
しかも、恐らく葉子みたいな本物の案件ということに。
「本物だろうと偽物だろうと、陰陽師の力は彼らに通じる。問題は、それの目的とどういう理念で動いているかだろう。この前みたいに場の力さえも利用されているとなると強敵だろうからね」
といいながら、部長が時計を見る。
そろそろ出発しないといけないか。
遠野の手前で一泊することになるだろう。
「かぁ、このまま出発かよ」
玄海さんがスネる。
「しかも、護送車で、ですよ」
「コイツは、寝不足で北海道入だな」
ちょっとだけ後悔し始めていた。
二日後、弘前港前。
硬い床と椅子に揺られながらやってきて、寝不足ではあるし、背中も腰も痛い。
玄海さんは、腰に手を当てて背中を反らし、背骨をボキボキと鳴らしている。だいぶダメージだったようだ。
港には、徳川卿が待っており、僕らを笑顔で出迎えた。
「やっと来たな。すでに八組がすでに海を渡って函館に向かった。こちらも今から向かう」
ふと見渡せば、軍部に所属しているだろう恰幅のいい男2人が徳川卿の後にいる。
「向かう前に役割を決めておきたい。慣れた二人組で組ませるべきなのかもしれないが、陰陽師と兵士が1人ずつの組を作り、片方は刑吏として、片方は囚人として潜入してほしい」
「そんな……玄海さんが強面だからって」
「おい!」
怒鳴られた。
「土御門、言っておくが刑務官のほうが危ないからな」
「ぐっ……」
玄海さんを見ると、思いっきり舌を出してからかうような顔をしていた。
くっ……、危険ならばおとなしく捕まるしかない。
「じゃあ、そっちはどうする」
軍人の2人は一瞬顔を見合わせ、1人が手をあげた。
「私は柴崎と申します。所属は申せませんが、情報収集の部門におります。私が囚人を」
もう一人も前に進み出て言う。
「甲斐です。同部門の出身ですが、戦闘部隊経験もありますので、私が刑吏を務めます」
こっちはあっさりと担当が決まったようだ。
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