壱【蝦夷地へと潜入せし二人の事】・side舟1
僕らは護送車へと乗り込んで、遠野の地を離れていく。
『異質な』もの、死ぬなと言われたこと――頭の中で不安に変わる。
何が起こっているんだろうか。
僕は、出かける前に部長に言われたことを思い出す。
◇
カタを陰陽寮本部に受け取りに向かった際のことだ。
陰陽寮長とともに、一人の男がカタの牢の脇に立っていた。
彼は寮長とは対照的な洋装で、それもかなり高級なスーツだ。
「え? 徳川
「裁判以来だね、というのはさすがに変な挨拶か。彼の釈放に際し、ちょっとばかり取引しないか」
「でも、そもそもカタは無実って」
「無実だといっても、彼はそもそもが
「得って……」
付き添いで来ていた加茂部長が僕の肩を叩く。
「でも、それが終われば、もっと力を貸してくれるってよ」
「相変わらず、裏取引かよ」
玄海さんが舌打ちする。
それに徳川刑部卿は大笑いして、続けた。
「嫌いじゃないよ。そんな面白い男は」
「はあ」
「で、協力してくれるか?」
僕らは一度目線を交わし、深く頷いた。
陰陽寮の奥、寮長室を貸し切り、僕ら四人で秘密の話し合いである。
部屋の主だというのに、寮長は外に追い出されてしまった。
「つい五日前のことだ」
徳川さんは、話し始めた。
彼の説明では、蝦夷地内に七か所の囚人収容所があり、囚人たちはそこで生活をし、日中の業務として収容所の周囲の開墾や開発といった仕事が課されるのだという。しかし、それに異変があった。
「最北の地・
「銃も奪われた可能性が高いと?」と僕。
「各収容所にそもそも武器が置かれている。収容所が墜ちた時点で、武器は囚人らの手に渡ったと判断した。それで重武装をして向かわせたわけだ」
「しかし、それが四日前ですよね。それからは?」
「その次の日には、さらに二か所。その次には完全にすべての収容所からの連絡が途絶えた。こちらからも救援は送っていた。札幌の本営の車両がすべてなくなるほどに」
ん?
「ちょっと待ってください?」
「どうした、土御門」
「いえ、それって逆に向こう側が攻めるチャンスってことにならないのかなと思いまして」
「それは問題ない」と徳川さんはきっぱりと言い切る。「すでに鉄道の運転に必要な電源は完全に遮断している。動くことはないよ」
なんだか不安だが、対策はしているのだろうと思うことにする。
そこで玄海さんがパンと膝を叩く。
「まあ、つまりは乗り込めってことですね」
「そう言うことになる。他にも数名の優秀な戦力に声をかけているから、彼らと共に蝦夷に行ってほしい。もちろん私も行くわけだが……」
「それで、その見返りってのは?」
「ちょっと玄海さん!」
「いや、当然だ。それを交渉のテーブルに載せない訳はないさ。私が出来うるだけのことをなんでも与えると約束しよう。例えば、金なら徳川家が傾くところまでの金ということになるだろうな」
「そんなこと約束していいんですか?」
「他の国に、混乱に乗じられても困るということだよ」
徳川さんの真剣な目が、僕らを見据える。
僕らは、任務を受けることを決めた。
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