陸【終幕】・2

「なあ、カタはここに連れてきて良かったのか?」

 と玄海さんは、こっそりと僕に耳打ちをする。

「いいんじゃないですか。問題はないでしょう」

 

 カタの正体を、僕は一つ推理する。


 長い髪、整った顔立ち、都を中心に活動していた点。

 そこから推察されるのは、『都の九十九神』ではないかということだ。

 または、「帝の相談役」のカケラとでも言おうか。


 カタには、何も告げていない。

 それで祓われてしまうこともあるかもしれないと判断したからだ。

 だが、彼がどうして放浪していたのかという謎が残る。そこに僕は、「今回の『猫』のような信じられないエラーが起きたのではないか?」と推察する。


 火事で焼失した都と、現在の東京。

 二つの都のはざまで、彼は――都の守り神は迷子になってしまったのでは、と。


「そして、ほら、もう都は人の手で守っていくものだってことじゃないですか?」

「そうかも、しれんな」



 

 にゃあ。

 草むらの中で、猫の鳴き声がした。


「ああ、そうだ」


 葉子は、パッと草むらの中に手を入れ、猫を引っ張り出す。

 灰色で毛並みのつややかな猫であった。


「この子も挨拶がしたいって」

「この猫は?」

「この前、迷惑をかけたから謝りたいとも言ってる」

「まさか……」


 本当に、実体を持つとは。

 まだまだ驚かされることばかりだ。

 これだから世界というのは、分からない。

 新しい猫の怪異が形となるのも。

 都が人のカタチを持って生きることも。

 一匹の狐がそれに恋をすることも、世界の不思議である。



 

「あっと、そうだ。息子には、母のことは心配するなって言ってあげてくれ」

「息子⁉ 誰?」

「二人とも会ってたじゃないか……」


 玄海さんが、俺の肩を叩く。

 懐の手帳を取り出して、『葛城葉子』と書く。

 そして、城と子とを指で隠した。

 

 はっとなる。

 そんな話もあったな。

 葉子ようこというのもまた、彼女なりのジョークだったようだ。


          <終>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る