壱【闇夜に怪しき人影を見つけし事】・13
部屋を出ると、玄海さんが一人の男と睨みあいの現場だった。
警察局は、面倒ごとの集合体か何かなのか?
「小野、邪魔だぞ」
「いえいえ、ご活躍された先輩を労いたくてね」
「気持ちもないくせによ」
小野と呼ばれた男は、玄海さんよりも若く、本当に対照的だった。
厳つさの溢れる見た目の玄海さんに対して、その人はひょろりとした体躯をし、うりざね顔に細い目という、今まさに管から出た管狐のようであった。
「おっと、彼が新しい相棒ですか?」
狐のような目が僕をギラリと睨む。
「おい、変な風に絡むなよ」
「なんです? 普通にご挨拶したいだけじゃないですか」
小野さんは、ゆっくりとこちらに歩いてきて、手を差し出してくる。
僕はその手を握り返す。すると、向こうは口でも切れたのかとでも思うほど、にんまりと笑った。
「よろしくお願いします。
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします」
「加茂先輩にはこちらも大変に、お世話になりまして」
『大変』を異様に強調して言うのは、明らかに嫌味っぽく、それだけで彼の性格の悪さを強く理解できた。
仕事ができるタイプなのかもしれないが、こちらとしてもあんまり関わりたくはない。
彼は手を離すと、急に真顔に戻った。それがさらに恐ろしかった。
「なにかありましたら、私の方が相談になれるかと」
「ええ。その時はよろしくお願いいたします。ですが、まずは玄海さんにそれよりも基本的なことを教わっている身ですので、まずは仕事が一人前にできるようになってからかと」
「……そうだね。では、また」
面食らったように、今度は苦笑いが彼の顔に浮かんだ。
それを聞きながら、玄海さんが後ろで笑っていた。
小野さんは、そのまま報告に向かい、僕はやっと解放されたようだった。
「くく、なんかお前に変な幻想でも抱いてたのかね」
「こういう職場は、やりにくいですね……人間関係が特に」
「面倒なのは、アイツだけだ。さて残った仕事を片付けて、いったん帰ろうぜ」
仕事前にアパートな、と小声で言うと玄海さんは事務仕事に戻った。
僕は「ですね」と返し、顔に出さないように気を付けつつ報告書をまとめる。
一晩眠らないというのは、こんなにも大変かというほど頭は疲れていた。
鈍い頭をどうにか働かせ、仕事を終わらせるとまっすぐ家に帰った。
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