壱【闇夜に怪しき人影を見つけし事】・12
さっさと寝ろと玄海さんが葉子に言い残して、僕らは夜の街に戻った。
バタバタしているうちに二時間が経っていた。
丑三つ時もあと少しで終わる。
ここからまた少しだけ見回りをして、三条にある警察局の本部へと戻るわけだ。戻った先で加茂義徳夜警部長に昨夜のことを報告する。
無論、葉子のことは伏せて。
路地裏で光る人影を見かけたとだけ伝えた。
すると、部長も深いため息を一つ吐き、眼鏡をずらして目を揉む。
「あれを見かけたのか」
「はい。『あれ』は、なんですか」
「調査中なのでね、詳しいことは……」
「そうなんですか」
「ええ。もちろん」
すると、部屋に入ってから黙ったきりであった玄海さんが口を開く。
「ここまで情報が上ってきてて、黙っている人じゃないでしょう」
「お前は、本当に食えないやつよな」
苦々しく部長は顔をしかめながら言うと、デスクの中からまとめられた書類を取り出した。
大事そうに仕舞われていた割には、大した厚さもなく、数枚の紙が黒い紐で閉じられている。まともな情報のなさそうな、頼りない紙の束だ。
「情報があったのは、数か月前だ。だが、そこから一度完全に姿を消した。そこから外での目撃情報が数度あり、どうやら中と外を定期的に移動しているというところまでしか分からん。以上だよ」
「結局、行動の理由も、何もわからないと」
「ああ、それも鬼門から入ってくるというわけではなく、鬼の行動としては考えられない動きを見せている。都の見張りをさせている影の者でも、それを写真にとれることは
それは、本当に幸運だった。
いろんな意味で。
「『人の九十九神』というのが、存在すると思うか?」
玄海さんは、唐突に切り出した。
眉唾物の、噂でしかないものを。
「それは人の魂と体が、別か否かというのを問うものだ。そんなことが聞きたいのなら、お前も宗教関連の部署に移りたいってことか?」
「万年人手不足がよく言うよ。こっちも言ってみただけだ」
「とりあえずお前は、下がっていい。小鹿は残ってくれ」
「へいへい」と「はい」が重なった。
玄海さんが出ていくと、部長は神妙な顔に戻り、深くため息をついた。
「あれは大丈夫でしたか?」
「そんな敬語にしないでください」
部長は、立ち上がる。
「腕だけは立つ男ですが、何分あれで」
「いえ、本当に助けていただきました。性格の方には、たしかに面食らいましたが」
「ははは。そこはどうか目をつぶってください。あっちの家は、本当にそういう人間が多いんです。分業みたいなものなので」
「はあ」
「しかし、アイツがここまで心を開くバディは初めてですよ。あなたの御力ですかね」
「そんなことはないと思います。僕が物を知らな過ぎて、ご指導いただきました」
「なんだか、二人ともよくまとまったようですね。思いつきとはいえ、私の采配も捨てたものでもないでしょう?」
「は……はあ」
「ともかく、本日の活躍おめでとうございます。あなたが捕獲したものと合わせ、本日は五体の九十九神が搬入されていると思いますので」
「でも、それは僕に行ってもしょうがないのでは……」
「そうでしたそうでした。では、とりあえず本日はお疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
本当に、この立場だけは本当にやりにくい。
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