壱【闇夜に怪しき人影を見つけし事】・11
僕は、彼女の言うことを考える。
人の魂と肉体が別々になる?
「そんなことあるのかな……」
「外は、火葬代も出せなくて、土葬するとこもあるんだよ。それだけじゃなくて、そもそも葬式もできない人だっている。野たれ死ぬことだってね。あんたらは知らないだろうけどさ」
「だからって、君は……」
「ああ、そうだ。葉子っていうの。苗字は
「葉子ちゃんは……」
「なんか、気持ちワルい」
じゃあ、どう呼べばいいんだよ。
「葉子は――」と玄海さんが今度は尋ねた。
いいですね。
ぶっきらぼうな感じで呼ぶの似合ってますもんね。
「――どうしてそう思うんだ?」
「お父さんがね、いなくなったんだ」
「失踪ってことか?」
「ちがうって。死体が失踪すると思う?」
つまり彼女が言うことをまとめると、父親の死体が消えたことと死体が九十九神になるという噂を結びつけたということだ。だが、あの妖怪が本当に父親であるという確証はどこにもないし、ましてや何者かが死体を処理したという可能性の方が高いだろう。
正しくなのか、邪魔だからという理由なのかは分からないけれど。
「それは、でも」
と僕の言葉を、玄海さんの手が止める。
「探したい気持ちは分かる。だが、中に居続けるのは危険すぎる」
「これでも結構歩いたんだよ。今更帰れないって」
「家は、どこ?」
「千葉、房総のほう」
「嘘だろ?」
間に海を挟むことを考えると、かなりの距離だ。
まさか泳いできたわけでもないだろう。
だが、彼女をこのままにしておくわけにもいかない。
どうにか帰す方法をと考えていると、玄海さんがさっさと言い放つ。
「しゃーねえ。二日だけ、チャンスをやる」
「待った。玄海さん、その間どうするんです?」
「ここに置いとけばいいだろ? 食料も持ってきてもらってんだし」
「いや、ここは僕の……」
「お前は、実家があるだろ。そして、こっちに出向しているんだ、ここに家があっても意味はないだろう。それにずいぶんと使ってないみたいだしな」
「なんで……」
「ホコリ」といって、さっきの棚を指さす。
ああ、そういうことか。
掃除は行き届いてない。
いや、だとしてもなんですが……。
「ただしだ。葉子、日中にここから出ることは禁止だし、外に出るのも限られた時間だけ。それを守れるならだ」
「守る。守るよ」
「本当だな?」と僕も尋ねる。
「もち」
にっこりとほほ笑んだ姿に嘘をついている感じは微塵もなかった。
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