壱【闇夜に怪しき人影を見つけし事】・10
都の北部中央に、帝が
それと真反対に位置する都の南側、羅生門にほど近いところに僕の元の職場がある。
「羅生門エネルギー生成場及びエネルギー生成物研究室」
何かしらの事故が起きた際に海水が必要だという理由や、内裏からなるべく遠くにあるべきという理由からこの場所に配置されている。
僕はそこに通うために、近くに小さな部屋を借りていた。
自宅は北西の一等地にあるため通うには遠すぎるかと思ってのことであったが、一人暮らしにはまた面倒も多くて、ここにはあまり帰れていない。大量の仕事がある場合でも仕事場で眠ってしまう方が楽だったのもある。
本当に滅多に使うことはないが、ベッドや最低限の家電もそろっていて、怪我をした女の子を
「で、彼女とかを連れ込んでいると……」
棚に置いてあったガラス製の狐の置物を持ち上げながら言った。
「いや、勝手に触らないでください。それに連れ込んでないんで」
「相手もいないだろ?」
「ええ、ええ。そうですけど? とりあえずさっさとそれを置いてください」
彼女はすでにベッドに寝かせてある。
脈拍や大きな外傷はなかったが、後頭部を地面にぶつけていた。
それで一時的な気絶をしているものと推測するが、内部の出血となるともはやどうしようもない。そればかりは、彼女の運に賭けるしかない。僕は、アゲハに届けてもらった水枕を用意し、彼女の頭の下に入れてやる。
「ところで、どうする気ですか?」
「ああ、まずは持ってきてもらった飯を食おう」
「そうじゃなくてですね、僕らは今犯罪を行っているとこですよ?」
「彼女が気付いたら、彼女の親の元に彼女を返す。知ってるのは、俺とお前とあの子に、アゲハもだな、それだけ。誰も黙っていれば問題ない、だろ?」
「だとしても、もう少し危機感を持ちましょうよ」
僕は、ちらりと彼女の方を見やる。
が、すでに彼女は起きていた。大きな口を開け、あくびをしている。
「ふわぅ……、若い子を引っ張り込んじゃった犯人の相談? うわ、てか、頭いったぁ」
「おお!」と僕は驚いて飛び上がる。「待て。急に起き上がるなって」
「なにこれ、殴られたの?」
「ちがうっての!」
僕と玄海さんは、兵部省所属の警察であるという証明を見せる。
その
「いや、逮捕するわけではないよ」
玄海さんは、彼女に起こった状況を事細かに説明した。
それを聞いて、ハッとなる。
「ごめん……あ、ごめんなさい。助けてもらってたんですね」
「なんで、君は中にいたの?」
僕の質問に、彼女は少しだけ
「『あれ』を、探しに来たんです」
その言い方で、なにを指しているのかを察した。
『あれ』と形容するしかないもの。
「『あれ』を……『あれ』が何なのか理解しているの?」
「逆に、あれってなんだと思ってんの――思ってるんですか?」
「いいよ。普通に話して」
僕は一度玄海さんの方を見た。
彼も頷いている。
「なら、ふつーに。ケーサツは、『あれ』は何って結論なの?」
「『あれ』自体が」と玄海さん。「俺たちは初遭遇だった。もしかすると、実は目撃例は本部に届いているかもしれないが、正体というところまでには至っていないだろう」
「外にはさ、たまに変なこという人がいんのね」
「変なことを?」
「そう。人は死んだら魂が幽霊になるけど、燃やさずにおかれた死体はどうなるんだろうってさ。アタシはね、それだと思ってんの」
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