壱【闇夜に怪しき人影を見つけし事】・6
玄海さんは印を結び、警戒を解かぬままに周りを見渡して叫ぶ。
「おい、回収容器は!」
「あ……」
回収容器がない。
それは結界術が施された強化ガラスに覆われた二尺ほどの長さの楕円形のカプセルだ。この中に回収物を入れると、入れたものがどこにも触れることなく空中で静止し続ける。科学と陰陽術の融合技術である。
元の姿に戻された九十九神は、陰陽寮に回収され、僕のいた――雪美博士が率いる部署に引き渡される。
そのために一度回収容器が必要なのだが、僕は持たされていない。
「渡されてないんですが……」
「嘘だろ? ああ、戦わないって思われたのか?」
フッと僕の横に影が舞い降りる。
「小鹿様、こちらを」
「ああ、アゲハ。助かったよ」
「いえ」
黒い衣をまとった彼女から、回収装置を受け取る。
その様子を見て、玄海さんは固まっている。
「うお⁉ お前『影』連れてるのか」
「え? ええ。代々うちに仕えてくれている家の娘さんですよ」
「お前、聞いてたけど本当にお坊ちゃんなんだな。うちの本家の屋敷でしか、見たことないわ」
玄海さんの視線を察してか、アゲハはすぐに闇に潜るかのように姿を消した。
『影』とは、執事であり秘書であり、
世が世で在れば『忍』と呼ばれる者たちである。
現代の陰陽師の末裔は、大まかに三つに分派している。
僕の家のような研究・暦の編纂を主とする家系。
玄海さんの家のような祓い事を主とする家系。
そして『影』となり各家を補佐する家系だ。
もともと邪を祓う仕事において様々な術を駆使していた者たちがさらなる技を求め、発展していったのが彼らの興りと聞いている。実際に戦国時代には、忍として働いた人間の末裔だ。
「ともかく、これに入れて帰りましょう」
「……お前、最初っからアイツに手伝ってもらえばよかったんじゃねえのか?」
「でも、彼女の戦闘の素質も、見えるかどうかも僕は知らないですからね。任せたりはできませんよ」
「……」
なんだか呆れたような顔を向けられたが、僕は知らないフリをした。
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