序ノ弐 【妖の力、人の手でカタチを変えし事】
現代・皇紀 二六五九年
研究所。中枢。
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……」
北に座す男は、両手で印を結び唱えつつづける。
「オンヂリタラシュウタラ・ララ・ハラマダナ・ソワカ オンヂリタラシュウタラ・ララ・ハラマダナ・ソワカ オンヂリタラシュウタラ・ララ・ハラマダナ・ソワカ……」
東に座す男もまた印を結び、真言を吐き続ける。
「オン・ビロダキャ・ヤキシャ・ヂハタエイ・ソワカ オン・ビロダキャ・ヤキシャ・ヂハタエイ・ソワカ オン・ビロダキャ・ヤキシャ・ヂハタエイ・ソワカ……」
南の男は、低く響く声で唸るように真言を紡ぐ。
「オン・ビロハキシャ・ノウギャ・ヂハタエイ・ソワカ オン・ビロハキシャ・ノウギャ・ヂハタエイ・ソワカ オン・ビロハキシャ・ノウギャ・ヂハタエイ・ソワカ……」
西には女が座し、美しい声でそのように唱えていった。
冷たく無機質なリノリウムの床の上で、白い着物を着た陰陽師たちは、各方位の四天王の真言を捧げている。
それは儀式の無事を祈念するとともに、室内を固く封じる結界となる。
四人の声の背後で、機械の駆動音が低く唸っている。
薄暗い部屋の中、唯一の光源は室内の中心に鎮座する「機械」であった。
□■□
その「機械」は、中心が分厚いガラスのチューブとなっており、中は緑色の液体で満たされている。液体は組み込まれた下からのライトに照らされ、緑色の光で室内を照らしていた。
機械の前には、一人の女がおり、最後の調整に入っていた。
備え付けられた液晶の数値を見ながら、キーボードを弾き、液体を完璧と言える状態に仕上げていく。
彼女は深く頷くと、胸に付けた無線で部屋の外に合図を送った。
北東の扉から、一枚の古びた鏡が運び込まれる。
南西の扉から、一枚の真新しい鏡が持ち込まれた。
どちらも厳重な結界術によって封じられた強化ガラスの容器の中に入っており、数人の白衣の人間が取り囲んでいる。
真言の響く室内で、二つの容器は部屋の中心にある機械の上部へと取り付けられた。何人もの研究員が上部の二つの容器を問題なく、厳重に取り付けられたことを確認すると、研究所の主である女は本体のスイッチを強く押し込んだ
上部から、二枚の鏡が液体の中に落ちる。
二つの鏡は、液体の中を踊るように舞う。
次第に、鏡同士は引かれ合い、強い光を溢れさせた。
赤く炎のような光から、さらには白く純粋な光へと変化していく。
「エネルギーの抽出成功」
博士が息を吐きながら、呟いた。
□■□
日本は、エネルギー大国となった。
古き物が変化した九十九神は、他の物質とぶつかり合うことで対消滅を引き起こし、高エネルギーを放出する。それを安全に取り出し、発電や軍事転用するようになって幾年もが経過した。
日本国は、日清・日露・世界大戦に勝利。
世界トップの裕福な国となった――だが、それも一部の世界の話だ。
都に住むわずかな人間だけが、恩恵を受ける。
外に住む大勢の人間が、割を食う。
不平等な世界となった。
昼の明るさは濃く、夜の影はさらに強くなった。
百鬼の
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