第6話 この世界について
「ちょっと待ってくださいね?」
そう言った僕はゲーム内メッセージとやらでファルたちへと連絡を取った。これは、僕だけで処理していい情報ではなさそうだからだ。他のプレイヤーも聞くのかもしれないけど、今この話をしてくれている神官のように立場の偉い人がそうたくさんいるとは思えない。なら、ファルたちだけでも呼んでおくのがベストだろう。
♢♢♢♢♢♢
ファルたちは、というかルリアとウェルンは魔法の訓練を僕の予想よりもかなり早くクリアしていたみたいで、ちょうど訓練場にいるからと貰ったスキルなんかを試していたらしい。僕がメッセージを送ると、数分程度で神殿へと到着した。
「おや、この人たちはあなたのご友人ですかな?」
「ええまあ。こいつらもあなたたちの言う旅人ですのでお話していただけますか……?」
「ふふっ、もちろんですよ。厄災に対抗するための人員は一人でも多いほうがいいですからね」
それから、神官さんは僕にしたのと同じ内容を三人に話した。三人の反応はバラバラで、話を聞いて興奮しているファルと情報の処理的に追いついていないようなルリア、早速考え込んでいるウェルンとなっている。連れてきたのは僕だとしてもこのまま放っておくと話がこれ以上先に進まない気がするので強引に進める。
「それで、この話を僕たちにしたのにはどういう意味があるんですか?」
「意味、ですか……ざっくり言いますと、まずはあなたたちに旅人であるということを認識してもらうこと。旅人は自分がそういう存在であると認知している可能性が低いということも女神アルテナ様より示唆されておりましたので。あとはお願いを」
「お願い?」
「ええ、お願いです。それは――」
神官さんのお願い、という言葉に僕が問う。その問いに対し返ってきた答えはたった一つ。「どんな強さでもいい、強くなってください」というものだった。
強くなる。簡単に一言で表せるがその”強さ”には様々なものがある。喧嘩や戦闘での強さ、その中でも攻撃の強さと防御の強さ、回避の強さなど。他にはこのゲームだと生産系、という方面での強さなどもある。あとは交渉に強かったり、人を指揮するのが強かったりなど。そんな風にどんな強さでもいい、だから”強く”なってくれと。この神官さんはそう言った。
ゲームを遊ぶ上で目標として掲げる人が多いであろう単純なもの。けれど、僕たちは強くなって倒す目標が明確に出来た。これは、僕と三人の心の熱に薪をくべているのと同じだった。他の三人に比べたら圧倒的に小さく、弱かった火も次第に大きくなる。それにファントム自身が気づくのには少し時間がかかりそうだが。
♢♢♢♢♢♢
僕たちは今、神殿の外を歩いている。ちなみに、最後に聞けたことだがあの神官さん、名前はルファというらしい。結構気になってたから聞けてよかった。
「……なあ、ファントムはこれからどうする?」
「これから、か……それは、今からってことか? もっと先を見てってことか?」
「もっと先だ」
あの話を聞いて、僕は勝手に楽しんでるわー! とはいくらゲームの中だからってなれる気がしない。いや、ゲームの中だからかな?
「とりあえず、言われた通り”強く”なってみようと思うよ」
「……おし、じゃあ俺たち、パーティを組まないか?」
「パーティ?」
パーティ……確か、ゲーム内専用の小さなグループ、だっけ? えーと、パーティだから受けられる恩恵とかもあるかわりに行動をパーティに制限されたり経験値が分配されたりと一長一短……って教えてもらったような。
「いいぞ」
「「「いよっし!!!」」」
うえぇ? みんなしてそんな喜んで……どうした?
♢♢♢♢♢♢
「じゃあパーティ申請を送るから承認してくれ」
ファルの言葉から数秒後、確かにパーティ申請が届いたというメッセージが来ていた。それを承認すると、ウィンドウの端にファルたち三人の名前が追加されていた。
「じゃあ早速……ダンジョンでも行きますか!!」
ダンジョン――それは、このBSOの世界にある魔物であふれた特殊な空間のこと。ダンジョンの中には魔物だけでなく鉱石や薬草など、さまざまな素材がありその地に暮らす人々にとってなくてはならないものだという。
というのを公式ホームページなんかで見たりはしたから一応言葉が知識として入っているだけである。
《世界の歴史の知識を取得。クエストが進行します。最後はダンジョンへ向かってください》
ちょうど、チュートリアルクエストも最後へと突入したようだ。しかも、場所はこれから行こうとしていたダンジョン。お誂え向きだな。
「えーっと、どこのダンジョンが近いとか知ってたりする?」
「はいはい、そういうと思って情報仕入れといたよ。この辺からだとこのままここまっすぐいったところのダンジョンがよさそうかも。洞窟型だってさ」
「洞窟型かぁ……ファントム、お前剣メインだろ? 俺と一緒に前衛な!」
「ん、わかった。他二人は?」
「僕が中衛と後衛を兼ねるよ。ルリアは完全に後衛だね」
「まっかせて、こういうのは得意なの」
いつもの感じで話し合いをしながらダンジョンを目指して移動する。その間でお互いのスキルも確認した。ファルが【剣術】【盾術】【パリィ】【片手化】、ルリアが【水魔法】【魔力操作】【杖術】【鑑定】。ウェルンは【土魔法】【槍術】【魔力操作】【指揮】に訓練を終えた報酬の【魔力波】がついたスキル構成らしい。
他は大体わかるけど、ファルの【片手化】ってなに? と聞いたところ、両手剣や大盾なんかの両手で持つようの武器を片手で持てるようになるんだとか。まあ実際に感じる重量なんかは変わらないから結構大変らしいけど。
「よーし、着いた!!!」
そんなこんなでフォーメーションやら合図やらの確認をしていたらあっという間にダンジョンの目の前に到着していた。ダンジョンといっても、見た目に特に変な感じがあるというわけではない。なんなら、普通の洞窟なんかとほとんど変わりないように見える。けれど、一歩足を踏み入れればそこは魔物の巣窟だ。ゲームだとしても、気を引き締めていかないとだな。
♢♢♢♢♢♢
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