第5話 チュートリアルその3
「うーん、見る限りだんだん成功に近づいてはいるんだけどねぇ。なんだか、あともう1歩足りない感じがあるね」
「ふぅ、ふぅ、はぁっ、はぁっ」
別に、たくさん動いたとかでは全くない。なんなら、ゲームの中だから汗が出る機能自体かなり抑えられているのだ。けれど、汗が止まらない。
「……イメージが君に合ってない、のかな? じゃあこうしよう。周りにならすんじゃない、支配しろ。己の魔力を持って一帯の魔力を従えてみせろ!」
イメージは支配……できるか? 僕に。支配できるだけの力を持っているのか? いや、そんなの関係ないな。僕は今、やってみたくてしかたないんだ。
「研ぎ澄ませ、感覚を」
僕の中で、何かが変わる。今まで聞こえていたものが聞こえない。見れていたものが見れない。けれど、目の前のことに対して最高以上の感覚を引き出せている感覚がある。
「――へぇ、君は案外こっちのタイプだったか。僕も、勘が鈍ったかな」
そして、僕は魔力の具現化に成功した。それと同時に、力尽きてバタンとその場に倒れこむ。今感じてる疲れは実際の疲れでないとしても、わかっていても間違えてしまうほどの感覚。すごいと思わざるを得ないな、VRというのは。
「やっと追いついた! おーい、ファントムー!!」
「おや、友達かい? 君を辿って来たようだけど」
「……はい、そうです。僕の、大切な友達ですよ」
僕が先ほど訓練を終わらせて通って来た道の方から聞こえた声の主はファルだ。その後ろにはルリアとウェルンの姿も見える。どうやら、ファルが教官の訓練を終わらせたので次はルリアとウェルンにファルがついてきているという形らしい。
「あれ、ファントムもう終わってんの? はー、はっやいなぁ」
その場に倒れている僕を見てそう零す。まあ確かに、若干他の人よりは早いかもしれない。けど、君たちは僕を軽々超えてくるんだろう? 君たちは”天才”なのだから。
「どうする? 君もここでこの子たちの訓練を見ていくかい?」
「いえ、大丈夫です。こいつらは僕より数段上の才能を持っているのですぐ終わると思いますから。先にいってないと追いつかれちゃいますよ」
「そうか、じゃあ僕が行う訓練はこれで終わりだ。けど、これは基礎でしかないから発動を早くする自主練なんかはしておいたほうが後々得すると思うよ。あとはこれ、訓練を全部クリアした人へのプレゼントだ。受け取ってくれ」
システムメッセージが届いた。えーと、なになに? 《NPC:グラストとNPC:フラムの訓練をクリアしました。報酬を獲得します》って? おお、こういうのはやって損ないってのは本当だったんだな。ファルに感謝、だ。
《アクセサリー:初心者卒業のネックレスを獲得しました。アイテム:スキル書【魔力波】を獲得しました。アクセサリー枠が空いています。獲得したアクセサリーを装備しますか?》
どういう効果なのかはわからないけど、つけておいてもいいだろう。ネックレスなら特に目立つってわけでもないだろうし。Yesで。
「うわっ、いきなり装備されるっていうのはなんだか気持ちが悪いな……」
――――――
名前:初心者卒業のネックレス レアリティ:D
効果:装備者のHP、MP、SPを除く最も高いステータスを+10
――――――
結構すごくないか? 特に最初のうちは。固定値の上昇っていうのは……今だと、STRの値が武器含め25だから1.4倍になる。ファルが、「ステータス上昇は倍率がいいんだ!!」って言ってたけど初期に限ってはそうではないようだ。やっぱり、情報は鵜呑みにすべきではないな。
「そうだそうだ、スキル書? もあったよな。使って……使えるのか?」
ウィンドウからアイテム一覧のページを開きスキル書を探す。スキル書をタップすると使用しますか? のテキストが出てくる。もちろん、Yesだ。
《スキル【魔力波Lv1】を獲得しました》
まだ、意識的にスキルを使ったことはないからどんなふうに使うのかとかも気になる。多分だけど、【剣術】とか【魔力操作】とかは感覚に作用する系だと思うんだよな。剣を振ったりしたけど僕今スキル使ってる! とかはなかったし。
《訓練を達成を確認。クエストが進行します。続いては神殿へと向かってください》
神殿? 宗教的なのもあるのか? でも神殿ってくらいだから仏教系統ではなさそうだな……まあいいか、行ってみよう。
♢♢♢♢♢♢
「ここが神殿……おっきいな」
一目見るだけでここが神殿だとわかるほどの神聖な気配で溢れている建物、その眼の前に今僕はいる。外見は真っ白で、いかにもな雰囲気が漂っている。なんとなく美術館のような見た目をしているのが特徴だと思う。
「おや、見慣れない顔ですね。新たな旅人ですかな?」
神殿から法衣らしきものを羽織った初老の男性はこちらに声をかけてきた。
「旅人……そう、言うのでしょうかね」
「ええ、さあどうぞこちらへ。少しお話でもいたしましょうか」
そうして案内されたのは神殿の中。神殿は中も真っ白で、ここにいるとなんだか力が湧いてくるような気がしているのだ。神殿内にいる他の神官? らしき人とは格の違うような法衣、この人は結構偉い立場の人なのではないだろうか。そう考えるとちょっと怖くなってきたな。そして、どんどん奥の方へと進んでいく。
神殿の奥、とある一室へと連れてこられた僕は椅子へと座らされた。
「では、どこから話しましょうか。……ではまず、我々の信仰している神について知っておりますかな?」
「神……? よくわからないです」
「ほぉ……よろしい、ではそこから話しましょう」
あれ、仮にも神殿内で神なんて知らないって言うのはまずかったか? と思うのも束の間、高位神官らしき人は話し始める。
「我々は、この世界を創造した創造神である女神アルテナ様を信仰させていただいております」
女神アルテナ……ああ、ベルが最後言ってた「女神アルテナの加護があらんことを」ってそういう意味だったのか。なんとなく耳に残ってたんだよな、これ。
「なんだか、聞き覚えのあるご様子ですね。――女神アルテナ様はこの世界の創造神。些細なことではこの下界に手出しされることはありません。しかし、今から数千年前。この世界にとある厄災が出現したのです。それが、魔王サタン」
魔王サタンは、破壊の魔族や魔物を率いて破壊の限りを尽くしたそうだ。そして、世界の破壊に対して怒りを持った女神アルテナは後に勇者と讃えられる存在を別世界から遣わしたのだとか。そして、勇者によって見事サタンは討たれ、世界に平和が戻った……というのが表向きの話。実際は、あまりにも強大になり過ぎたサタンを女神アルテナまでもが勇者を介して力を貸し、封印することが精一杯だったのだとか。そして、女神アルテナは再び下界を去るときこう言い残したそうだ。
「この世界に、旅人を名乗るものたちが現れたとき、再び厄災が訪れる。しかし、案ずることはない。旅人の力によって厄災は打ち払われるだろう」
そして、今ここに現れたのが僕らプレイヤー。なんでも、実際サタンの封印が急激に弱まっていっているらしい。サタンが現れる前兆もそろそろ出始めるだろうというのが封印を守護している者の言葉なんだとか。
「……ふぅ」
まさかこんなことを聞くことになるとは……しかも結構、いやゲームの根幹に関わる超重要な問題じゃないか。
「……ちょっと、待ってくださいね?」
♢♢♢♢♢♢
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