8.幕間、あるいは侍女達の噂話

 邸内の厨房にほど近い場所に拵えられたメイド用の待機室に入った途端、セイラ──ニーナ付きのレディースメイドである彼女は、部屋にいた他のメイドたちに取り囲まれた。


 「それで、ニーナ様は何て言われたの!?」

 「やっぱり気にされてるわよね、ギルバート殿下との風聞」


 無論、メイド達の興味の対象は、この屋敷の令嬢と第三王子の「恋の行方」だった。


 「それが──お嬢様は世評に負けず、殿下への想いを貫かれるおつもりらしいわ!」


 セイラが先程ニーナの部屋で聞かされた「本人の宣言」について語ると、メイド達がどよめく。


 「あのたおやかな貴族令嬢の生ける模範みたいなお嬢様が、まさか……」

 「ちょっと意外よね~。でも、それだけ殿下への恋慕が大きかったってことかしら」

 「ニーナさまの初恋ですもの、わたしは応援するわ!」

 「「「賛成!!」」」


 無論、一介の使用人でしかない彼女たちがどうこう言ったところで、事は王家と伯爵家の政略に関わる話だ。直接的な影響力は皆無に等しいのだが……。


 反面、間接的な影響はゼロではない。

 メイドたちが「ふたりの交際(≒婚約・結婚)」を後押しする雰囲気を、それとなくゴート家中に作り出し、メイド長ディースや伯爵夫人もその空気を容認したことで、ゴート伯自身も覚悟を決める。


 「根も葉もない(訳でもない)噂」は、伯爵が宮中に参内し、国王や宰相と話し合うことで、まごうことなく“現実”と化し……。


 一国の統治者トップとしては割と(非常に)愉快おおらかな性格の(でも為政者としてはクソ有能な)現王から、


 「伯爵家令嬢なら、王子妃としての格には一応足りておるし、まぁ「有り」ではあるな。

 とは言え、我からあえて強制はせん。令嬢本人が嫌がるようなら「無し」にするから、口説き落とすのは自分でやれよ?」


 ──と、有難い(事実上の容認の)言葉をもらって、第三王子がはりきって本格攻勢準備アップを始めるのだが、そのコトを“ニーナ嬢”が知るのは、しばらく後になるのだった。

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