5.一方その頃……
我が名はリュウ──リュウ・ビ・ゲント、誇り高き「緋の竜騎兵(スカーレットドラグーン)」ダイソー・リューフォウの末裔たる魔法戦士である!!
……なんちて。
もっとも、口伝とは言え、リュウの実家がかの英雄の子孫であるということ自体は、たぶん真実なのよねぇ。いまじゃ血も薄れて、ほとんどただの平民と大差なくなってるけど。
あ、この言い方で分かると思うけど、あたしはリュウの姿(と言うか身体?)はしてるけど、実は本物のリュウじゃない。
そう。幼馴染で乳姉弟のリュウと身体を入れ替えて気ままな一人旅に出た、らぶりーがーる・ニーナちゃんなのデス(てへぺろ♪)
え? 「我がまま姫乙」?
だ~まらっしゃい!!
だってさぁ、貴族の娘にとって“社交界
言わば、事実上の貴族社会における成人儀礼。その後は、これまでは「まぁ、
窮屈なコルセットや動きにくいパニエの入ってないラク~な服装で走りまわるとか……。
勉強サボって屋敷を抜け出して下町にコッソリ遊びに行くとか……。
護身のためと言い訳して、屋敷の練兵場で攻撃魔法ブッ放すとか……。
ストレス発散のためにリュウを呼びつけて無理難題を押し付けるとか……。
食事の時に嫌いなニンジンやシイタケを残すとか……。
そういう、子供だからこそ許されていたささやかな楽しみが、きっと全部取り上げられてしまうんだもん。
(※作者注:↑別にこれまでも許されてません。単なるニーナのワガママで、周りからも呆れられてました)
そうなる前に一度でいいから、屋敷の外で今までのあたしとはまったく違った暮らしを体験してみたかったんだぁ。
だから、その協力者(←※本人の了解は得ていません)として、リュウを選んだの。
リュウのことは小さい頃から弟みたくよく知ってるし、男の子で平民(まぁ、勲爵士の家柄だから、准貴族とも言えるけど)なんて、貴族の娘とは対象的じゃない?
そして、「換魂の指輪」を使って無事にあたし達を入れ換えたあと、
──実はこの
何でも、コレ、完全に魂を入れ換えてるわけじゃなく、本来の身体から引っ張りだした魂を、無理矢理別の体に「くくりつけている」だけなんだって。で、その際中も、魂の細~いヘソの緒みたいなものは、ちゃんと本来の体にも繋がっているらしい。
だから、縛っている紐代わりの指輪が外れると、魂が元の体にピューッと戻っちゃうみたい。
もっとも、簡単には外せないような封印魔法も掛けたし、リュウには「絶対外しちゃダメ! 無理に外したら戻れなくなるゾ」って書き置きしておいたけどネ。
「ヤッホー! アーイ・アム・フリィーーーーー!!」
町の門を出た直後に奇声を発して周囲の人から白い目で見られたけど、キニシナイ!
さて、1年間の
……
…………
………………
路銀は多めに持って来たつもりだけど、旅行には意外とお金がかかるみたいなんで(←※世間知らずなのでボられた)、家を出て半月経った今、あたし──ううん、オレはとある都市の酒場に来てる。
本物のリュウの一人称は僕だけど、やっぱ男なら“オレ”の方がカッコいいよね、うん。
服装や髪型も、几帳面な本物なら着ないような、ちょっとワイルドでラフな感じにイメチェン。もっとも、それでも“男”っていうより“少年”って感じなのは、多少童顔っぽいリュウの顔つきから、まぁ仕方ないかな。
しっかし、男の身だしなみって、つくづく楽だよねぇ。パンツとズボンと靴履いて、シャツ着て、ジャケット羽織ればそれで終了。室内とかなら、ジャケット脱いでても問題ないし。
髪の毛は、水で濡らして手櫛でテキトーに整えればオッケー。風呂だって、面倒なら一日二日くらい入らなくても平気だし。
なにより! 小用を足すときの楽チンさは、女とは比べ物になんないよ。“チン”だけに──ってのは下ネタかな、ハハッ!
おっと、話が脱線しちゃった。
で、なんで酒場──正確には“冒険者ギルド併設の酒場”に来てるかと言えば、話としては色々耳にしていた冒険者ってのを、生活費稼ぎも兼ねてオレもやってみようと思ったからなんだ。
運がいいことにこの店は割かし当たりだったみたいで、初心者の俺にも酒場のマスターは親切に色々教えてくれた。
……
…………
………………
冒険者登録をしたあと、2、3の簡単な依頼──商隊の護衛(の一団に参加)だとか、街中での手荷物の配達だとか、近郊での薬草採取だとかを経験したのち、その過程で知り合った3人の駆け出し冒険者(それはオレもだけど)と、オレはパーティを組むことになった。
二十歳くらいの
30代始めくらいの元鍛冶屋の戦士、ビルダー。
東方出身の狩人で
そして、魔導師見習(ということにしてある)オレ。
大きな盾と槍を持つビルダーが前に出て、
──うん、わりとバランスいいんじゃないかな?
最初の頃は色々と初心者故の失敗とかもしたけど、3ヵ月も経った最近では、オレ達のパーティは「最近売り出し中の赤丸付きホープ」としてこの冒険者酒場でも、ちょっとは知られる存在になってるし。
ただ、あまりに順調過ぎて、ちょっと油断してたのかもしれない。
手つかずの古代遺跡を探索する仕事で、オレたちは背後から
この身体は元々騎士見習としての訓練を数年続けてきたし、オレ自身、それなりに経験を積んで多少は成長したつもりだったけど──飛びまわる魔石像の攻撃をすべてかわすことはさすがに無理で、オレはあえなく命を落とすハメになった。
え? じゃあ、今ここで話してるのは幽霊かって?
あはは、そんなワケないでしょ。運よくその遺跡から見つかったお宝を売り払って、仲間が俺を神殿で蘇生させてくれたんだよ。
「まったく、坊やのおかげで大赤字だわ!」とミリア姐さんには文句言われたけど、俺を迅速に蘇生させるべく神殿はじめ各方面に頭を下げてくれたのは姐さんだったとか。
「ねぇリュウ、油断大敵って言葉知ってる?」とリンも嫌みを言ってきたけど、俺が斃れたときに一番動揺して落ち込んだのも彼女らしい。
両方とも、ビルダーがあとでコッソリ教えてくれた。
いや~、色男はツラいなぁ、ハッハッハ!
なーんて、照れ照れしてたんでけど──じ、じつは、つい先日、酒に酔った勢いでミリアさんと最後の一戦を超えてしまった……かもしれないんだな、これが。翌朝目が覚めたらふたりとも素っ裸になって同じベッドで寝てたし。
冗談まじりにキスしたところまでしか、昨夜の記憶はないんだけど。
まさか、殿方に処女を捧げる前に、男として童貞を喪失した──かもしれないとは。うん、今回ばかりはマジでごめん、リュウ(本物)。
リンはリンで、ツンデレのデレ期と言うか、最近オレに妙に優しい気がするし。
うぅ、あと半年くらいでオレは“あたし”として実家に戻らなきゃいけないんだけどなぁ。それまで修羅場を回避することができるだろうか。
……と、この時のオレは冷や汗をひとすじ垂らしながらも、どこかのんきにそんなコトを考えていたんだ──自分が、自分達が大変なマズい状態になったことも知らずに。
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