2.遡ること1年前……

 剣術も、隠密の業も、魔法の詠唱も、戦闘に関する大概のことは人並みか、いくらか上回る程度にはできるものの、優秀と言うには程遠い、器用貧乏を絵に書いたような僕。


 そんな僕が、いわゆる乳姉弟の仲とは言え、ゴート伯爵令嬢であるニーナ様のお付きの護衛に任命されたのは、ニーナ様本人の強い推薦があったからだと言う。

 周囲は、出世だ、大抜擢だって騒いだけど……。


 「まさか、こんな魂胆があったとは、ね」


 そりゃあ、身分違いとは言え実質的に幼馴染で、小さい頃は姉弟同然に育ったし、ご両親とメイド長にして元乳母である僕の母を除けば、ニーナ様の事なら周囲の誰よりもよく知ってるだろうって自負は確かにあるよ?

 でもだからって……。


 「いくらなんでも、ご自分の身体を僕に押しつけて、自分は僕の身体で旅に出るって、何考えてるんですかーッ!?」


 どうやらニーナ様は、15歳の誕生日に社交界デビューすることが決まって、それに伴う礼法だとか古典知識だとか刺繍や裁縫だとかの勉強が増えたのに、かなり閉口してたらしい。


 まぁ、確かにニーナ様は、部屋で大人しく勉強してるのが苦手で、外へ遠乗りに出かけたり、「淑女の嗜み」と称して練兵場で攻撃魔法(しかも、どう考えても護身の域を超えてる広域殲滅呪文)ブッ放してる方が性に合うってタイプだったけどさ。


 ニーナ様の社交界デビューまで、あとひと月。

 その間に本人が帰って来ればいいけど、事前にニーナ様が用意していた筋書(シナリオ)では、“僕”は護衛役を務めるに先だって1年間武者修行の旅に出ることを伯爵家に申請し、それを認められたらしいから……望み薄だよね。


 さすがにニーナ様に「ハメられた」ことに気付いた直後に、伯爵様ご夫妻と母さんにはコッソリ真相は打ち明けてあるから、一応追手はかかってるはずなんだけど。


 「「ニーナ」様、なんですかその格好は、はしたない!」

 「あ、かぁ…(コホン)…ごめんなさい、ディース。少し疲れてしまって」


 真実を知る者はできるだけ少ない方がいいってことで、ここにいる“ニーナ”が実は僕であることは、僕も含めた4人以外には秘密にされている。

 だから、普段は母さんも本物のニーナ様に対してとまったく変わらない態度で接してくるんだ──お小言も含めて。

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