式と会話

 政略結婚は私の国で行われた。

 盛大にファンファーレが鳴り、踊り子たちが舞を踊り、祝福される。

 必要な書類に判子が押され、決定事項になる。

「大切にすることを誓います。両国に繁栄ありますことを」

 私の意見はないに等しい。

 政略婚の生活が幕を開けた。


 ☆☆☆


 一応、私のために用意された一室。

 故郷のものが数点あるだけで、

 それ以外は嫁いだこの国の歴史書やマナーの本が積まれていた。

 その場所で恭しく手を取る。

「なんて呼んだら失礼がないでしょうか、姫」

「なんとでも呼べばいいでしょう。私もあなたのことをなんて呼べばいいかしら」

「王子と」

 リールと名では呼ぶなということだ。

「では、姫と呼んでくださいね」


「かしこまりました。姫。何人子宝をご所望で?」


「男児が1人。あとは女児なら多ければいいでしょ」

「模範解答で助かる」


「そうでしょう。一応立場に応じた所作を学んできましたもの」


「言っておくが、この国ではもいいといわれる所作もあんたの国とは違う

 だからしっかりと勉強することだ」


 はいと大人しく答えるしかない。


「学ぶために図書室か教えて下さる先生を付けてほしいんですけれど」


「いいだろう。皇后が自分の国についても無知だとこちらとしても困る」


「女性の世話係兼教育係を付ける。わからなければ逐一彼女に聞くといい。

 世話係は国で一二を争う才媛だ」


「そうなのですね」

 教えてもらうには都合のいい存在。

 すぐに教育係はやってきた。

「ファンと申します。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ。粗相がないようにこちらの常識を教えて頂戴ね」

「かしこまりまして」

 まず食べ方から違うという。


 左手を主に使うこと、ナイフとフォークの持ち方が逆なこと。

 出来れば利き手を左にかえてほしいこと。

「まるで違うのね」

「ええ。異国の文化はウチの国にはなじまないので」

 教育係は、室内にあった幾冊かの本を手に取る。


「姫様にはご苦労があるかと思いますが、

 どうぞご容赦くださいますよう」


「わかりました」


「しばらく食事は人目につかない場所でとってもいいかしら。

 左手でうまく食べれる気がしないわ」


「かしこまりまして」


 初めての左利きは苦労もあった。

 手を変えるだけでこんなにもうまく食事がとれないのかと。


 文字もうまく書けない。

 そもそも言語が少し違うので、

 それを覚えるのも大変だ。


 敬語の敬い方が違うし、末席の位置も上座の位置も違っている。

 母国での常識を一度忘れて、この国の常識をいちから覚えないとならないようだ。


(これではこの国で生きていくのは大変だわ)

 ここまで、もろもろ違うのに、

 平和を維持できているのは先に嫁いだ人たちのおかげでもある。


 私が最初の事例ではないのだ。

 できる限りやっていかないとご先祖様に申し訳が立たない。


(ナイトにも。もしまた会う機会があったのならば、

 嫁いだ先とうまくやることだっていいことのはずよね)


 私は祖国で好きだった本を一冊寝る前に読んでいる。

 夫が来ない日に限るが。

 夫となった人に確認してみたら、決まりきった答えだった。


「世継ぎができないと困るのかしら?」

「早急に必要ではないが、ゆくゆくは欲しいところだ。

 君の国と友好関係を保つためにも必要だ」


 妻としての務めも果たさなければならない。

 ――祖国のためにも。





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