政略婚
私の将来についてお父様から相談されたわ。
「お前の選択肢を用意した。
隣国のリール王子との婚約か、私の腹心であるオデとの結婚か。
それでもなければお前が女王としてよい伴侶を選ぶか」
お父様は知らないようだ。
オデは妻子持ちであることを。
それとも知っていて娘の能力を試しているのか。
その質問を聞いて私は即答した。
「わたし、女王になるわ」
「ナイトを伴侶にとかいうでないぞ」
「なぜ、いけないのですか」
「わしはやつが好かん」
ナイトと結婚できないのなら意味もない。
側にいたいけれども、お父様はあれやこれやと妨害してくるだろう。
――選択肢はほぼなくなった。
「ではなぜ彼を側使えに任命したのでしょうか?」
「あの時代はそれが一番安全だったのだ」
「どうして私がナイトを好きだといったときに否定してくださらなかったのですか」
「子供の言うことだ。その言葉を優先させることは簡単だが、
お前を守れないのでは意味がない」
「わたくしに政略結婚せよとの命令でございましょうか」
「そうなってくれたらうれしいと思っている。これまでもわが国では敵国や隣国との婚姻で領土を維持してきたのだ。お前もそれに倣うがいい」
「だからお母様はわたくしにつらく当たるのでございますか」
「そんなことは聞いたことがないな」
「当たり前でございます。お母様はお父様のことが好きだったのだから。けれど子供は産みたくなかったのだといつもわたくしに向かっておっしゃいます。あなたが生まれてからしわが多くなった。お気に入りのドレスがきれなくなったって」
「思い込みだ。子供を産んだ女は美しく着飾ることはできない。子供を育てることに全力をつくねばならないのだからな」
「だからわたくしもそうしろとのご命令ですか?」
「命令ではないぞ。それがこの家に生まれたお前がもつ宿命だからだ。我らに不服を言うではない」
「宿命など信じませぬ。わたくしは」
「下がれ。明日はかの王国の殿方に会うのだから」
侍女たちが彼女を大座から遠ざける。何も抵抗できなかった。その場に踏みとどまろうとしたが幾人もの女性に囲まれては抵抗の使用もなかった。
☆☆☆
翌日かの大国の王子とまみえることとなった。
護衛役のナイトは無論この場にはいない。
不安で仕方ない彼女を一番屈強な侍女がそば付きで見ていることになった。
どうやら国の品位を落とさぬために、
彼女が暴れても一人で抑えられるものを選抜しているようだった。
「お顔を拝見いたしたく思います」
誰か男性の声が聞こえた。父親が了承する声が聞こえ、ドアが開く。
「彼女は可憐な方なのですね」
そこに立っていたのは10代後半の男性。
彼女にしてみれば見たくもない相手だったが、
どうしても彼を視界に入れざる得なかった。
(きれいな人。すこしナイトに似ているかもしれない)
うっかりそう思ってしまった。
髪色が似ていたせいだろうか、それとも声が耳に心地よいせいなのだろうか。
それはわからないが、彼女は現れた青年に見とれていた。
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