第12話「突然のテスト!」

 

 午前7時45五分。

 聖アルカディア女学園。1年B組の教室。


 あたしは自分の席に座って、ぼーっとしていた。


 ああ、クソ眠い……寝れなくてユーチューブ見出したのがまずかったな。


「ミズキさん、おはようございます」


 声に反応して顔を上げると、隣の席に琴音がやって来ていた。


 今日も丁寧に梳かれた白髪が綺麗に輝いている。


 やっぱこいつはクイーン・オブ・お嬢様って感じだな。

 相変わらず後光が指しているように見える。


 佇まいが他のお嬢様とは段違いだ。


 ちなみに昨晩こいつが送って来たLINEは、


『ミズキさんの好きな鉛筆の濃さは何ですか?』


 という過去一意味不明な物だった。

 毎日のようにLINEしてるから質問が尽きて来たんだろうけど、流石にその質問は意味分からん過ぎるぞ琴音。


 一応、『HB』と返しておいた。

 すると、『わたくしはBです』と返って来た。


 世界一不毛なやり取りだった。


 こいつお嬢様極めすぎて、天然っつーか抜けてる部分があるんだよな


「同居人の方はどのような方だったのですか?」


 琴音が椅子に座りながら尋ねてくる。

 こいつの事だ。あたしの事を色々気にかけてくれていたのだろう。


「七瀬な。あいつは面白い奴だぜ。また紹介してやるよ」

「はいっ。ふふっ、楽しみです」


 七瀬は今教室にいない。

 今朝は一緒に学校にやって来たのだが、少し用事があるからと言って、どこかへと行ってしまったのだ。

 結局あたしは一人で教室にいたという訳だ。


 教室の中にはあたしと琴音以外にも、何人かの生徒がいて皆熱心に勉強をしていた。


 こいつらすげぇな。普段から勉強してんのかよ。

 しばらくの間、琴音と喋っているとあいつがやって来た。


 そう、忌々しい金髪が。


「ごきげんよう、琴音様。今日もお綺麗ですわね」

「ごきげんよう天宮さん。ありがとうございます。ふふっ、天宮さんもお綺麗ですよ」

「ほ、本当ですか!!?」


 琴音に言われて嬉しそうに顔を輝かせる金髪。

 機嫌のいい金髪の様子はムカつくので、現実を教えてやることにする。


「んな訳ねーだろ。お世辞だお世辞。間に受けんな」

「むっ。いちいち鬱陶しいですわね。それに相変わらずの口の汚さですこと。さすがは蛮族ですわね」

「うっせぇな! 黙ってろパズル!!」

「だからっ!! 私は静流ですわ!!!」


「ふふっ。お二人とも仲良くなって何よりです」


「「どこが!?」」


 琴音がのほほんとした発言に、あたしと金髪は思わず声を重ねてしまう。


 こいつは本当に大らかと言うか、マイペースというか。


「はぁ……というかあなた、どうしてそんなに余裕ですの? 琴音様は分かりますけれど、あなたが余裕ぶってるのが不思議なのですが」

「んぁ? 何言ってんだお前? 今日何かあるのか?」

「え、あなた。まさか、知らないんですの……?」

「へ?」


 真剣な顔つきで聞いてくる金髪に、急に不安が襲いかかって来る。


 え、何かあるの今日。

 その答えは琴音が教えてくれた。


「ミズキさん、今日は【グレーステスト】の日ですよ?」

「……は?」


 い、いや。待ってくれ。

 今琴音は、あたしが世界で3番目に嫌いな言葉を言ったような気がする。

 聞き間違いじゃ無ければ、テスト、って言ったよな?


「おい、琴音。お前今、テストって、言ったよな?」

「はい、言いました。今日は一日かけてテストがあるんです」


 いち、にち、かけて?


 それって、えぐい規模のテストじゃね? 午前中とかじゃ、なくて?


「な、なぁ、そのテストって、何か意味あるのか……?」

「まぁ余興に近い類ではありますが。簡潔に言うと年に一度行われる大々的な知的能力試験ですわ。そして成績上位者には大きな特典が与えられますの」


 金髪の説明を聞いてあたしはなんとなく理解する。


 なるほど……聖アル独自の訳分からんテストってことか。

 だが大きな特典ってのは気になるな。


「おい金髪。その大きな特典ってのはなんだ?」

「まったくあなたは。それが人にものを聞く態度ですの? 「教えてください、静流様」そう言うのであれば教えて差し上げない事もありませんけれど?」

「じゃーいいわ。琴音、大きな特典ってなに?」

「ちょっとあなた!! 琴音様のお手を煩わせるんじゃありませんわ!!!」

「んじゃあてめーが教えろよ!!」

「頼み方が悪いと言ってるんですわ!! あ〜あ、これだから無知な蛮族は嫌なんですのよ」

「んだとぉ!! てめーだってパズルじゃねーか!!」

「私は静流ですわ!! あなたどんだけアホですの!?」


 んぐぅ〜〜こいつ〜〜!

 やっぱ半端ねぇくらいむかつく〜〜!!!


 ぶん殴ってやるのは簡単だが、向こうがそういう勝負に出てきてねぇ以上、一方的に暴力に訴えるのはダメだ。


 何よりそんなふうにねじ伏せても、こいつに勝ったとは言えねぇ。

 むしろあたしと蛮族と呼ぶこいつの主張が正しいことになり、あたしが惨めな立場になるだけだ。


 でも……!!!


 一発どつきてぇ〜〜〜!!!!!

 超絶むかつく〜〜!!


 琴音は相変わらずニコニコとした朗らかな笑顔で、あたしと金髪のやりとりを眺めていた。


 琴音は琴音でなんで微笑ましいものを見るような目を浮かべてんだよ……。


 金髪が大きく深呼吸をして、ふんっと鼻を鳴らした。


「その調子じゃどうせ勉強もしてないでしょうし、せいぜい足掻くといいですわ。では琴音様、お互い上位者になれるよう頑張りましょう!!」

「はいっ、頑張りましょう! ミズキさんも一緒に高得点を取れるといいですね!」


 そんな事をしている内に、担任のハナチャンが大量の紙束を抱えて教室に入って来る。


 気が付けばクラスには全生徒が揃っており(七瀬も帰って来ていた)、全員が真面目な顔つきでハナチャンを見ていた。

 この雰囲気……マジでテストあるじゃん。


 あたしはテストのだるさに打ちひしがれながら、ハナチャンの言葉を待つのであった。

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