第11話「最高の女子寮生活! 後編」
あたしと七瀬は寮にあるお風呂にやって来ていた。
もう細かい感想は言わない。
ただ、めちゃくちゃ大きくて、あり得ないぐらいに豪華だ。
もう何とも思わん。
マーライオンみたいなのがお湯を出してても、ギリシャ神話見たいな石像があってあたしは驚かん。
「ねぇ、ミズキちゃん。あっちのお湯に行こうよ」
七瀬が一糸まとわぬ姿で、あたしに呼びかけて来る。
脱げばはっきり分かるけど、こいつ半端ねぇくらい爆乳だな。
あたしは黙って七瀬に近づいて行って、
「ど、どうしたの……?」
もにゅ。
「へ……ひ、ひゃあぁぁあああ!」
黙って七瀬の胸を掴んだ。
ああ、すげぇ。マシュマロだな。
「やわらけぇ」
「きゅ、急に揉まないでよぉ!」
「急じゃなきゃ揉んでもいいのか?」
「ダダ、ダ、ダメだよ! わ、わたし自身は百合になっちゃいけないの!! そーいうのはミズキちゃんが仲良しな人たちにしてあげて!! そしてそれをわたしに見せて!!!!」
「お前なに言ってんだ……」
訳の分からん事を言い出す七瀬(もはやこれが平常運転だろうが)に、あたしは呆れた視線を向けた。
もっと揉んでいたいけど、七瀬が嫌がってそうだからこの辺りで止めとくか。
七瀬の胸から手を離すと、七瀬はホッとしたように一息ついた。
どこか恥ずかしそうにモジモジしている。
にしてもでけぇな。あたしもそこそこだが、こいつにはどう足掻いても勝てん。
そんなこんなを経て、あたしと七瀬は一つの湯船につかった。
「あぁ~~、気持ちいい~〜〜〜」
お湯は心地いい温度で、体の節々にたまった疲れを溶かし出してくれるようだった。
極楽だ。これはお風呂じゃなくて温泉。
お嬢様生活マジで最高なんですけど。
隣を見れば七瀬もほんわ〜とした表情を浮かべていた。
そんな七瀬にあたしは気になっていた事を尋ねる。
「なぁ七瀬。結局よ、お前の学園生活の目標ってなんなんだ?」
「え! あ、えーやっぱ……気づいてた……?」
「まぁそりゃ。明らか途中で言い直した感あったしな」
「そっか……まぁミズキちゃんになら良いかな。わたしはね……その、驚かないで欲しいんだけど……! この学校で理想の百合カップルを見つけたいの!!」
「へぇー」
「あれ!? そんな意外でもない感じだった!?」
「お前ならどうせーそんなとこだろうなって思ってたしな」
こいつとことん百合っつーのが好きなんだな。
「つーかよ、ああいうの漫画の話じゃねーのか? こんな現実の学校にもああいうのがあんのかよ」
あたしは先ほど七瀬に読まされた漫画を思い出す。
その漫画の中では可愛い女の子達が、キャッキャうふふと戯れ、お互いに想いを寄せ合っていた。
そういうのがこの学校でも起こるのかというと正直疑問だ。
すると七瀬は前のめりに答えてくれる。
「実はそうなんだよ! 聖アルカディア女学園はなぜか百合カップルが多く生まれる事で有名なの!! だからわたしは……勉強も苦手だったけど……!! この学校で極上の百合供給を受けるために受験を頑張ったの!!!」
「お前のその行動力はほんと尊敬に値するな」
やっぱこいつめちゃくちゃすげぇ奴じゃねぇか?
そもそも聖アルっていうと日本でも最高峰の偏差値を誇る高校だ。
並の努力じゃ入れない学校だ(あたしは裏口入学なので別)。
それを……女同士がイチャついてんのを見たいから、ってだけの理由で乗り切るとは……半端ねぇ底意地だ。
そんな七瀬がこちらを向いた。
「今度はこっちが聞く番だよ!! 結局ミズキちゃんはどうなの!? 女の子はアリなの!?」
「……あぁ、その話だったな」
腹が減ったから後回しにしちまってた。
あたしの恋愛対象。
恋なんて自分には縁のないものだと思ってたから、じっくり考えたこともなかった。
でも考えてみると自分の気持ちくらいすぐ分かる。
あたしは。
「別に女でもいけるな」
「ほ……ほんとに!!!? それ嘘じゃないよね!!!???」
「お、落ち着けって……」
あたしは興奮しすぎて昇天しそうな七瀬から目を逸らして、高い天井を見上げた。
「別にあたしは男とか女とか気にしねーよ。たぶん、好きになった奴が好きなんだと思う」
「な、なるほど……! でもなんか、ミズキちゃんらしいや」
「あたしらしい?」
「うん。ミズキちゃんは……きっと、そういう色々なことに寛容な人で…………どんな人だって否定せずに受け入れられるすごく優しい人だから……だからそういう拘りが無いって聞かされても、なんだか納得できちゃうよ」
「……?」
なんか異様にあたしへの評価が高いなこいつ。
別にあたしはそんな優しい奴じゃねぇけどな。
こいつにも特段優しい事をした覚えもないし。
まぁ、でも七瀬がそう思ってくれてるなら、それは嬉しい事だな。
「わたし……ミズキちゃんが同じ部屋の人で良かったな……」
「……そうか。まぁ、あたしもお前でよかったよ」
「え!! そ、それって……わ、わたしの事を……!!!!」
ぼっと顔を赤くする七瀬。
「わたしとミズキちゃんが……はわわわわ!!! ダメダメダメ!! わたしは百合にならないの! 傍観者でいるの!!」
「勝手に話を進めんなボケ!! ちげーよ!!!」
「え……じゃあ、どういう……」
「お前がお嬢様っぽくねぇからだ。どっちかってーと普通の女の子って感じだな。あたしもお嬢様って柄じゃないし、一緒に暮らすには波長が近そうな奴がいいだろ」
「な、なるほど、そういうことかぁ……ビックリしたぁ……」
「…………お前自身は女が好きなのか?」
「ふぇ!!?」
あたしはなんとなしに尋ねる。
先ほどから気になっていた事だ。こいつは他人のイチャイチャを見たいという割に、自分がその立場に行くのは頑なに拒否している。
それが少し気になっていた。
七瀬は顔を真っ赤にして俯いた後、静かに口を開いた。
「そ、そりゃ……好きだよ。でもわたしみたいな陰キャでコミュ障なオタクが……誰かに好かれる訳ないし……それに百合ってのは尊くて神聖なものなの!! わたしなんかが踏み入るにはおこがましすぎるっていうか……」
「……そんな気にしなくていいと思うけどな」
「あ、で、でもね!! 妄想の中で理想の女性像はあるんだ! こんな人と恋に落ちれたら最高だろうなって!」
「ほー、七瀬の好みってやつか。どんな女が理想なんだ?」
「うんっ、えっとね、クール系の美人さんで賢くて頼り甲斐がある人! でも悪いというかダメな部分もあって、わたしが支える事でようやく関係が成り立つっていうか、そういうのが理想かなぁ……♡」
クール系美人で、賢くて、頼り甲斐がある。
でも悪くてダメな部分がある……。
え、いや待って。
「そんな人と付き合えたら幸せすぎて爆発しちゃうよ〜〜!」
七瀬が妄想を爆発させているのか、幸せそうに表情を綻ばせていた。
だがあたしの心中は穏やかではない。
やばい……非常にやばい……!
いるぞあたしの近くに……こいつの理想に当てはまる女が……!!
しかもとんでもない悪女が……!
脳裏に浮かぶのは女癖の悪い親友の姿。
「でもわたしはやっぱり見る方が好」
「おい、七瀬」
「ん、どうしたの……って、すごい顔だけど!!? ほんとになに!?」
七瀬があたしの顔を見て驚きの声をあげる。
だがそりゃそうだろう。だってあたしはかつてない程、必死の形相で七瀬に掴みかかっていたのだから。
「いいか七瀬、そのタイプの女だけはやめとけ……地獄を見るぞ」
「なんで!?」
三沢カナ。
あいつと七瀬だけは絶対に出会わせちゃいけねぇ。
七瀬は前髪が長くて目元が隠れているが、顔はかなりの、いやぶっちゃけ超絶美少女だ。
それに胸も半端なくでかい。
カナのストライクど真ん中だ。
カナの毒牙から七瀬を守るためにも。
あたしは密かに固い決意を胸に灯した。
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