第13話「いざグレーステスト!」

 

「今日はぁ、皆さんご存知〜〜グレーステスト……でぇ〜〜す」


 ハナチャンがゆったりとした調子で言う。


 皆さんご存知って、あたし知らなかったけど。


「知ってると思うけどぉ、一応、説明しておくねぇ」


 いや、ありがてぇ。先生の義務を果たしてくれてマジサンキュー。

 そうそう、さっきからずっと気になってたんだよ。


 大きな特典ってやつがよ。

 ハナチャンが説明をしながらプリントを配り始める


「グレーステストはぁ……様々な知的能力をぉ〜〜チェックする……年に1回の一大テスト……で〜〜〜す」


 ハナチャンの言葉を聞いている内に、プリントが回って来た。

 そのプリントにはテストに関する注意事項が書かれていた。


 まぁカンニングしちゃダメとか。

 そんな情報だ。



「このグレーステストで……上位になった3名はぁ……一人前の淑女だとみなされぇ………大きなご褒美がありますよ〜〜〜」


 なるほどねぇ。

 上位3名か。この聖アルで上位3名っていうと、お嬢様の上に立つ最強お嬢様達ってことだ


 だが依然として気になるのは。


「なぁ、ハナチャン。褒美ってなんだ?」


 そう尋ねた瞬間、みんなの視線が一気に寄せられる。


「神田、さん……口調がぁ……なって、ないぞぉ〜〜〜〜」

「あっ、い、いや、すんませんでした! ですわ!!!」


 みんなの前で先生に向かってタメ口を使ってしまった。


 ここはお嬢様学校。

 さすがのあたしも少しは馴染まないといけない。


 クソ、年上関係なくタメ口を使っちまうクセを何とかしねぇと。


 金髪が呆れ顔でこちらを見ていた。

 何見てんだよ、しばき倒すぞボケコラッ。


 直接口には出せないので内心威嚇していると、ハナチャンが質問に答えてくれた。


「詳しくはぁ、言えないんだけどぉ、とっても凄いものだよ〜〜。あっ、一つだけ言えるのはぁ…………去年はねぇ、イギリス王室に謁見しに行ったんだ〜〜」


 ま、マジかよ!?

 やっぱこの学校次元が違うわ。


 普通学校の行事でイギリスの王様に会いに行くか? いや、行く訳ねぇよな。


 でもイギリスの王様かぁ。会えたら人生の自慢になるよなぁ。

 一生どこでも自慢できるよなぁ。

 うん、そう考えると会いたくなってきたな。


 よし、決めた。


 あたし上位の点数とって、イギリスの王様に会いに行く。

 そうなると、今日のグレーステストってめちゃくちゃ凄いテストじゃねぇか!


「じゃあ、そろそろグレーステストの説明だよぉ。このテストはぁ、全部でなんと〜〜〜〜10科目っ!」


 ……え、なんて?

 10科目? それを一日でやるの?


「国語、数学、社会、理科、語学。語学は英語、フランス語、ドイツ語、中国語、イタリア語の内から、二つ選んでねぇ。それと、総合芸術、情報、礼節、経営学。この10科目、1000満点でテストしまぁ〜〜〜す」


 うげぇ〜〜〜あたし死んだ〜〜!

 最下位確定〜〜〜〜!!


 さようならイギリスの王様。


 せめて体育があれば何とかなったのに……!!


「じゃあ〜〜さっそく、国語のテストから開始するよ〜〜〜! みんなぁ……机の上は筆記用具だけにしてねぇ〜」


 ハナチャンの言葉を皮切りに、みんなが一斉に荷物を片付け始める。そして筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出していた。

 その時、あたしは気付いた。


 自分が筆箱を持って来ていない事に。


 や、やべぇ。

 筆箱忘れた。あたし学校に何しに来てんだよ……。


 でもこれは仕方ないと思う。


 だって中学の頃は真面目に授業を受けた事なんて一度もないし、筆箱なんか持っていく必要が無かったから。

 困ったなぁ。このままじゃテストは0点だ。どうせ受けても0点だろうけど。

 あたしが困っていると、琴音が耳元で囁いてきた。


「あの、ミズキさんっ」

「ん、どうした琴音?」

「筆箱を忘れたのですか?」

「う、うん……やらかしちまったわ」

「では、こちらを」


 そう言って琴音は、黒色のシャーペンと新品の消しゴムを差し出してきた。


「い、いいのか?」

「もちろんです。困ったときはお互い様ですから」

「琴音……ありがとうな」

「いえいえ」


 琴音は女神みたいな笑顔を向けてくれた。


 いや、もう本物の女神。


 テストで筆箱を忘れるなんて言語道断もいいとこなのに。

 こんな情けないあたしに手を差し伸べてくれる。


 やっぱ世界で一番好き。

 愛してるぞ琴音。


 琴音からシャーペンを受け取ったあたしは、気合を入れ直した。

 よし、イギリスの王様に会いに行くために頑張ろう。テストなんてクソだるいけど、そんな機会があるなら掴まない手は無い。

 前の席からテスト用紙が回って来る。


 うおぉ……なんかすげぇ緊張する。

 高校入試の時だって、こんなに緊張しなかったぞ。


「みなさ~ん、テストは、回ってきました、かぁ~?」


 テストが始まる。


 待ってやがれイギリスの王様。

 あたしは必ずてめぇに会いに行くぞ。


「行き渡った、みたいですね~」


 大丈夫。

 あたしならやれる。自分を信じるんだ!


「じゃあ、テスト時間は60分! 開始っ~〜〜〜」


 ハナチャンの掛け声で、全員がテスト用紙を開いた。

 あたしもそれに続くようにテスト用紙に目を通す。


 国語の文章がつらつらと並んでいる。

 国語なんてしょせんは日本語。日本人が解けない方がおかしいってもんだ。


 あたしは文章に目を通し始める。



 だが不思議な事に、数分後あたしは意識を手放していた。



 次に目を覚ました時にはテストが終わっていた。


 この時点で国語のテストは0点になる事が確定。


 うん。

 よくよく考えれば、このあたしがテストに集中できる訳ねぇじゃん。


 もうイギリスの王様なんてどうでもいいわ。

 ていうか残りのテストだるいんですけど。


 帰ってユーチューブで『南海オンエア』でも見よう。


 帰ってもいいかとハナチャンに聞くと、


「ダメ……でぇ~す」


 と言われた。


 だから仕方なく残りのテストも受けた。


 全部寝てやった。

 いや、寝るつもりは無かったんだけど、気が付けば全科目開始5分で寝ていた。


 こうしてあたしのグレーステストは幕を閉じたのであった。

 ちなみにテスト結果は明日発表されるらしい。


 まぁ、どうせあたしは最下位だ。

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