第2話


 翌朝。教室。


「ふあぁ~」

「ユーカ寝不足?」


 あくびをした優香に話しかけてきたのは、ギャル友の朝宮京子。


「ん~昨日も徹夜で~」

「またぁ?」

「んー」

「てかほどほどにしとけって」

「別に数学の時間に寝ればいーし」


 京子は呆れ顔でため息をつく。


「そんなんだから毎晩エンコーしてるって噂されんの」

「は? してねーし。何それ?」

「あんたがいつも眠そうにしてるせーでしょうが。すぐサボるし」

「そんなん関係な……」


 勝手な噂に優香が文句を言おうとした時、誰かが彼女の前で立ち止まる。

 それは昨日彼女が助けた八代アリスだった。


「あの……優香先輩」

「あれ? あんた昨日の?」

「てか誰?」


 横から京子が口を挟む。


「アリス。1年生の」

「いやそりゃタイの色見りゃ分かるけど。じゃなくて、知り合い?」

「まあね」


 優香は頷き、アリスに視線を戻す。


「で、どしたん?」

「その、昨日のお礼に……」


 と言って、アリスは優香に何か差し出す。


 それは彼女が好きと言っていたパンダ・ザ・ジャックのぬいぐるみストラップだった。


「先輩かわいいって言ってたので、もしよかったら」

「えーかわいー。もらっていいの?」


 優香が尋ねると、アリスはこくりと頷く。


「ありがと」


 優香はパンダを受け取り、早速自分の通学鞄に取りつけた。


「どうキョーコ、かわいくない?」

「パンダの目ぇ血走りすぎじゃね? てか鞄ジャラジャラさせすぎな」

「それは別にいーっしょ」

「フツーに鞄重いだろ」

「それはそう」


 優香は京子とケラケラ笑う。


 それから優香はアリスに向き直る。


「マジありがとね。めちゃ大切にするし」

「はい。それで、その……」


 まだ何か言いたそうにして、アリスはスマホを取り出す。


「よかったら優香先輩のLINE教えてもらっていいですか?」


 そう言いながら、アリスは恥ずかしそうに顔の半分をスマホで隠す。


「あー、私LINEやってないんだよね。なんかメンドーだし」


 若干気まずそうに優香は頬を掻く。


 それを聞いたアリスはガーンと絶望的な顔をする。

 彼女の反応を見て、また気まずそうにする優香。

 横でそのやり取りを眺めていた京子は軽くため息を吐く。


「てかあんたもいー加減LINE始めろって。あーしも連絡取りづれーんだよ」

「電話でいーじゃん」

「そーゆーことじゃねー」


「……」


 じゃれ合うふたりの様子を、アリスが羨ましそうに見つめていた。


 その表情がしょんぼりしているように見えた優香は苦笑して。


「そんな顔しないでって。番号なら教えるからさ、何かあったら電話して」

「は、はい!」


 途端にパッと表情を明るくするアリス。


(やっぱ笑うとかわいー)


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