第3話 心優しいお婆さん
走り事続けて数分後、走り疲れたウィルは走るのをやめて歩いていた。
息を荒らしながらも歩き続けてくれる。春樹はキキを抱き上げながら辺りを見渡している。
警戒しながらも、春樹はウィルにある質問をしてみた。
「なぁ。ウィル」
「ん? なんだ?」
「お前らっさて、いつからこんなに体が大きくなって話すようになったんだ? 世界が崩壊する前から存在しているのか?」
「いや、世界崩壊後にこうなった。崩壊した後にそれぞれの動物達に使命が下されてこうなったんだ」
「えっ。なんて」
「戦う勇気のあるものに武器を与え、怪物を殺せとな。正体は不明だけど、森の中にいる時に頭に流れ込んできて、今はこんなふうさ」
ウィルは大きなあくびをした。
「ん? おやおや、道案内してくれる奴がいたぞ」
「えっ、何処に?」
ウィルの言葉に探してみると、ウィルは前を見続けていた。春樹は同じく前を見てみると、建物の陰に黒いボロボロの布が見えた。
もしかしたらと思いながらも、ウィルはその布に近づいた。
近づくと、そこにはうずくまっている死神だった。
「あっ、死神」
春樹がそう口に告げると、その死神は顔を上げた。
骸骨の顔を見せながらも、何故か寂しい顔をしている。
「あっ、ウィル」
「やぁ、ルシー」
ウィルは目の前の死神のルシーに挨拶をした。
「えっ、二人知り合いなの?」
春樹は驚きながら言うと、ウィルはいつも通りの低い声で
『あぁ』と返した。
「春樹と会う前に一回な、近くに心がボロボロになっている奴が居るから誰だと思いながら見ると、こいつがいたわけさ」
ウィルは笑みを浮かべながら言った。
ルシーは春樹に顔を向けると、後ろにある剣に指を指した。
「こいつは特別な者か?」
「あぁ、そうだ」
ウィルはそう言うと、ルシーは立ち上がり、薄汚い袋を持った。袋は少し膨らんでいる。
何個かの魂が入っているのだろうと、春樹は顔を曇らせながらその袋に顔を背けた。
ルシーは春樹の顔に気が付くと、袋を隠した。
「ごめん、俺、これだけの魂を集めてて心が痛いんだ。これだけ人が死んだって目にすると」
ルシーは春樹に謝りながら袋を服の中に隠した。
「だろうな。お前の心、前よりも酷く歪んでいるぞ」
「ハハ、やっぱウィルには見透かされるな。俺の今の心」
ルシーはそう言うと、「さて」と言って顔を向けた。
「それと、ウィルはどっちに行きたいんだ。お前と会うときは心の癒しを貰うのと道を案内するだけだからな」
ウィルに向かって言うと、すかさず春樹に顔を向けた。
「いや、今回は春樹と言う今俺の背中に乗っている奴が何処かに行きたいみたいだから、この子に言ってくれ」
ウィルの言葉を聞いたルシーは、顔を春樹に向け、再び
「何処に行きたい」と言った。
春樹は動揺しながらも、言った。
「今は静かに眠れる場所に行きたいんだ。そこだったら、少しだけ安全に暮らせると思うからね」
春樹はそう言うと、ルシーは左を指した。
「ここをまっすぐ行けば、赤の花柄のバンダナを巻いたお婆さんに出会う。家に煙突から煙が出るからそれを頼りに付いていけば見える。お婆さんは時々木を燃やすから、今はまだ木は燃やしてはいないだろうけど、そこの婆さんの所に泊らせてくれませんか? って言えば良い」
「そうなんだ。でも、大丈夫なのか? その煙に怪物たちが反応をするんじゃないのか?」
春樹はそう言うと、訳を話した。
「いや、あのお婆さんにはウィルと同じ生物にあるものを貰っているから守られているんだ。だから安全だ」
ルシーはそう言うと、春樹たちに向かって「さようなら」と言い残し、影の中に消えていった。
春樹たちはルシーに言われた通りに真っ直ぐの道に歩んでいった。寒さに我慢をしながらも、春樹は赤くなった手に息を吹き替える。
お腹が減る音がすると、ウィルは歩くのをやめた。
「どうした、お腹が減ったのか?」
ウィルは後ろを向きながら言うと、春樹は顔を赤くしながら「あぁ」と、言った。
キキだってお腹を鳴らしている音が聞こえてくる。
「だったら、あの目の前にある所で座って食べよう。そしたらあの中に水でも入っているだろう」
ウィルは顔を斜めにあるコンビニに向けた。
コンビニに近づくと、春樹はウィルの背中を降り、カバンから肉と猫用の缶詰を取り出し、缶詰の蓋を開けて渡した。
二匹は小さい缶詰をぺろりと食べてしまった。
春樹はカバンの中に入っていたビスケットを食べていた。
空腹を無くした一人と二匹の動物は、早速コンビニ内にあるものを探した。
入るとパンと雑誌とお菓子が置いてあった。おまけにお化粧品とかが落ちていた。
小銭とかが散らばっていて邪魔くさかったが、春樹はコンビニを回った。
リュックの中にパンとお菓子と傷を治す包帯とかをリュックに詰め込んだ。
「あっ! 腕時計の電池も忘れないようにしなきゃ」
春樹はすぐに付けている腕時計の同じ電池があるかを探した。
(うーん、やっぱここにはあまりなかったか。他の所にでも探しに行くか)
春樹は諦め、ウィルの所に戻った。
すると、春樹はウィルに巻いた包帯のことを思い出した。
「あっ、そうだ。なぁウィル」
「何だ」
「ちょっと足いいか? お前の傷どうなったか見たいからさ」
春樹は訳を言いながら、足の汚くなった包帯を外した。
外したが、未だに傷は消えていない。
「ウィルは、自分の傷は治せないのか? 俺とキキのは治せてもお前だけ治せていないぞ」
春樹は顔をあげながら言った。
「俺は良いんだ。たとえ傷が出来ても何日かしたら治るからな」
ウィルは傷を舐めながら言った。春樹は再び消毒液を布に染み込ませ、傷を拭いた。
そして新品の包帯を巻いていると。
「あの」
春樹は人の声を聞くと、顔を上げた。後ろには、籠の中に缶詰やお米を少し入った袋や麺の具やスープをいっぱい入れているのを持った赤色の花柄のバンダナを巻き、動きやすそうな格好をしたお婆さんが居た。
(あっ、この人)
ルシーから聞いたお婆さんと一致をしていた。
「貴方は」
お婆さんは警戒をしながら春樹の声を掛けたため、春樹はすぐに立ち上がり挨拶を交わした。
「あっ、安心してください。今、仮面を外します」
春樹は付けていたお面を外し、一通り自分の名前とウィルの正体、キキのことなどを話すと、お婆さんは安心したのか顔を明るくさせながら手を叩いた。
「ルシー君のお知り合いね」
「えっ、知ってるんですか?」
春樹は驚きながら返すと、お婆さんは笑みを浮かべながら
「えぇ」と言った。
「えぇ、食材を探している時に会ってね。最初は警戒をしたんだけど、何もしないよと言った後に化け物がもう少しで来るから、ここに隠れてって言うからその通りにしたら本当に来たのよ。それから、その子のことは警戒しないで言ったのよね」
お婆さんはルシーのことを笑顔で語り掛けていた。
「まぁこの世界になれば誰も警戒するわよね。私なんか、爺さんを殺されたからね。」
少し顔を曇らせながら言うお婆さんに、春樹は胸を締め付けられる感覚がした。
「それでなんだけど、貴方たちこれからどうするの?」
「えっ、あの、出来れば泊まらせていただけませんか? 一晩だけで良いんです」
春樹がそう言うと、お婆さんはニッコリと微笑んだ。
「いいわよ。今日は泊っていきなさい」
お婆さんは笑顔を見せながら言った。
「本当ですか!」
春樹は驚愕をしながら言うと、お婆さんは笑みを見せなが言った。
「えぇ。久々に他人と話すのが嬉しいし、何よりもこのまま他の場所に行くだなんて考えると危険でしょうがないわ」
お婆さんは手を口に押えながら笑みを漏らしていた。
「そうですかって、あの、ルシーから聞いたんですけどあなたの家ってここらへんじゃありませんよね。あっ。でも、ウィルと同類の動物があなたに贈り物を今持っているんですか?」
春樹は周りを見ながら言うと、首を横に降った。
「贈り物は家に置いてます。家は私にとっては命そのものなんですから」
お婆さんはそう言っていたが、春樹は思わず怒ってしまった。
「何しているんですか! 贈り物を持っていたならまだしも。贈り物を持っていない以上結構危険じゃないんですか! いや、そもそもここら辺が家では無いとすると結構危険じゃないんですか!」
春樹はそう言った。けれどお婆さんは相変わらず笑みを崩さないまま話を続けた。
「その時は何処かの家に逃げ込んでそこで一晩暮らすわ。あっ、挨拶し忘れていたわ。私は佐夜子と申しますわ。それでは、私の家に向かいま春樹は」
佐代子は元気よく言うと、突然身体がふらつき倒れそうになった。
春樹はギリギリに佐代子を抱き抱えた。
「おわっ、大丈夫ですか佐代子さん」
「フフ、もぉ年のせいかしらね。ごめんなさいね」
佐代子は笑みを浮かべながら春樹の手を握った。春樹はこのままだと危ないと感じ、ウィルの背中に乗るように言った。
「えっ、だけどあなたが乗っていらっしゃたんじゃあないんですか?」
「良いんですよ。貴方が倒れる前に乗ってください。籠も持ちますからね」
春樹はそう言いながら佐代子の籠を持った。
察してウィルは少ししゃがみ込み、佐代子が跨れるくらいにした。
佐代子は申し訳なさそうにしながら、ウィルに跨った。
春樹はリュックを背負うと、ウィルに歩くように言った。キキも春樹の後ろにいながら歩き始めた。
佐代子は周りを見ながら春樹に話しかけた。
「本来は近くにコンビニがあるんですが、日にちが過ぎるたびに食べ物が減っていくんで、ここまでいくしかなかったんですよ。まぁぼちぼち毛糸も買いに行きますがね」
佐代子さんの話に、春樹は「もう少し買いに行きますか?」と言うと、佐代子は笑顔で言った。
「えぇ、良いのですか? 出来れば近くにあるスーパーに行ってくれませんか?あそこにパンや飲み物がいっぱいあるんです。一応かごもありますからそれに詰めて持っていきましょう」
佐代子は手を合わせながら言った。春樹は仮面を付けて歩こうとすると、ウィルは周りを見回し始めた。
「どうした。ウィル」
春樹は仮面がずれたのを直しながら警戒をし、ウィルに言うと。
「春樹乗れ、後ろから何かが来るぞ」
ウィルの言葉を聞いた春樹は、佐代子に少しどかしてもらうように頼み、佐代子の前に座ると、籠を持ってもらい、キキを服の中に入れた。
「捕まってください」
春樹は佐代子に言うと、佐代子は「はい」と言い、籠を持ちながらしっかりと春樹の背中に手を回した。
ウィルは二人と一匹が自分の中に乗るのを感じると、走り出した。
息を荒くしながらも、ウィルは走り続け、建物の後ろに隠れた。
「静かにしてくださいね」
春樹は後ろを向きながら佐代子に言うと、佐代子はゆっくりと頷いた。
キキは服の中から顔を出しながらウィルが言った”奴”が出るのを待った。
すると、確かに誰かが近づいて来る音が聞こえてくる。
その音はどんどん近くに来ている。
「クェ――――!」
突然、大きい鳥の鳴き声が聞こえてきた。春樹たちは耳を思わず両手で塞いだ。
耳を塞いでいる同時に目の前に鳥の足が見えた。それはとてもデカい足が見えた。
春樹は見上げてみると、それは熊の胴体を持ったダチョウだった。
ダチョウは何人かの人間を咥えていた。おまけに血で滲んだ袋を持っている。
ボリボリと骨を砕く音を響き渡せながら前に進んでいる。
その光景に息を飲みながら、去っていくのを見届けた。
「ふぅ、佐代子と言ったかな。あれはまだ周りにうろついている。出来る限りの警戒心は保ってくれよ」
佐代子はウィルの言葉に頷いた。
その後、怪物といつでも戦えるように春樹は剣を構えながらスーパーに目指した。
扉の前にある籠を持ち、パンのコーナーに行った。腐っていないのを確認しながらカバンの中に出来るだけ詰めていった。
旅に持っていけるものをリュックに少しだけ詰め、後は籠の中に入れた。
ウィルのための果物缶詰やソーセージ、パンなどをカゴに入れていると。
「よし、あとは」
すると、佐代子が春樹の肩を叩き、イチゴジャムとブルーベリージャムを見せてくれた。
「ここジャムもあるわ。春樹君は何が良い? あっちにもまだまだたくさんあるわ」
佐代子は笑顔を見せながら春樹の手を握り、ジャムのコーナーに向かった。
連れて行ってもらうとそこには色々なジャムが置かれていた。
「俺は少しリュックに詰めるんで佐代子さんは籠の中に詰めてください」
「分かったわ」
佐代子は笑顔で解釈すると、籠の中に入れて行った。
「あっ。そう言えば佐代子さん」
「はい、何でしょうか?」
「あなた、家から出ないとき何をしているんですか?」
春樹の質問に佐代子は「えーとね」と言葉を呟いた。
「家に置かれている本を繰り返し読んでいるだけかしら? あとは近くにあるコンビニとかの本ね」
「そうですか。良ければなんですけど」
言いかけた時、ウィルが声を掛けた。
「どうした。何か近づいて来るのか?」
「そうではない。なぁ、さっきほんと言っていたが、どんなものなんだ?」
「えっ。あぁ、本ていうのはこんな感じで四角い形をしていて、ある意味物語とか勉強の参考書。あとは絵が書かれているやつは漫画って言うんだ。ある意味、様々な種類があるっていうことだ。でも、どうして聞いたんだ?」
春樹はそう言うと、ウィルは出口に顔を向けた。
「先ほどこの右に春樹が言ったホンのような形があったんだが、違うか?」
ウィルの言葉に春樹は佐代子の隣にいるように言い、外に出て右を見ると二つ目に書店と書かれたお店があった。
(こんな奇跡的なことがあるのかよ)
春樹は心の中で思った。
店の中に戻り、佐代子にそのことを伝えると是非とも行きたいと言った。食料も出来るだけカバンの中に入れると本屋に向かい、何冊か佐代子は気に入った本と子供用の本を入れた。
「あれ? なぜ子供用の本を?」
春樹は不思議に思い、思わず聞いた。佐代子は笑顔で説明をした。
「実は私、息子がいるんです。二年前に孫が出来て、それで遊んで。でも、このような事が起こってから生きているかはどうかは分からないんです。だから、もし来た時のために一応ね」
佐代子はそう言って本を選び続けた。
満足をし終わり、早速佐代子の家に向かうことになった。
春樹は佐代子をウィルの背中に乗せ、カバンの中に入れるぐらいに本を入れ、残りは佐代子に持たせた。
本屋かいまはら出ると、ウィルは左右を見渡し、歩き出した。
ウィルは時々何かと角に隠れながら佐代子の家に向かった。時々訳も分からないものがいるが、そいつを無視しながら懸命に家に向かった。
歩き続けていると。
「あっ、あれですわ」
佐代子は春樹の後ろにいながら指を指した。
指の先には、壁が白、窓が五つに黒い煙突、そして横には細長い木が育てられている。
「すっ、凄いですね。ここに住んでいるんですか?」
あまりの豪華に春樹は言葉を失いそうになった。
佐代子はウィルから降りると、早速扉に向かい、開けてくれた。
「さぁ入って、早く寒い体を温めなくちゃ」
佐代子はしわくちゃな笑顔を見せながら入るように言った。
春樹はウィルから籠を受け取ると、中に入ろうとした。佐代子は後ろにいるウィルが入らないことに声を掛けた。
「ウィル君も入らないの?」
佐代子がそう言うと、ウィルは遠慮をした。
「俺はいい。一応、見張りはしておく」
そう言うと、横にある窓の近くで体を縮めた。
春樹は家の中に入ると再び驚いた。中は大きいソファや丸いテーブルが置かれていた。
後ろにはキッチンがあった。カーテンは白く、まだまだ新品に見える。
佐代子は持っていた籠をキッチンの上に置き、棚の中からコップに二個を取り出した。
「さぁさぁ春樹君、ソファに座ってて、ココアでいいかしら。さっきまだ未完封の牛乳があったから」
「えっ、はい。ありがとうございます」
春樹は礼を言いながらソファの横にカバンや剣を置き、ソファの上に座った。キキも服の中から出し、隣に置いた。
キキは服の中から出ると、隣で身体を丸めながら眠った。
春樹は背もたれをすると、窓を見た。外は既に夕方となっていた。春樹は仮面を外した。
仮面を外し、ため息を漏らした。
佐代子はキッチンの棚から小さめのコンロとスプレー缶を洗い場で設置をし、キャンプで使う小さめなレトルの中に水を入れ、火を出した。
「これでミルクが温まったらココアの粉を入れるだけよ。その間に、キキちゃんは喉が乾いていないかしら。さっきスーパーで猫用のミルクがあったから」
キキはミルクと聞くと掛け足で佐代子のもとに駆け寄った。
そんな光景を見た春樹は思わず笑みを浮かべさせた。幸せの感じを二度目で感じられるなんて本当に良いなと感じていた。
「何を微笑んでいるんだ。春樹」
ウィルに笑顔を見られ、少しだけ照れながら頬を人差し指で掻いた。
「だってなんか幸せを感じられると笑顔になれないか?」
春樹は笑みを見せながらウィルに言うと、ウィルは興味が無さそうに顔を背けた。
「まぁ、確かに。あの婆さんには心が綺麗だからな。本当だ。まさに女神と言うべきだろう。言っとくが、これは嘘ではないぞ」
ウィルはそう言うと、周りを見わたした。
春樹は数分間、レトル沸騰するのをじっと観察をしていた。すると、中からぐつぐつと言う既に温まったかのような音が聞こえてきた。
その音を聞いた佐代子は、キキにミルクをあげると手袋をはめ、ポットを持ち上げると、すぐに速足でキッチンに行き、ポットを置いた。
今では動かない冷蔵庫の中からココアの袋を取り出し、スプーンでココアの粉を二杯入れ、水を少しだけ入れ、かき混ぜた。そこにたミルクを入れると、すぐにかき混ぜた。
「春樹君、出来たわよ」
佐代子はココアが入っているコップ二個を持ちながら春樹に言った。
「ここに置いとくわね」
佐代子はそう言うと、コップを置き、前にあるもう一つのソファに座った。
春樹もソファに座り、まだ熱いコップを持ち、口元に近づけると息を吹きかけ、少しだけ飲んだ。暖かく、甘いココア
の味が心を落ち着つかせるような感じが溢れている。
飲み込んだ瞬間、春樹は思わず眠りそうになってしまった。
「美味しい?」
佐代子はコップを持ちながら春樹に言った。
「はい! とても美味しいです」
春樹は元気よく言うと、佐代子は笑みを漏らした。
「それは良かったわ。それよりも、ここに来るお客さんはあなたで二人目ね」
「二人目ですか?」
「えぇ。この前はトナカイさんがこちらに来たのよ」
「……」
トナカイと言う言葉に春樹はコップを強く握った。トナカイ似た怪物に母を殺されたことを思い出し、少し怒りが出てしまった。
「そのトナカイさんが贈り物をくださったんです」
「へぇ、ちなみに何ですけど、どのような贈り物何ですか?」
春樹は言うと、佐代子はゆっくりと立ち上がり、後ろにある小さい棚に行き、二番目の引き出しを開けた。
「はい、これがくださったものよ」
佐代子は笑顔で春樹に渡してくれた。
佐代子が持っていたのは、細長い木のようなものだった。けれど何故か心が綺麗になれる感触がした。
「これは」
「トナカイさんが自分の角を折ってくださったの。最初はとても貰え無かったわ。何せ自分の角を折ったものだったから貰えなかったけど、どうしても貰ってくれって言うから、貰ったのよ」
笑顔で言う佐代子に、そのトナカイは自分の角を折るほど人にやさしくしてくれる動物なんだなと思った。それもウィルと同じくらいの動物がここに来たんだなと感じた。
春樹は佐代子の昔話を聞きながら、ココアを飲み干した。
飲み干したコップを持ってきた水で洗う佐代子に春樹は手伝いをせねばと思いながら佐代子に言った。
「あの佐代子さん」
「はい」
「俺ら手伝いましょうか? ここら辺にある木をかき集めますけど」
春樹がそう言うと、佐代子は「良いの?」と驚愕する顔をした。春樹は頷くと、佐代子は申し訳なさそうに「じゃあお願いします」と言った。
仮面を付け、剣を背負った。佐代子に籠と頑丈の紐を貰った。
「外に出るのは俺が帰ってきてからにしてください。それまでは家の中にいてくださいね」
春樹はそう言うと、佐代子は笑顔で「分かりました」と言った。
早速外に出ると、ウィルは眼を覚まし、春樹に近づいた。
「何だ春樹、何か手伝いするのか? 俺も行く」
ウィルはそう言うと、春樹を背中に乗せる準備をした。
「あぁ、ありがと。これから木を集めに行くんだ。途中からはお前の体に木を乗せて縛るからな」
春樹は縄を見せながら言うと、ウィルは「わかっている」と言った。
ウィルの背中に乗ると、ウィルは早々と走り出した。
家の辺りにある細い木は籠の中に入れ、少しだけ太い木はウィルの体に巻き付けた。
数分間、春樹は沢山の木を切り落としてはウィルの体に巻き付け、細いのは籠の中に入れていった。
家の辺りは血潮がたくさんあった。車が壊れているのとひっくり返っているのを見て春樹は前の街より凄いと感じていた。
すると、ウィルは春樹に話しかけた。
「あっ。そういえば言い忘れたことがあるんだ」
「えっ。それってさっき言ったお前と同じやつのこと?」
「そうだ。察しがいいな」
「それほどでも。で、その子がどうしたの?」
春樹は籠の中に入っている木を整えながら返事をした。
「いや、あの佐代子が言う奴はアイゼアかもしれん。言った特徴が似ていたからな。他に、強気者、心優しい者、勇敢な者、選ばれし者に自分が身に着けている物を一つ渡す。それが私達の使命。俺は尻尾からお前に渡した剣を作り出した。他には牙や角に蹄、これらを人間達にあげること」
ウィルは前を見ながら春樹に向かっていった。
「けれどさ、俺のパートナーになることも同じなのか?」
春樹はそう言うと、ウィルは顔を上げた。
「いや、それぞれの持ち物によってパートナーになる。俺の様に武器な者だったらその者に付いて行き、武器ではないものはその人間に物を渡すだけだ」
ウィルはそう言うと、再び黙り出し、歩いていた。
そんなウィルに、春樹はなんか変な奴だな、と思いながら歩きだしていった。
何歩か歩いていると、さっきとは違うコンビニが見えた。
「あっ、ウィル」
「ん? なんだ」
「あそこにコンビニがあるぞ。あそこにもう少しだけ食料を取らないか? 佐代子さんの為にも少しだけ飲み物とパン取りに行こうよ」
春樹はコンビニを指しながらウィルに言うと、ウィルはその言葉に賛成をした。
早速コンビニに近づき、中に入り込んだ。
中に入ると、予想通りさっきとは違う量が入っていた。春樹はすぐにパンのコーナーに向かい、四個ぐらいのパンを籠の中に入れ、その他にはカップラーメンをいくつか籠の中に入れた。
「よし、さぁ帰ろう」
春樹は元気よく言うと、ウィルは了解したと頷いた。
数分間、歩き続けると、灯りが付いている佐代子の家を見つけた。
家の近くになると、ウィルの体に巻き付けている木を降ろした。
ドアを三階叩きながら声を掛けると、中から佐代子の呼び声が聞こえながら扉が開いた。
「お帰りなさい春樹君、大丈夫? なんか変な奴らに襲われなかった?」
佐代子は心配の声を出しながら体を見た。
春樹は木を持ちながら笑顔で「大丈夫です。何も居なかったですし、襲われもしませんでしたよ」と言った。その言葉に佐代子は胸を撫で下ろした。
「良かったわ。それよりも沢山切ってくださったのね。ありがたいわ。それもカップラーメンまで持ってく来てくださって、それとウィル君」
「はい」
「ありがと、こんな沢山の木を持ってきてくださって」
しわくちゃな笑顔を見せながら礼を言う佐代子に、ウィルは頭を少しだけ下げた。
春樹は切った木を佐代子に案内された部屋に置いた。部屋には佐代子が今まで切った木が沢山あった。
「凄いですね、これを沢山持ってきてたんですね」
春樹は木を横に置きながら佐代子に言った。
「えぇ、近くにある家の木を切りながらここに詰めているの。今ではあまり太い木をあまり使わないようにたまぁに細い木だけを持ってくるんだけどね。まぁ早く夕食の時間にしましょ。今日は卵とチーズにハムを合わせたパンなの。その間にもお風呂に使ってらっしゃい。さっき、人ったドラム缶でお湯を沸かしたからすぐに出来ていると思うわ。服も勿論洗ってあげとくから服は洗面台の横にある洗濯機の上に置いといて。おまけに、私の息子が着ていた服をを置いといたから」
佐代子は笑顔で言いながらキッチンに向かった。春樹はあくびをしながらお風呂場に向かうと、確かに温かい空気がここまで伝わってきてる。
洗濯機の上にはシマシマのパジャマとタオルが置かれていた。
「あの、入りさせていただきます」
春樹は向こうにいる佐代子に叫ぶと、佐代子は「はーい」と言った。
その声を聞いた春樹は早速、服を脱ぎ始めた。すると、足元に毛の感触がした。
下を見てみると、そこにはキキがいた。
「キキ? お前も入りたいのか?」
「にゃー」
キキは相変わらず、身体を春樹の体にこすり付けた。
その行動に、春樹は「良いぞ」とキキに言い、服を全て脱ぐと、キキを抱き抱え、風呂場に入った。
浴室の中に入ると、窓は板で釘打ちをされていた。きっと怪物に見られないためにされているのだろう。風呂の中には柚が入っていたためにいい香りが鼻を突いた。
春樹は器にお湯を入れ、キキを入れた。
「気持ちいいかキキ?」
春樹は笑顔でそう言うと、キキは一声可愛らしく鳴いた。
シャンプーを手に取り髪を洗い、水で流し、トリートメントで髪を馴染ませたあとに水で流した。
ボディシャンプーを手に取ると、最初は自分の体に洗い、次にはキキの体を洗った。
「長旅であんまり体洗ってなかったらこれで少しは綺麗にな
るぞ」
春樹は笑顔でキキに言いながら、目に入らないように体を綺麗に洗った。そして、泡を全部流し終わると、器に入っているお湯を流し、再びお風呂のお湯を入れ、柚の実一つを入れた。
春樹もゆっくりと風呂の中に入った。風呂の中に入れば疲れが一気に減った。
柚の香りが体を包み込ませられる感触がしてたまらない。
今までの旅の疲れが体中から飛び出している感じがよく、おまけに眠気が出ている。
キキは柚を手で転がしながら眺めている。
一人と一匹はそのまましばらく風呂から出ることが出来なくなってしまった。
春樹は数分間柚の風呂に浸かると、キキを抱き上げ、風呂から出た。
風呂から出ると、春樹はすぐに身体をタオルで拭き終わり、キキの体を拭いた。拭き終わると、キキは身体に少しだけ付いている水を体を振りながら水をはじいた。
洗濯機にあるパジャマに着替え、リビングに向かった。
リビングに向かうと、佐代子は一枚のお皿に二枚のチーズとハムを乗せたパンとコップが置かれていた。
春樹に気が付くと、佐代子は編み物をやめ、笑顔を出しながら話した。
「あっ、どうでしたか湯加減?」
佐代子は笑顔でそう言うと、春樹も笑顔で返した。
「とても良かったです。柚のお風呂なんてとても良いですね。疲れが飛びました。」
春樹は元気よく言いながらソファに座った。
その言葉を聞いた佐代子は笑顔を思いっきり出し、「よかったわ」と言った。
「パンどうぞ。あと、ウィル君には果物の缶詰あげたわ。キキにはキャットフードを上げるわ。ほら、そこにあるわ」
佐代子が指を指した先には、お皿に乗せられたキャットフードに眼が入ったキキはすぐにその場に駆け寄り、食べ始めた。
「あっ、ありがとうございます。それでは、いただきます」
春樹は手を合わせながら言い、一枚食べた。
食べるとそれはとても美味しい、中には卵とハムとチーズの組み合わせがとても良い、
マヨネーズを合わせるとまた美味しいだろと感じながらも、思わず笑みを漏らした。
「とても美味しいです!」
春樹は笑みで言うと、佐代子はさらに笑みを漏らした。
「良かったー! 貴方がもしそれが嫌いだったら他のも用意しようと考えていたのよ。だけど、良かったわ。あっ、この後食べ終わったら少し、話をしません? もっと温かい所でね、勿論暖かいココアを入れるからね」
佐代子は笑顔で春樹に言った。春樹はそれに同意をすると、再び食べ始めた。
食べ終わると、春樹は「ご馳走様」と言うと、佐代子は編み物の道具を持ち、暖房の場所に向かった。
キキを抱き抱えると、佐代子の後に続いた。
右の部屋に行くとすぐに右の扉を開けた。
入ると、そこには木を入れる煙突に繋がる金属の箱があった。その横には揺り椅子が二つ置かれ、その上には毛布が置かれ、左右の椅子の横には丸い小さいテーブルが置かれていた。
窓らへんには、佐代子が洗ってくれた服が掛けられていた。ここだとすぐに乾くことを予想しながらも、佐代子は網の物道具を右の椅子に置き、部屋を出ようとした。
「あっ、春樹君は左の椅子に座ってね。毛布もあるからそれを肩に掛けて休んでください。私はココアを入れますから」
「あっ、なら手伝いますよ」
春樹がそう言うと、佐代子は首を横に振った。
「いいえ、貴方はお客さんなんですからゆっくりしてください」
佐代子は笑顔でそう言うと、部屋を出て行った。
春樹は感謝を感じながら、左の椅子に行き、布を自分の肩に掛けながら座った。
暖かい空気が流れる中、春樹は茶色の天井を見上げた。
今までは人に接しないようにしながら旅をしてきた。理由は一人になりたかった。むしろ一人の方が心地良かった。母を殺された憎しみが心から出て、ただ苦しかっただけかもしれない。
一人の方が傷は癒され、キキといれば何も怖くない、何も寂しい思いなんて感じなかったから頑張れたのかもしれない。その思いをこの一か月間ずっと秘め続けていた。
春樹はまだ濡れている髪を掻きむしりながら窓を見た。
窓にはただ暗い風景だけが残っていた。普段なら灯りが少しだけあるのだが今はない。
世界は崩壊され、何人かの人間が犠牲になったのかもしれない。今はまるで普通の家の中にいる感じが体を包み込んで
くれる。
(あぁ、気持ちいい)
心の中で思っていると、佐代子がお盆の上に二つのコップを乗せながら来た。
春樹は頭を下げながらお礼を言った。
佐代子はコップを春樹の横に置くと、佐代子も椅子に座り、コップを横に置き、編み物をし出した。
佐代子は編み物の道具を出しながら謝った。
「ごめんなさいね。編み物をしながら話を聞いてくれる」
「えぇ、良いですよ。どうぞ話してください」
春樹はキキを撫でながら言った。
佐代子は編み物をしながら、掛けていた眼鏡を指先で上にあげ、語り出した。
「私と亡くなった旦那わね、私が売春されていたころに会ったの」
「えっ、なんか借金作られていたんですか」
「えぇ、父親が多額の借金を作った挙句、私を売ったの。母はその時守ってたわ。私を必死に売春されないようにね。だけど、母は病気を患い、入院してしまった。その隙に父が私を闇金に売ったの。その時は絶望に満ちていたわ。心がぽっかりと穴が開いたくらいよ」
佐代子はため息混じりに言った。春樹はその話を聞くと胸が痛んでしょうがなかった。
「私はまだ指名されてはいなかったからまだよかったけれど、ある時に指名が来たのよ。好きでもない男に抱かれると思いながらその男の相手をしようとしたときに、私の旦那が来たの。私の腕を引っ張り、持っていた金を相手の男にぶつけ、店主にもお金をぶつけると、無言で車の中に乗せられたわ」
そう言うと、なぜだか佐代子は小さく笑みが出始めた。
「車の中ではね、旦那が私の手を握って『もぉ大丈夫、君のお母さんの入院のお金は私達が払っている。借金だってすぐに返したから安心して』そう言うとまた無言になったわ。私は訳が分からぬままでいると、その人の家に着いたわ。それはもぉ豪華な家だったわ。旦那は私の手を握りながら家の中入り、何処かの部屋に連れていかれた。見てみると、そこには母が寝込んでいたわ。あとで訳を聞くとね、母は旦那の父親が倒れていたところを発見し、必死に病院に連れて行ってくださったの。それがきっかけで私達を助けてくださったんですって」
佐代子は笑み漏らしながらコップの中に入っているココアを一口飲んだ。すごい
「すごいですね。まさに奇跡じゃないですか」
春樹は感動に満ちりながら眼を輝かせた。
「そうね。あの時母が助けてくれなかったら今頃地獄の道だったわ。それからは私は懸命にそこのメイドとして尽くしたわ。母は少しずつ元気になると同じくそこのメイドとして働きだしたの。けれど、母は六年後に亡くなってしまった」
佐代子は母の死を話し出すと、笑みを無くした。
「私は酷く落ち込んでいた。そんな中、私の旦那は私のことを強く抱きしめてくれたわ。『俺が佐代子さんを守ります。だから、元気を出してください』、と言いながら旦那は笑みを見せてくれた。私も釣られて笑ってしまった。本当に彼は優しかったわ。本来は、私の旦那は他のお嬢と結婚するつもりなのに、彼は私の手を引いて、父の前でこう言ったの、『俺はこの佐代子と結婚します。お父様が反対をしても、俺は佐代子さんと結婚をします。俺は、佐代子の心優しい心に一目惚れをしてしまいました。この一目惚れは一生消えません』ってね」
「すっ、すごい。凄すぎる」
春樹は佐代子の旦那の言葉に、言葉が途切れてしまった。勇敢な気持ちと佐代子の愛をそのまま自分の父にぶつけるなんて勇敢過ぎて、言葉が発せない。
春樹は持っていたコップを落ちそうになったが、春樹はコップをテーブルに置き、真剣に聞く姿勢になった。
「それで、それで、そのあとどうなったんですか?」
春樹は幼い子に戻ったかのように佐代子の話しの続きが聞きたくて、しょうがなかった。
佐代子は「フフッ」と笑うと、話してくれた。
「なんとその父親、私と旦那の結婚を認めてくれたのよ」
「えぇ! そうなんですか! 良かったじゃないですか」
春樹は笑顔でそう言うと、佐代子は「えぇ」と言った。
「私達が結婚後、お父様は私達にこの家を作ってくださったの。まさにありがたかったわ。私達は本当に幸せな気持ちで住んでいたわ。息子も生まれ、私達の幸せはもっと増えてた。けれど、その一年後、旦那の父親が亡くなってしまった。孫さえ抱けたことに幸せを感じたんだろうね。そして月日が経つにつれ、息子は大人になり、結婚もした。心が優しい息子に育って私と旦那は本当にうれしかった」
佐代子は笑みを出しながら天井を見上げた。
「けれど旦那は、私より先に逝ってしまった。怪物に食われてしまった。本当にあの時も同じく絶望に満ちていた。息子も生きているか分からない世界になってしまった。でも、夫の分まで生きてはいけなくてはって思うと生きられるの。春樹君もそう思わない」
佐代子は編み物をやめ、窓を眺めて言った。
春樹も同じく窓を見ながら「そうですね」と言った。
あの時は激しい後悔から憎しみに変わった気持ちは今でも胸の中に潜んでいる。
既にぬるくなってしまったココアを、春樹は一気にのど越しに流し込んだ。
「そう言えば春樹君」
「はい」
「あの剣は何なの? 私が触ったら少しだけ溶けていたの。あれは何なの?」
佐代子は疑問に満ちた顔をしながら春樹に言った。春樹はすぐに説明をし出した。
「あれはですね、ウィルが尻尾から作り出した剣なんです。選ばれし者しか触れない剣なんです。他人が触れば溶ける仕組みなんです」
春樹はゆっくりと説明し終わると、佐代子は納得した顔をしながらココアを飲んだ。
「てことは、あのトナカイさんと同じ仕組みの子ね。良い動物居るなんて私達にとってはうれしいけど、怖い怪物はいやね」
佐代子は少し顔を歪ませながら言った。
春樹も同意したかのように頷いた。
すると、何処からか誰かがこちらに向かってくる気配を感じた。
「春樹! 来い!」
外からウィルの声が響いてきた。春樹は佐代子にこの部屋にいるように言い、布を椅子に掛け、キキを佐代子に抱かせると走りながら部屋を飛び出した。
ソファの上にある仮面を付け、剣を握りしめ、外に出た。
外に出ると、ウィルはすでに構えていた。
「感じたか?」
春樹はウィルに言うと、ウィルは「あぁ」と言った。
「俺もだ。何かこっちに来るような気配を感じた」
春樹は剣を抜くと、すぐに構えた。何処からか何かの気配を感じながらも必死に警戒をしている。
警戒をし続けていると、さっきより気配が物凄く感じられた。
神経を取りすまして剣を構えた。ウィルは体を縮めて戦う準備を整えている。
足音がどんどん近くなっていくすえに、姿が少しだけ見られるようになった。
春樹は剣をかざしながら見ていると、何か木のような角が見えてきた。
(まさか)
母を殺した怪物かと思ったが、すぐにそれは思い違いだと感じた。
目の前には、角を生やした少しデカめのトナカイが家に近づいてきた。
「アイゼア」
ウィルは目の前にいるトナカイのことをそう言った。
「アイゼアって、まさかウィルの仲間?」
春樹は察知すると、すぐに剣を降ろした。
ウィルの言葉に、アイゼアが喋り出した。
「久しぶりだね。ウィル」
綺麗な女の声を出すと、ウィルは少しだけ笑った。
「ハハハッ、あぁ久しぶり。まさかお前がここに二度も来るなんてどうした」
ウィルは疑問に満ちながら言うと、アイゼアは少し目を細めながらゆっくりと話した。
「それはね、あのお婆さんに渡した角から何かを感じ取ったから、ここに来たのよ。お前さんの隣にいる青年は選ばれし者かね?」
アイゼアは春樹を見ながらウィルに言うと、ウィルは「あぁ」と言った。
春樹は急いで挨拶をした。
「あの、こんばんわ。山本春樹です」
春樹は元気よく言うと、アイゼアはゆっくりと少しだけ微笑んだ。
「フフ、元気な青年ね」
アイゼアが笑顔でそう言うと、
「あっ、貴方は」
春樹は後ろを見てみると、そこにはキキを抱き上げている佐代子の姿があった。
佐代子はアイゼアの姿を見ると、驚愕しながらも、すぐに笑みを見せてアイゼアに近づいてきた。
「こんばんわ、まさかまた来てくださるなんて思いもしませんでしたわ」
佐代子は頭を下げてアイゼアに言った。
アイゼアは笑みを見せながら佐代子に近づき、話し出した。
「そなたはとても優しく、美しい心を持っている。私はそなたみたいな人間が一番好きなのだ。佐代子さん。貴方が持っている角を持ってきてくれるかな?」
「はい、ちょっと待っててください」
佐代子は急いで棚に行き、角を取り出すとすぐにアイゼアの前にかざした。
「はい、これが貴方様が折った角です」
佐代子は優しく言いかけると、アイゼアはその角に自分の涙を一滴落とした。
すると、あの角はすぐに黄緑の光を発行させた。春樹とキキききは思わず眼を伏せた。
佐代子は驚きのあまり、目を伏せられなかった。
光り輝きながらも、その光が少しづつ消え、あるものに変化をした。
春樹とキキは佐代子の手の上を見た。
「これは、ネックレス?」
緑のダイヤモンドの上には、青く輝いているしズックの形をした小さいダイヤモンドに銀色の鎖の首掛けが、佐代子の腕に残ったままだった。
「これは一体」
驚きのあまり、佐代子はアイゼアに何のものかを聞こうとする間に、アイゼアは説明をし出した。
「それは“優しき女神”と言うものよ。さっきまで状態だと自分がその贈り物の近くに居れば高価はあるけど、離れると効果は少なくなってしまうんだ。陰で見守ってはいたのだが、まさか贈り物を家にの置かれているとは思いもしなかったからさ。だから、いつでも身に着けられるような感じの奴にしたんだ。これで肌身離さず持っているだろう」
アイゼアは一通り説明をし終わると、再び暗闇の中に紛れ込んで消えていった。
「なんなの。あの方」
春樹はウィルに向かって言うと、ウィルは鼻で笑った。
「フッ、あいつはいつもああさ。人に優しくし、何か守れるものを渡すとすぐに消え失せる奴だ。無駄な話をする奴が苦手な奴だからね」
ウィルはそう言うと、前に歩み、後ろを向くと大きく尻尾を揺らした。
その尻尾の先から氷の結晶が出てきた。結晶はどんどん広がり、家の後ろに回り出した。そして、結晶から次々と鋭いトゲが伸びてきた。
「何してるんだウィル」
春樹はウィルの行動に首を傾げていた。
「結界だ。何かが来た場合のためだ。これに触ればそいつが凍る。何せ、少しでも触れればたちまちそいつは身体を凍らせる。これで一晩は大丈夫だろう」
ウィルはため息混じりに言うと、家の隅っこに体を丸めて寝始めた。
春樹は「やれやれ」と思った。佐代子を見ててみると、ネックレスを握りながら前を見ている。
近づき、佐代子の肩に手をそっと置くと、我を返ったかのように春樹を見た。
「あっ、ごめんなさい。ちょっと衝撃的なことが起き過ぎて我を失ってしまったわ。さぁ、歯磨きをして寝ましょう」
佐代子は笑顔で春樹に言った。
春樹も同意し、早々と中に入り温まった。
歯磨きをし、佐代子に案内された寝室に言った。寝室には普通のベットが置かれ、目の前には大きい窓に白いカーテンが飾られていた。横にはは時計が飾られていた。
時計はすでに夜の十時を指していた。
(もぉ、そんな時間か)
春樹はそんなことを思いながらでいた。
「ここで寝ていいわよ。もう一つの部屋に寝室があるから寝ているからね。遠慮はしないでね。おやすみなさい」
佐代子は笑顔でそう言うと、ゆっくりと扉を閉めた。
春樹は佐代子に感謝をしながらベットの中にもぐりこんだ。勿論キキは春樹の隣で体を曲げながら眠った。
布団の中は温かく、とてもフカフカな状態だった。春樹はすぐに夢の中に潜り込んでしまった。
そして翌朝、外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。朝を告げる声が聞こえてくる。
春樹は起き上がるとすぐに隣で寝ていたキキも目を覚ました。
くしゃくしゃな髪を掻きむしりながら下に行くと、佐代子がすでに朝食の準備をしていた。
「あっ、おはよう春樹君」
佐代子は春樹の姿に気が付くとすぐに笑顔で挨拶をした。
「はい、おはようございます」
春樹もすぐに笑顔で挨拶をした。笑顔の首周りには、あのネックレスがあった。
トマトスープの匂いと微かな香ばしいブドウのパンの匂いが来た。
ソファの上には春樹の服があった。
「あと服はもぉ乾いているからもぉ十分よ」
佐代子は笑顔でそう言うと、一旦部屋の中に棚の中からお皿を取り出そうとしている。
春樹はパジャマの上を脱ぎ、上半身裸になるとすぐに服に着替えた。
佐代子は鍋の中に入っているスープをお皿に入れ、二枚のブドウパンを平たいお皿に乗せ、少し長めのテーブルの上に置いた。
「はい、どうぞ」
佐代子はお皿を置きながら言った。
「いただきます」
春樹は手を合わせながら言った。
食べると体が温まる感覚が広がる。トマトの味が心を暖かくする感触が本当にたまらない。心が落ち着く感じがとても心に染みて心地が良い。
その次にはパンを噛り付いた。ブドウの甘酸っぱいのとパンの味がとても良かった。これをもぉ食べられないと思うと寂しくなってきた。
笑顔で満ちられている中、佐代子は春樹の前で本を読みながら呟いた。
「もぉ出るの?」
佐代子の言葉を聞いた春樹は少し気まずいのを感じながら言った。
「はい、佐代子さんが焼いてくださったご飯を食べたら、もぉここを出ます。」
春樹がそう言うと、佐代子は少しだけ笑みを浮かべた。
佐代子の暗い顔に春樹の心が痛んだ。
食べ終わると春樹は「ご馳走様」と言い、歯磨きや顔を洗い、仮面を被り、リュックを背負うとすると。
「春樹君」
「はい、何でしょうか?」
春樹は振り返りながら言うと、佐代子の手には緋色のマフラーがあった。それは昨日、佐代子が編んでいた編み物と同じ奴だ。
「貴方にあげる」
佐代子は笑顔で春樹に紺色のマフラーを渡した。
「えっ、いいですか?」
春樹は驚愕しながら佐代子に言うと、佐代子は笑顔のまま頷いた。
「天気予報なんてなくなってしまったから分からないけど。この調子だとドンドン寒くなりそうだから、その紺色のマフラーを上げるわ。目立つかもしれないけど、もし寒かったら巻きなさい」
佐代子は笑顔でそう言った。
春樹はそのマフラーを受け通り、リュックの中に汚れないようにしまった。
外に出ると、既にウィルは出掛ける準備をしていた。周りにあった氷の結界はすでに溶け、水の後だけが残っている。
少しだけ風が吹き出しているのを感じる。
春樹は仮面を被り、キキを抱き上げ、ウィルの背中に乗り込んだ。
その姿を見ていた佐代子は少しだけ寂しっかったが、
すぐに顔を笑顔にし、春樹に顔を向けた。
「あの、今日はありがとうございました。美味しいご飯を食べさせていただいて、」
樹は別れの際に感謝の言葉を掛けた。
「良いのよ。私もとっても楽しかったわ。ケガとかをしないようにね。というか死なないでくださいね」
佐代子の言葉に、春樹は「ありがとうござます」と言った。
「息子と会えたらいいですね」
春樹は笑顔でそう言うと、佐代子は笑みを出した。
「そうね。ありがと。そして、さようなら」
佐代子は少し寂しい顔をしながら最後の挨拶を交わした。
「はい、さようなら」
春樹がそう言うと、ウィルは走り出した。
佐代子の姿が見えなくなるのを見ていると、春樹の胸がキュッと締め付けられるような痛みを感じた。
「こんな世界でも奇跡が起きるぞ」
突然のウィルの言葉に、春樹は「なぜ?」と言った。
「あの雫には、奇跡が紛れているんだ。だから、何か奇跡が起きるぞ」
ウィルのその言葉に、春樹はあることに気が付つき、思わず笑みを漏らした。
その頃、再び孤独と化した佐代子はため息を交わらせながら、食べ物を探しに行こうとすると向こうから誰かの声が聞こえてくる。眼を細めながら見てみると、それは今まで会いたかったある人だった。
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