第2話 夜の怪物

 あの無残な場所から離れて数時間後歩き続けていた。辺りを見渡してみた。


 緑の葉っぱが建物を埋め尽くしそうなのと、曲がって、既に錆びている建物がいくつかあった。


 すると、ウィルは立ち止まった。


「ん? どうしたウィル」


 春樹は聞くと、ウィルは右にあるガレキの方に近づいて匂いを嗅いだ。


「すまないが、ちょっと降りてくれ」

「わかった」


 春樹はキキを落とさないようにと思いながら背中から降り、ウィルはそのまま匂いを嗅いで歩いた。その後を付いて行き、周りを見渡すといくつかの地面の穴が綺麗に並べられているのがいくつかあった。


(なんだ。この穴は。綺麗に一列に並んでるな)


 春樹はそう思っているとウィルは立ち止まった。


「どうした」

「……先に誰かが通った」

「えっ!」

「勿論、化け物だ」
 


 ウィルの言葉に春樹は剣を握って周りを見渡した。けれど周りからは誰かがいる気配は感じない。


「一匹だけか?」

「いや、何匹かの同じ匂いを感じる。何処かに向かっているようだが、まぁ無理に出撃するのも悪い。早く行こうか」


 ウィルは春樹を背中に乗せられるように体制を崩した。春樹は警戒しながらも背中に乗った。


 歩いていると、鍵乍ら大きい音を響かせて歩く度に聞こえてくる衝撃音が耳に響いて嫌な気分になる。


 一か月でこんなにも世界が崩壊がするなんてまさに恐ろしいことだ。他の何匹かの大きい怪物たちは一体何処に行ってしまったんだろうか。海に戻ったか、他の怪物と同じ何処かに歩き続けているだろう。


 相変わらずキキは春樹の服の中で眠っていた。グッスリとお腹を膨らしながら眠っている。


 安心する光景を眺めていると、何処からか女の子の叫び声がきこえてきた。春樹は思わずウィルの名前を呼んだ。


「ウィル!」

「あぁ、分かっている。捕まってろ」


 ウィルは春樹にそう言まうと、春樹はしっかりと毛並みを掴んだ。ウィルは息を切らしながら叫び声が聞こえて場所へと向かった。


 走ると、冷たい空気が肌を触る。とても冷たい感触が肌を触るが今はそんなことを気にしてはいけない。春樹の声を聞いたキキは、思わず飛び置きそうになったが、春樹はキキをしっかり抱え、落とさないようにした。


 大きいビルの横を通り過ぎると、目の前に何十個の眼を赤く染めた大きい蜘蛛3匹が2人の母子を襲い掛かろうとしていた。


 春樹は口笛を鳴らすと、目の前の蜘蛛は春樹に気付くと体を向け、見えにく糸を春樹とウィルに向かって打った。


 糸を走りながら避けた。その間に春樹は剣を引っこ抜くとキキにあの母子の所に行くように言いつけ下ろした。


 その間に、蜘蛛の糸は次々とウィルに向かって放ってくる。春樹は糸を避けているウィルに言いかけた。


「ウィル! 俺を蜘蛛の頭に下ろしてくれ」


 春樹は叫びながらそう言った。


「その前に、奴らを困難させてる間にお前を真ん中の蜘蛛の背中に乗せてやる。」


 ウィルは前を向きながら春樹に言うと、春樹は「おっけ!」と賛成した。


 その時、左右の壁にもう二匹の蜘蛛が増えてきた。


「行くぞ! 春樹!」


 ウィルは春樹に言うと、斜め左右の糸と前の糸が一斉にウィルと春樹に放てた。


 激しい地面の割れの音が響きながら、煙がウィルと春樹を包み込んだ。


 やっと仕留めたと思った蜘蛛だったが、煙が消えると何個かの眼を見開いてしまった。


 何と仕留めたのはウィルと春樹ではなく、ただの氷だった。


 蜘蛛達はそんな光景に困っていると、上からウィルが春樹を真ん中の蜘蛛に命中するように回転をしながら春樹を下ろした。


 春樹は蜘蛛の近くまで来ると、勢いに剣を振りかざした。ザクっと言う音を聞いた蜘蛛達はすぐに自慢の糸を向けようとしたが、春樹は素早く切り裂いた。後ろにいた蜘蛛が尖っている足で刺そうとしたが、頬を擦れながら避け、剣を蜘蛛の頭に刺した。


 頬に痛みがする中、上にいた蜘蛛達はウィルの口やいつの間にか剣の様に尖がっていた尻尾にによって、緑色の血を垂らしながら死んでいた。足は捥げ、頭が食いちぎられていた。お陰でウィルは緑の血を口に付けていた。


「ありがとウィル。助かったよ」


 春樹はお礼を言いながらウィルに近づいた。ウィルは緑の血で塗れた尻尾を振りなが取っていた。口は舌で舐めながら拭きとっていた。


「礼には及ばん、それよりどうだったか。その剣は、思ったより切りやすかっただろ」


 ウィルは剣を握りしめている春樹に剣を眺めながら言った。


 確かにウィルが言った通り切れやすい剣の他、全く折れない。


 春樹は死んでいる蜘蛛の皮膚に触れてみた。蜘蛛の皮膚は思ったより硬く、普通の剣なら折れるはずが今は折れてはいない。まさに最強の剣だ。


 春樹は剣を戻していると、


「明日子! 紗耶香!」


 後ろから他の男の声が聞こえた。春樹は後ろを向くと、男の人が2人の母子をハグしている。その間に春樹を見た男は警戒をして後ろに隠れさせた。


「大智さん。この人達は違うわ。私達を助けてくれたのよ」


 母は大智と言う男に言い聞かせていると、その次に小さい女の子が父親に言い聞かせた。


「そうだよお父さん。このお兄さん、この蜘蛛達から私達を守ってくれたんだよ。だから敵じゃないよ」


 女の子は康彦の腕を掴みながら必死に伝えていた。春樹は剣を背負うと3人の家族に近づいた。


「あの、ケガはないですよね」


 春樹は心配をしながら近づいたキキを抱き上げた。


「あっ、私も娘も大丈夫です。康彦さんは大丈夫? さっき蜘蛛に飛ばされたけど」

「大丈夫さ。なによりも、お前らが失ったほうが俺にとっては恐くて仕方ないさ。それとりもお前さんは大丈夫か。頬から血が出ているが」


 父は自分の頬をさすりながら叫んだ。春樹は頬を触れてみると、血が少しだけ手に着いた。


 春樹は頬を触れ、3人の家族に近づき、挨拶を交わした。


「俺の名前は山本春樹で、ここにいる黒猫はキキで、隣にいる狼はウィルです。この狼狼は悪い動物ではありません。ただ傷ついている人達を助ける動物なんです。信じてください」


 春樹は必死に康彦に言った。大智は妻と子の様子を見ると、顔を向け深呼吸をした。


「分かった。信じよう。それから俺の名前は田村、妻は明日子、娘の紗耶香です。春樹さんはこの後どちらに」


 大智は春樹にそう言うと、春樹は慌てながら説明をした。


「いや、俺は単に旅をしているだけですよ。その時に寝床

を探しながらもそこで寝ています」


 大智は苦笑いをしながらそう言うと、


「なんなら私達の家でお泊りをしません? 助けてくれたお礼にお食事をしますので、今日は私達の家に泊ってください」


 明日子は春樹に笑顔を向けながら言ったが、春樹はそれを否定した。


「いえいえ、そんなのは」


 春樹は手を振りながら否定をしたが、紗耶香は春樹の袖を掴んで引っ張った。


「いいから! お礼させてお兄ちゃん!」


 紗取香は春樹の腕を掴んで念願をした。


 これだけの頼みなら仕方がないと、春樹は思った。


「じゃあ、お言葉に甘えて止まらして頂きますが、何か足りない物などが御座いますか」


 春樹の言葉に明日子は「あー」と声をあげて言った。


「ちょっと食料を。近くなんで取りに行こうと思ったんですが」

「じゃあ、行きましょうか?」

「えっ。良いんですか?」


 春樹の言葉に明日子は再び声をあげた。


「えぇ、構いません。むしろ食料無しではその後先も大変なんですから。あとなるべく急いで行きましょう。夜は特に危険なので」


 春樹は剣を背負った。


「けれど、万が一の事があったら」


 康介は不安そうにしていたが、春樹は「大丈夫です」と一言言った。


「その時は僕達がなんとかそいつを追い払います。なっ、ウィル」

「あぁ」


 ウィルは緑の血を全て綺麗にし、大きくため息を付いた。


「はぁ、やっと綺麗になった。すまないが案内をしてくれ。それから俺の背中に乗ると良い」

「えっ‼ 良いの?」


 紗取香はウィルの言葉に目を輝かせて言った。


「あぁ、何かあったらその時は走れば良いからな」

「ウィル。俺は良いからな。何かあった時は素早く戦えるようにするから。それにお前だって俺が乗ったら重たくなるだろ」と春樹

「そうか、なら3人だけ俺の背中に乗れ」


 ウィルは体を縮めると、紗取香は「わーい」と言いながら背中に乗った。


 小百合と大智は申し訳なさそうにしながらウィルの背中に乗った。


「さぁ、行こう」


 春樹はキキが隣にいることを確認をし、そのまま小百合の案内に従って歩き出した。


 小百合の言う通り、本当の少しの間だけでスーパーに付いた。


 春樹は安全のために先にコンビニに入り、辺りを見渡して確認をした。


「よし。大丈夫です。ウィル。降ろしてくれるかな」

「あぁ」


 ウィルは体を縮めさせ、三人の家族を下した。


 それぞれ食べられる食料を探した。


 春樹はまだ食料があるため、大智達の食料を探すのを手伝った。


「ねぇねぇ春樹お兄ちゃん」

「ん? 何?」


 春樹は身をかがめると、紗取香は頬を触った。


「血が出てるよ。痛くないの?」

「えっ。あぁ、大丈夫だよ。こんなのあとで何とかするからさ」


 春樹は微笑みながら言い、食べ物を探した。


 出来る限りの食料を集め終え、再び3人をウィルの背中に乗せようとすると、紗取香は乗らずに春樹の袖を掴んだ。


「私。春樹お兄ちゃんと一緒に歩きたい!」

「俺と?」

「うん! だめ?」


 春樹は少し考えたが、その時は担いで走ればなんとかなるかと思い、「良いよ」と微笑みながら紗取香の手を握った。


 紗取香は家の場所を知っているのか春樹の手を引っ張ている。


「ねぇ、ちなみに家はどんな感じ?」

「えっとね、お父さんが昔立てた家が結構頑丈だって言うから、三階立てのマンションをだよ」


 言いかけると、紗取香は立ち止まり、春樹の後ろに隠れた。


「春樹。何か来るぞ」


 ウィルの言葉に剣を掴み、物陰に隠れた。


 すると、その正体が奥から現れた。


 剣士のような、強大な男が現れた。剣を引きずり、一歩ずつ歩いている。


 去るまでずっと紗取香が春樹の背中で震えていた。大智と明日子と寄り添いながらその怪物が通り過ぎるの待った。


 姿が見えなくなると、大智と明日子、紗取香は安堵のため息を出した。


「春樹君、あの怪物は」


 大智は怪物が去っていた後ろを見つめて質問をした。


「あいつはきっと無駄に攻撃や煽らなければ大丈夫なはずです。あの様な巨大な怪物は変な事をしなければ攻撃はしません。さぁ、行きましょう」


 春樹がそう言うと、立ち上がって再び歩き出した。


 歩くこと数分後、付いたのはボロボロの五階建てのマンションに付いた。


 大智は紗耶香に引っ張られながらも、ヒビが出来た階段を駆け上った。


 辺りは落書きとかでいっぱいだった。そして三階に着くと、真ん中あたりの部屋に着くと、すぐに中に入れてくれた。


 中に入ると、紗耶香はいそいそと靴を脱いだ。春樹も靴を脱いだ。


 部屋に入ってみると、大きい窓の隣には大きいソファにキッチンの真ん中には四角いテーブルに食器棚。奥には和室の扉があった。


 紗耶香は上着をハンガーにかけると、キッチンの隣にあった冷蔵庫の中にあるコーヒーを取り出した。その次にはミルクを取り出すと、食器棚にある器を取り出した。


「はい! お兄さん。暖かくないけど、缶コーヒーどうぞ」


 笑顔を見せながら紗耶香は渡してくれた。


「キキ――! さっきの場所でキャットフードあったんだけど食べる!」


 紗耶香はキキにキャットフードを見せながら言うと、キキは一声鳴き、春樹の腕から飛び出した。


 春樹はコーヒーの缶を眺めながら笑みを漏らした。すると、後ろから明日子と康彦が中に入ってきた。


「あっ、お邪魔しています」


 春樹は頭を下げながら言った。


「良いのよ。助けてくれたお礼なんだから。それよりケガ、

ケガの手当てしなくちゃ!」


 明日子も上着を脱ぎながら言い、もう一つのタンスの中から救急箱を取り出した。


「そこのソファに座って」


 明日子は座るように春樹に言った。春樹はソファに座ると、明日子は救急箱の中から綿を取り出し、ピンセットに摘まみさせ、消毒液を掛け、春樹の頬に向けて軽く叩いた。


 頬が痺れる感触がする。明日子はバンドエードを取り出し春樹の頬に張ると、「よし」と言い、救急箱を元の棚に戻した。


 そして、明日子は何かを思い出したかのように手を叩いた。


「あと、あのウィルさんっていう方がなんか伝えてくれって言われました。”外で何かものかが入らないように見張っている”だそうです」


 明日子はそう言うと、ビニール袋の中に入っている野菜や缶詰を取り出した。


 そう言えば、窓を見てみるともぉ夜に近くなっていた。そろそろ夜の怪物達が眼を覚めて歩き始めるだろう。


 そう思いながら外を眺めていると、


「春樹君」

「はい」


 後ろから大智が声を掛けると、春樹の前で胡坐をしながら上着を脱いだ。


「言い忘れていたんだが、春樹君のその剣は、何なんですか?」


 大智は春樹が背負っていた剣を指で刺した。春樹は「あぁ」と言いながら剣を見せた。


「これはあのウィルが魔法で作ってくれた剣なんです。何も特別な人だけが剣をこうやって握れるんです。まぁ訳が分かりませんけどね」


 春樹は笑顔を見せながら言った。大智は「そうなんですか」と、笑いながら返した。


 いつの間にか力が抜ける感覚に襲われた。天井を見上げ、息を吐いた。


 上着を脱ぎ、荷物をソファの右に置いた。


 けれど何故か暖かいような温もりの感覚が久しぶりな気がする。それは安心の感覚だ。まさに今までの出来事が嘘のような感じがする。今目の前に母が居そうな気がするが、本当の母はあの怪物たちによって殺されたのだから。だけどそんな奴らを消すのが春樹の役目だ。


 すると、紗耶香の声が聞こえてきた。


「春樹お兄さん。今日ね、野菜スープなんだ。それと缶詰でのおにぎりなんだって。あっ、ご飯の前にお風呂入ったら? 私がお風呂作ってあげる」


 紗耶香は笑顔を見せながら春樹に向かって言った。


「お風呂? ここでそんなことできるんですか?」


 春樹は驚きながら料理をしている明日子に言うと、明日子は料理をしながら説明をした。


「実は屋上に、大きい丸缶を台に乗せて、その下にはいっぱい切り落とした木で燃やすんです。そしたらあったかくなってなるんじゃないですか。でも、入るとしても怪物が収まっている間だけですかね。週に一、二日だけ入っています。それに入ってるんですよ私達は。あと、男物の服は旦那のしかないんですが、その服洗っときますので脱いで、上まで行ってくださいますか? 勿論服は紗耶香に持たせます。あの、出来れば火だけは」

「あぁ、勿論幼い女の子にそんなことさせませんよ。じゃあ、いこっか」

「うん」


 春樹の言葉に、紗耶香は笑顔で頷いた。


 最初は裸で上に行くのをためらおうとしたが、誰もいないことが分かり、春樹は康介の服を抱え、紗取香に案内をさせた。


 上に行くまでは寒い風が肌を触る。扉の横にはウィルが寝息を立てながら眠っている。


 肌寒いのを我慢をしながら春樹は屋上を目指した。


 そして屋上に着くと、扉の目の前に丸缶が置かれていた。紗耶香は丸缶の隣にある大量の水を入れた。


 春樹は空を見上げた。空はすでに青空く、星が見える。


 寒いのを堪えながらお風呂の準備に取り掛かった。


 紗耶香は丸缶の下に木を入れ、春樹がマッチで新聞紙に火を付けてから、丸缶の下に新聞を入れ、息を吹き掛けた。


 そして二分後、紗耶香はお風呂に手を入れると、春樹を呼んだ。


「春樹お兄ちゃん。少しぬるいけど入っていいよ」


 春樹はいそいそと服を脱ごうと思ったが、目の前には幼女がいる。幼女の前でタオルを脱ぐことは出来ないため、春樹は紗耶香に後ろを向くように言った。紗耶香は春樹の言葉を聞くと、すぐに後ろを向いた。


 春樹は今のうちにタオルを剥ぎ取り、隣にある古びた椅子にタオルを置くと、重い石を乗せた。


 丸缶に入ると、身体が温かくなった。さっきまでの寒気が一気に吹っ飛んだ。ため息を付くと、春樹は紗耶香に風呂に


入ったことを告げた。


 紗耶香は振り向く事はなく、前を黙り込みながら見ている。


「紗耶香ちゃん?」


 春樹は紗耶香の名前を呼んだが、応答がない。春樹も同じく前を向くと、目の前にはいつの間にか何人かの巨人の骸骨がうろついている。


 遂に夜の怪物たちが動き出したかと思いながらも、春樹は紗耶香にこっちに来るように言った。


 紗耶香は黙りながら春樹に後ろに回った。


「大丈夫?」


 春樹は小声で紗耶香に言うと、紗耶香は小さく頷いた。そして、紗耶香は後ろ向きであることを話し始めた。


「あの骸骨たち、いつもここを通るの。そして、所々にある車とか噛み潰すんだ。」


 紗耶香は小さくそう言った。


 確かにこの骸骨たちは人をあんまり襲わない。むしろ所々にある車を噛み潰している。


 けれど、骸骨の中に心臓が付いている骸骨は人を襲う。歯で人を食いちぎる。


 心臓が付いていない骸骨は人を襲わない。やるとしたら、物を壊すか、人を脅かすだけだ。


 すると、紗耶香はあることを言った。


「実はね、お喋りしたことがあるんだ」

「えっ、骸骨と?」

「うん、お父さんとお母さんが寝ている時にね。私、トイレがしたくて一人でマンションに出て、トイレ用の袋を持って外で済ませたの。そしたらね、細めの骸骨さんがお花を渡してくれたの。本当だよ。でも、もぉ枯れちゃったんだ」


 紗取香は悲しそうな表情を見せて言った。


「それで? 他のものとも話したことがあるの?」

「えっ。うん、確かシニガミ? って言ってた。私の顔を見てね、元気に生きてねって言ったんだよ」


 紗耶香は目の前の骸骨を眺めながらそう言った。死神も夜の怪物の住人である。それも人を襲う死神だ。


 大きい鎌で人々を襲う死神だ。必ず見つかったら逃げられないはずだが今は目の前にあったと言う紗耶香がいる。


「いつ会ったの?」


 春樹は紗耶香にそう言うと、紗耶香は「朝」と可愛らしく答えた。


 朝と言えば、それは人を襲わない死神だ。朝に出る死神たちは普段あまり出歩かない奴らだ。建物の陰に隠れて過ごしている。


 生きている人間を観察をして、周りに死んでいる奴らの魂を回収をする奴らだ。朝の死神は何も害がない死神なら良いのだが、夜の死神は人を見つければ死ぬ可能性がある。


「あっ、春樹お兄さん」

「ん? 何?」

「もし、お風呂をもぉ入らないなら頭とか身体を洗うために使ってね。ほら、近くにテント化の様な物があるでしょ。ここで体とか洗ってね」


 春樹は紗耶香が指した所を見ると、確かに屋上の扉の近くにテントかの様な布が貼られていた。


「最初に身体とか洗って、お風呂のお湯で体の泡を流してね。器はテントの中に入れてあるからそれで使ってね」


 紗耶香は笑顔でそう言った。


 春樹は風呂に入るのをやめ、紗耶香にマンション内に入って置くように言い、速足でテントの中に入っていった。テントの中に入ると、早速古びた椅子の上にシャンプーとリンスにボディーソープが三つ置いてあった。


 春樹は少し器に入れた水を髪に濡らし、シャンプーで髪に掛けた。


 シャンプーの香りをなびかせながらも、次には体をボディーソープで洗った。


 眼を半分開けながら器を取り、丸缶の中に入っているお湯で体を洗った。


 寒いのが再び無くなった。泡を完全に落としたら、その次にはリンスだ。リンスを髪につけると、再びお風呂に向か

い、お湯を被った。


 完全に今日一日の汚れを落とした春樹は、スッキリしながらタオルで体を巻き、マンション内に入ると、紗耶香が服を持ちながら待っていた。


「ありがと」


 春樹は服を受け取り、着替えた。服は白い長袖のティシャツト普通の長ズボンだった。スリッパを履くと、紗耶香と一緒に部屋に戻った。


 着くと、ウィルは眼を覚ましていた。


 ウィルは目の前の歩き回っている骸骨をじっと眺めていた。春樹は紗耶香に部屋に入るように伝え、紗耶香が部屋に入ることを確認をすると、ウィルに近づいた。


「何か感じるのか? 夜の怪物の中から」


 春樹は真剣な顔をしながらそう言うと、ウィルは前を見ながらいった。


「いや、今は感じないが何故か妙に変な感じがする。あの骸骨には感じないが、きっとこれからわかることだろう」


 ウィルはそう言うと、「早く部屋に入れ。風邪ひくぞ」と言った。


 春樹は身震いをしながら部屋の中に入った。部屋の中に入ると、天井に海中電とが何個かぶら下がっていた。


 スリッパを脱ぎ、部屋に上がると、テーブルには野菜スープとお握りがあった。お握りの中に、何かの缶詰が入っているだろうと、春樹は察していた。


 そう思いながらでいると、

「あっ、春樹さんも座ってください。あと、洗った服は和室に置きましたので、」


 明日子は野菜スープの入ったお皿を置きながら、笑顔で言った。


 春樹は頭を下げながらも真ん中にある椅子に座った。キキは缶詰の肉を必死に食っていた。


 春樹はその光景を安堵をしながら見ていた。左には紗耶香が座っていた。同じく左に大智が座っていた。


 明日子も座り、皆で手を合わせ「いただきます」と言い、食べ始めた。


 春樹は貰ったスプーンでスープを一口飲んだ。


 とても美味しく、心が温まる心地よさが押してくる。少ししょっぱめの味がとてもいい。


 お握りをかじると鯖の味がした。ご飯と合わせるととても美味しい。春樹は美味しいと言いながら野菜スープを食べた。


 すると、紗耶香が眼を虚ろにしながら眠そうにしている。そのことに気付いた明日子は紗耶香に歯磨きをして、「もぉ寝なさい」と言うと、紗耶香は小さく頷き、椅子から降りると、洗面台に行った。


 紗耶香が去ると、大智が春樹に話しかけた。


「あの、春樹さん」

「はい、何でしょうか」


 春樹は食べるのをやめ、大智の話を聞いた。


「あの剣を、貰ってもいいでしょうか」

「えっ、あの剣をですか?」


 大智の言葉に、春樹は驚いてしまった。明日子は大智を黙らせようとしたが、春樹は「良いです」と明日子に言い、訳を聞いた。


「なぜですか?」


 春樹がそう言うと、大智は手を組みながら話し始めた。


「貴方が言っていたウィルさんが作ってくれたとおっしゃいましたよね。それなら、私達にあの剣を譲ってくれないでしょうか? そしたら、もう一本作れるのではないでしょうか?」


 大智はそう言ったが、春樹はそのことに頭を抱えた。むしろ隣にいる明日子は困った顔をしている。


 それはそうだ。何せ自分の夫の言い方に飽き飽きしているのは同罪だ。


 春樹は少し考えたが、否定をした。


「ごめんなさい。それは出来ません。何せ、あのウィルはもう一本の剣を作れるのかは分かりません。それに、あの剣は特別は人しか触ることができないと、あのウィルがそう言っていますので、あっ、ウィルに肉を届けるので、お皿は何処ですか?」


 春樹は重い空気から逃げる為に、明日子に言うと、明日子は斜め棚を指した。


 指した棚の扉を開けると、何枚かの紙のお皿が置いてあった。春樹は一枚取り、缶詰の中に入っていた肉を入れて、外に出た。


 外に出ると足に冷たいのが感じられる。扉の音を聞いたウィルは起き上がった。


「あっ、すまんすまん。ウィル、お前お腹が空いてるだろ。缶詰の中に入っていた肉なんだけど、食べれるか?」


 春樹はそう言いながらお皿を置いた。


「あぁ、ありがとう。大丈夫だ、食えるぞ」


 ウィルはお礼を言いながらお皿に入っている肉を食べた。春樹はさっき康彦が言ったことを一様言った。


「あのさウィル」

「何だ」

「ウィルはあの家族に俺と同じ剣とか作れるのか?」


 春樹は寒さを我慢しながら、座って聞いた。ウィルは果物を食べるのをやめ、春樹に顔を向けた。


「何言ってんだ。あの剣は特別な者しか手に入らないのだ。春樹の気持ちも分かるが、俺は特別な者しか作れないんだ。そこんとこは分かってくれ」


 ウィルは少し強気で春樹に言った。春樹は「そうだよな」と心の中で思いながら、部屋の中に入っていった。


 ため息を漏らしながらリビングに向かおうとすると、後ろから頭の痛みが感じられた。


 春樹は一声上げると、後ろから何かを落とす音が聞こえ、後ろに手をガムテープで縛られる感触がした。その次には足を縛られた。


 頭の痛みを感じながら見上げると、縛っているのは大智だった。


 驚きを隠せない春樹は、声を上げようとしたが声が上げられない。むしろ痛みで上げられない。


 大智は息を切らし、縛られている春樹を見下ろしている。その隣には明日子が震えながら見ている。


「だっ、大智さん、なんてことを」


 明日子は震えながら言うと、康彦は叫びながら言いだした。


「こうしなきゃ、俺達が死ぬんだぞ。この小僧だけが選ばれるなんてたまったもんじゃない! このガキがあの無敵な剣を持ち歩くなんて、そんなこと納得いくか!」


 大智は怒りが混じった叫び声をしながら明日子に言った。


 春樹は頭の痛みに耐えながら、見上げた。


「どっ、どうしてこんなこと、あんた、こんなことをして良いと思ってるのかよ」


 春樹は睨んで言うと、大智は見下ろしながら低い声で返した。


「お前があんな強い剣を持っているのに、なのに、そんなことを否定するからこんなことになったんだろうが」


 身勝手なことをいう大智に呆れながらも、春樹はあることを言った。


「だけど、あれは選ばれた者しか触れない剣なんです。それも、あなたが触れたら溶けるだけだぞ」


 そう言ったが、大智はそんなことを信じてもいなかった。


「はっ! そんな事を言ってお前だけでも助かろうとしてるんだろ! そうゆうお前が一番悪だろうがよ」


 大智は険しい目をしながらそう言った。本来ならキキが春樹を助けてくれるはずが今は来ない。きっとどこかに閉じ込められたのだろう。


「やめて大智さん! そんなことをして何のメリットがあるっていうの? それに春樹君は私達を助けてくれた恩人なのよ!」


 明日子は康彦の腕を掴みながら言ったが、大智はその腕を振り払った。


「うるさい! お前が口をはさむな!」


 康彦は明日子に怒りながら言うと、早々と足を踏みながらソファの横にある剣を握り、春樹に見せた。


「ほら、見てみろ。俺が握っても溶けやしないではないか!」


 確かに康彦が握ったら溶けてはいない。ウィル言っていたことが嘘なのか?


 春樹がそう思っていると、


「ハハハハ! お前が全部言っていたことは、全部でたら」


 大智は笑いながら言うと、春樹の頬から雫が落ちた。何かと思いながらよく見てみると、何とウィルが言っていた通り剣が溶けてきている。


 どんどん小さくなっていく剣を持っていた大智は驚いてい

た。


「なっ、何で剣が溶けて」


 全てが溶けると、剣はまるで水玉の様になっていった。その光景を目の当たりにしていると、ドアが強く開かれる音がした。


 それはウィルだった。ウィルは走りながら康彦に飛びつき、噛もうとしたが、春樹は強く叫んだ。


「やめろウィル!」


 ウィルは春樹の言葉を聞くと、我に返ったかのように口を閉じた。そして春樹に顔を向けた。


「大丈夫か春樹」

「あぁ、ただ頭を」


 春樹は痛みながらそう言うと、ウィルは鼻息を鳴らし、怯えている康彦に向けた。


「お前、自分が何しているのかわかるのか? 俺の大事なパートナーをこうゆうことにされちゃ困るんだ。それと見ただろ、剣。あの剣は選ばれた者しか握れない剣なんだ。それをまるで嘘かの様に春樹を責めるのはやめてくれ。でなきゃお前の喉元を噛みちぎってやるぞ?」


 ウィルは恐ろしい声を出しながら康彦に言った。大智はただウィルに怯えているだけだった。


 春樹は明日子に縛られているのを解いてくれた。すると、お父さん、何しているの?」


「お父さんたち、何しているの?」


 後ろからパジャマ姿の紗耶香の声が聞こえてきた。その声を聞いたウィルは後ろを向こうとしたが、ウィルはあることに眼を向けた。


「春樹」


 ウィルは小さい声で春樹を呼んだ。


「何?」


 春樹は頭を押さえながらウィルに返事をしたが、目の前の光景を見て返事をしたことを察した。


 それは窓に赤い眼があったからだ。それも、ここからだと心臓の音がここから聞こえてくる。夜の怪物は骸骨と死神。赤い心臓を持っている骸骨、つまり今目の前にいるのは人を襲う骸骨なのだと。


 その姿に皆は顔を青白くしてしまった。紗耶香だってその光景に震えている。


 まさに恐怖そのものだった。


 すると、骸骨は右手の人差し指と親指で窓を突き破った。


 3人と1匹は避けたが、紗耶香は骸骨に捕まってしまった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 マンションから紗耶香を引きずると、紗耶香を口元に近づけていく。


「あぁぁぁぁぁぁ! 紗耶香!」


 明日子は目の前の光景に絶望の叫びをあげた。春樹は水たまりになった剣を見てみると、剣はいつの間にか元の剣に戻っていた。


 春樹は急いで剣を取ると、ウィルの背中に乗った。


 ウィルは察しながらも、マンション内から飛び出した。そして、骸骨の細い腕に乗り、


 飛び跳ねて真っ直ぐ骸骨の眼に目掛けて、春樹は剣で眼を刺した。


 骸骨は眼の痛みの衝撃により、紗耶香を離し、両手で眼を仰ごうとした。


 ウィルは左腕を走りながら飛び、落ちていく紗耶香を春樹が片手でしっかりと抱き上げた。


「大丈夫か?」


 春樹は紗耶香に問いかけると、紗耶香は震えながらも「だっ、大丈夫」と言った。


 その様子に春樹は胸を撫でおろした。そして、まだ目の痛みに叫んでいる。


「これは凄い心臓だ」


 ウィルは骸骨の心臓を眺めながら言った。春樹も見上げ、心臓を見た。


 骸骨の心臓は今まで見た心臓よりもはるかに色が濃く、大きい。


「なんて色だ。まるで血じゃないか」


 春樹は心臓を見ながらそう言った。けれどある問題点がある。


 それはあの心臓をどうやって潰すかだ。春樹が持っている拳銃じゃあんな遠くまで飛ばすことは無理だろう。


 頭の中で考えているうちに急にウィルが叫びだした。


「春樹!」

「うわっ、なんだよこんな大事の時に」

「矢を想像をしろ!」


 急に叫びだした意味が想像と言う言葉に、春樹呆れていた。


「何言ってんだよ。急に」

「あいつの心臓を射る矢を想像してくれ。あの心臓のデカさだと、きっと心臓を持った骸骨のリーダーかもしれない。あの心臓を壊せば、心臓を持つ骸骨全員が絶滅するかもしれない」


 ウィルが骸骨を眺めながら言った。


「お前が作った武器に力を混める。わかったら早く想像しろ!」


 ウィルの言葉を聞いた春樹は眼を閉じ、深く考えた。


 すると、剣はたちまち細くなり、細長い棒になりながら弓を引くための線が真ん中に出来上がり、アーチャリーが出来た。


「ウィル、できたぞ」


 春樹は剣がアーチェリーになったことに静かに感激しながら言うと、ウィルは「よし」と言った。


 その間に骸骨は痛みが押さえ、春樹たちに向かって手を伸ばしてきた。


 春樹は心臓に目掛けて矢を引き、放った。飛んでいる矢をウィルは眼を青く光らせた。


 矢は雪の結晶をまき散らしながら骸骨の心臓に刺さった。


 骸骨の心臓は青く凍っていった。骸骨は動きを止まららせたが、何かミシッっと言う音が聞こえてきた。


「紗耶香ちゃん。捕まってて!」

「うん!」


 紗耶香は春樹にしっかりと捕まると、ウィルは骸骨が崩れるのを知ると、早々と落ちてくる骸骨の破片を避けながら走った。


 春樹は片手でウィルの毛を掴み、もう片方で紗取香を強く抱きしめていた。


 他の所から聞こえる骨が崩れる振動を聞きながら崩れる振動を聞きながらも、ウィルはしっかりと骨を避けた。


 骸骨の心臓はガラスを割るかのように壊れ、骸骨の形はバラバラになった。そんな光景を眺めていると、マンション内から大智と明日子が出てきた。


「紗耶香!」


 二人は涙を浮かべながら紗耶香に近づいた。紗耶香も二人のことを呼びながら近づき抱き合った。


 春樹はそんな光景を見て安堵をした。しかし頬に貼っていたバンドエードはいつの間にか外れ、再び血が流れていた。


 お陰で大智に殴られた所の痛みが急激に増えてきた。痛くて痛くてたまらない。春樹は声を一声上げると、ウィルは察したのは春樹の頭と頬をチロッと舐めた。


 すると、痛みがなくなった。頭を触ってみると、さっきまで出ていた血は今は引いている。


「おわっ、あっ、ありがとウィル。お陰で痛みがなくなったよ」


 春樹は笑顔でそう言ったが、ウィルはただ前を見つめながら話した。


「お前はいいのか」

「えっ、何が?」


 春樹はけろっとしながら返すと、ウィルは春樹に顔を向けた。


「あの大智というものは、お前のことを殴ったんだぞ。それもあの剣の欲しさでお前を殴った張本人だ、これでいいのか?」


 ウィルは納得がいかない顔をしながら春樹に言った。


 普通だったら許せない行為だが、春樹にとってはどうでも良かった。何せ人は嘘かの様に聞こえるのを目の前で見ないと信じない。


 けれど今はただ眠りたい、ゆっくりと今日の疲れを取りたい。そして何より申し訳ないのが大智の服が少し破れてしまったことだ。腕に破けがある。


(はぁ、本当に俺は人からもらったのをすぐ壊しちゃんだよな)


 思いながらウィルにさっきの部屋に戻るように伝えた。ウィルはため息を吐きながら動き始めた。


 大智は話しかけようとした。


「あの、春樹さ」

「あぁ、今日はもぉ眠いので他の部屋で寝ます。貴方方もそうしたほうが良いですよ」


 春樹はそう伝えると、さっさと五階へと向かった。


 部屋に入ると、キキの唸り声が聞こえてくる。春樹は声を頼りに壊された部屋での破片に気よ付けながら探し、和室の中に入った。入るとキキの声がはっきり聞こえた。


 周りは布団が敷いている。そして布団の上にはハンガーに掛けた春樹の服が干されていた。触ってみると少し生ぬるい、むしろまだ乾いていないそうだ。


 隣の部屋に掛けるため、服をウィルの背中に乗せ、押し入れの扉を開けると、


「にゃー!」

「おっ、キキ大丈夫かぁ?」


 キキは鳴きながら春樹のお腹にうずくまった。春樹はキキの健康な体を見て本当に安心をした。康介がキキを傷つけたなら許せないが、何処も外傷はないために春樹は大きいため息出た。


 荷物と剣を持ち、隣の更に隣の部屋に移動をした。


 その部屋は女部屋だった。まさに成人の女の子が住む部屋だ。春樹は顔を赤くしながも、前まで住んでいた女性に心の中で「お邪魔します」と一言言うと、服を窓際に掛けた。


「ふぅ、本当に疲れた」


 春樹の言葉に、ウィルも同情をした。


「そうだな。けれど、一体の怪物が減って良かったな」

「うん、それは良いことだけど。でも、まだまだこの世界には沢山いるね」

「そうだな。結構な数の怪物どもがこのあたりをウロウロしているのは確かだ。このあたりでも気配で分かるよ。明日はどうする?」


 ウィルは大きくあくびをし、体を縮めさせて言った。


「うーん、あっ。そうだ。今俺が付けている腕時計の電池を探したいかな。その後はただ歩いて、寝床を見つけるだけだ」


 腕時計を枕元に置くと、「よし」と声をあげた。


「そろそろ寝るとするか」


 春樹はそう言うと、丁度あった猫用の寝床をベットの横に

置き、薄い布を丸めて置いた。


「はい、キキ」


 眠そうなキキを抱え、その寝床に置いた。ウィルの分はタンスの中から取り出し、地べたに付かないように布団を敷いた。


 春樹は歯磨きをし、バックや剣をベットの下に置くと、暖かい布団の中に入り、ウィルにおやすみと一言言って眠った。

 

 そして翌朝、春樹は起床をし、洗面台に行き、蛇口を捻るとわずかに普通の水が出てきた。春樹は顔を洗い、洗ってくれた服に着替えた。


 部屋から出ると後ろから声が聞こえた。振り返ると康彦と明日子と紗耶香がいた。春樹が近づくと、大智はすかさず土下座をした。


「昨日は本当に申し訳ございませんでした。貴方をケガをした挙句、酷いことを言ってしまう本当に申し訳ございませんでした。そして、娘を助けて下さってありがとうございます。本当に、ありがとうございます!」


 大智は涙を浮かべながら康彦は地面に頭を擦り付けた。


 明日子も同じく土下座をし、感謝の言葉を掛けながら謝っている。


 隣にいた紗耶香は涙を浮かべながら何かを渡してきた。


「これあげる」

「ん? 何これ?」


 春樹は受け取ってみると、それは眼だけを隠せる狐のお面だった。眼の所々には青い線が入れられている。赤い紐付きの狐のお面だった。


「これは」

「この前食べ物を探している時に見つけたの。春樹お兄ちゃんまだ戦うんでしょ。その時に、怪物にあまり顔を覚えられないようにそのお面上げる。だから、お父さんを許してください」


 紗耶香は頭を下げながら春樹に言った。


 春樹は笑みを漏らし、その仮面を付け、紗耶香の頭を撫でた。


「もぉ、俺に謝らないでください。あと、傷はウィルが直してくれました。そのお陰で痛みもありません。それでは、さようなら。お世話になりました。そして紗耶香ちゃん」

「ん?」

「ありがと、大事にするね」


 笑顔でお礼を言い、春樹はキキを抱き上げながら剣を背負い、ウィルに跨ると、ウィルは走り出した。


 走りながらも、春樹は振り返り手を振った


「さようなら!」


 春樹は元気よく言うと、紗耶香も元気よく。


「バイバイ!」


 と、言った。大智と明日子も手を振った。


 春樹はその声を聞き、仮面に触った。とても固い仮面の感触に思わず笑ってしまった。その声を聞いたウィルは走りながら声を掛けた。


「どうした? なんか面白いことでもあったのか?」


 その言葉を聞いた春樹は、前を見ながら言った。


「いや、なんかお前と少し似たような気がして、嬉しくて笑っちまったんだ。」


 春樹がそう言うと、ウィルは何故か急に黙り込んだ。


「ん? なんか悪いこと言ったか?」


 春樹はそう言うと、「別に」と言いながら走り続けている。きっと恥ずかしいのだろう。


 そう思いながら、再び旅を始めた。

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