芸術。
うさぎてやん
芸術。
まだ寒い日のことだった。
外は、朝方なのだがまだ真っ暗な頃少しの自然光でキャンバスに彩りを与えていた。
光は彩りを反射し美しい色を出している。
そのことに私はとても満足していてこれこそが「芸術」だと思っていた。
今年私は美術学校を受験する。
幼い頃から絵を観るのも描くのも好きで、というかとにかく芸術というものが大好きだった。
画塾には最近行き始めたがそこでの評価は大分低い。誰にも受からないと言われいるけど、少しの可能性を信じて今日も作品を作り続けている。
「貴方…またこんな作品作っているの?」
画塾の先生が私のキャンバスを覗き込んで話だす。思わず手を止めてしまい、絵の具のついた筆をバケツで洗う。
自分の手は少しだけ震えていた。
そんなことには気づかず、先生は
「違うんだよね、芸術を感じられない」
そう言い、机の上にあった筆を勝手に取り色を重ねていった。それは全く違う作品の完成であって私の作品の崩壊だった。
「これでいいんですか?」
信じられなくて、恐る恐る聞いてみる。
先生は当たり前とうなずいて筆を直し
「このくらいやらないと。美術学校は受からないよ?」そんな意見だった。
途中までは、無言で先生の話を聞いていたが思わずバケツの中で沈んでしまっていた筆を取りパレットにあった全ての色で混ぜてしまった。
そしてその色を少し湿った筆でとりキャンバスに載せていく。
先生の目なんか気にしない。見えない。
こうして私にとって最高の作品が誕生した。
「ただの黒色で塗られたキャンバス」と言われるかも知れない。
でも、これが「芸術」の最高傑作と感じたが、
まだ。まだ。あと少しで最高になるのだ。
先生が何か言ってるような気がする。
でも多分気がするだけのような。
気にしちゃいけない。まだ、完成していない。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
ふと外を見ると景色は真っ白に染まっていた。
暗かった世界が少しずつ明るくなった頃、光はただ黒色を美しく彩っていた。
「ああ、やっとできた。」
黒は何にも染まらない。
これは、私だけの作品なのだ。
芸術。 うさぎてやん @usagichan1023
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