第2話 「眠れない……」
長年家には着替えに帰って寝るだけの生活をして、出張期間中は帰れないで過ごして来た。
俺はギルドを辞して、ヒキコモることにして家に帰った。
このままでは尊大な自尊心が、俺を虎に変えるかもしれない。
「その声は我が友、李徴子ではないか?」
と言う訳で虎になって長々と寝よう、酔って大虎になって寝よう。
虎だ、お前は虎になるのだっ! なのでタイガーマスクになって寝よう。
ウン、もう脳が混乱してる、大分眠れてないから脳が腐っている。
どうにか家に帰り着いた俺は、酒飲んで飯食って、ギルドもやめて来たので晴れやかな気分で、寝巻に着替えてベッドに入った。
「…………眠れない」
ベッドに潜り込み、ヨーダみたいに「レスト」と言いながら、死んで消滅するぐらいの勢いで寝ようとしたけど眠れない。
眼だけ閉じてから数時間経過したが眠れない。
もっかい便所に行って出す物を出して、ベッドに戻ったが眠れない。
夜中に、よ~~~~~~やく眠れたと思った頃、何かをガンガン叩く音で起こされた。
どうやら俺の家のドアを叩き続けている馬鹿がいるようだ。
「我が眠りを妨げる者は誰か?」
俺は床から20センチぐらい浮くレビテーションで、扉まで移動した。
「我が眠りを妨げる者は誰か?」
ドアの前でもっかい同じことを言ってやると、ドアの向こうの馬鹿が一方的に用件だけ言って来た。
「助けてくれっ、俺の娘が熱を出してなっ、苦しんでるからお前の治療魔法で助けてくれっ」
「お前はどこの誰だ? 熱が出てるなら治療院へ行け、治療魔法では熱は下がらん」
「俺俺、ほら、ギルドで一緒だった俺。だからな? 俺の娘が熱出して苦しんでるから「前のおじちゃん呼んで」って言ってるし、治してやってくれよ」
「俺はお前となんの縁もゆかりもない、ギルドは辞めて来たし、お前とは一切関係が無い。帰れっ!」
「だからなっ?! 俺の娘が熱出してるから助けてくれって言ってるだろうがっ!」
空気読まずに怒鳴り始め、偉そうに命令し始めた馬鹿。
「それが人にものを頼む態度かっ? 俺はお前なんかどうなろうと、娘が死のうとどうしようと構わないっ、夜中に人の家のドアガンガン叩き続ける馬鹿野郎の娘は助けんっ、帰れっ!」
「何だとっ? 俺の娘がどうなってもいいとか、死んでも構わないってどういうことだっ?」
違う所のスイッチ入っちゃったらしく、偉そうに怒り始めた馬鹿。
「お前も死ねーーーっ! 今度ドア叩いたら殺すぞっ、帰れっ!」
まだ何かホザいていたが、俺が応答しなくなったら、またドアをガンガン叩き始めた。
「うるせーーーーっ! 近所迷惑だっ、今夜中の何時だと思ってる? 例え殺されようともお前の娘だけは助けたりしないっ、死ねっ!」
「俺の娘を助けろっ!」
何か意地になってるのか、ドアをガンガン叩きながら叫び続ける基地害。
俺はドアを開いて、特濃のフィニッシュブローを馬鹿に叩き込んだ。
「ギャラクティック・スーパーソニック・フェノメノンッッ!!」
車田調でリンかけか聖闘士星矢ぐらいのフィニッシュブローをキメると、馬鹿は伸身の三回転半捻りぐらいで吹き飛び、ヤラレ役のザコキャラぐらい「ザシャアアッ!」と擬音を出して倒れた。
悪は滅びた。俺はドアを閉め鍵を掛けなおして、ベッドに戻って安眠をむさぼることにした。
「眠れない、神経が高ぶって眠れない」
目を閉じても、馬鹿にムカついた怒りが収まらずに、もう眠るのは不可能だった。
それ以降、死体みたいな状態で、無理矢理目覚めのコーヒーとか飲んでみても、腹の中がグチャグチャになっただけで、目も覚めず爽快感も無く嘔吐感だけ増えた。
翌朝、街を巡回している衛兵がやって来て、被害届が出ているからと事情を聞かれた。
「はあ、夜中に俺の家のドアを叩き続ける、頭がおかしい奴がいまして、どこの誰かも言わない分からないで、「俺の娘を助けろ」だけ喚き続けたんで「これ以上ドアを叩いたら殺す」って言い渡しても叩き続けたんで、フィニッシュブローを入れてやって黙らせました。俺の敷地内に侵入して暴れてたんで射殺されても文句言えませんよねえ?」
向こうは敷地から出て追いかけられて殴られたと嘘ついたそうだが、夜中にガンガンガンガン、ドア叩かれ続けたと何度も説明すると無罪になった。
相手を殴ったと言う「有形力の行使」には厳重注意を食らったが、相手側はひたすら被害だけ訴えて、言う事も二転三転して辻褄が合わなかったようなので、「夜中に見ず知らずの相手の家のドアガンガン叩きまくって、近所迷惑だろうが? 射殺されても文句言えない立場だぞ?」と注意されて、あれだけやらかして置いて何故か無罪放免されたらしい。
娘が生きてるのか死んでるのかは知らないけど、ギリシャかどっかの航空機衝突事故みたいに、家を特定して刺し殺しに来るのは勘弁して貰いたい。
まあ、来てももっかいフィニッシュブローの刑だ。
「眠れない……」
昼まで起きて、飯食って酒飲んで寝ようとしたけど眠れなかった。
神経の高ぶりは収まったはずなのだが、それでも眠れない。
どうにか眠れたかと思えた時、また電話がジャンジャン鳴り始め、上司だったので着信拒否にして眠った。
「眠れない」
一度目が冴えてしまったので眠れない。
携帯の電源を切っておかなかったのが悪かったのか、また電話がジャンジャン鳴り始め、知らない番号だったけど取ると、やっぱり上司だった。
「マーシちゃん、何で出勤してこないの? 今日遅刻だからね、でさあ、今日の出動場所だけど……」
「テメエ脳みそ腐ってんのかっ? おれは昨日辞表提出して辞めたんだっ、二度と電話かけ来ようなんて思うなっ、基地外っ!」
俺はスティーブジョブスみたいに、携帯ごと水にぶち込んで、二度と電話が掛かって来ないよう処理した。
「眠れない」
クソ上司怒鳴り散らして、叫びまくったから眠れない。
それでもゴロゴロして、眠れないから晩飯食おうとして、カップラーメン的な物に湯を注いだところで、どこかの馬鹿がドアをガンガン叩き始めた。
居留守を決め込むことにして無視した。
こっちはラーメンに湯を注いだ所だ、出られるわけがない。
「お~い、どうして出勤してこないんだ? 俺だよ俺」
クソ馬鹿カスカスカスおべっか野郎でゴキブリの、ゴマすり野郎のナベワタがやって来た。
どうやら俺の辞表は受け取ってなかった扱いで、クソ上司が「無かった」ことにして「君の勘違いだ」と言う嘘で誤魔化して、現実で事実から逃げ出してしまったらしい。
「心配して来てやったのに、居るのは分かってるんだ」
そうしないと俺の実績盗んで、自分の手柄に出来ないもんなあ?
俺が手柄上げたら、お前が提案書提出済みで、まんまと罠に引っかかってお前の実績上げることになって、俺は相も変わらず役立たずのゴミ扱い。
もっと上の上司も目が節穴だから、「あんたの服はいつも汚いなあ」と吐き捨てるように言われたが、俺はクリーニング出すのも禁止。
汚れ仕事の連続で汚れがたまって血塗れなのに、平気で言い渡せるクズがいる。
コイツは汚れ仕事の現場には死んでも来ないから、服が汚れたりしない。
俺は血塗れの服を洗濯に出す頻度が多いからと言って「君ねえ、一日置きに洗濯出すなんてダメだよ」とかクソ上司に言われて以降洗濯禁止令。
自分の家で洗うか、ギルドにある洗濯魔道具で洗う。
それでも糸の奥まで汚れが染みついてるから、洗濯屋が蒸気で洗うか煮洗いしないと取れないで「あんたの服はいつも汚いなあ」と吐き捨てるように言われ続ける。
無視してラーメン食ってると、窓側に移動してガンガンやり始め、施錠してなかった所を開けて入り込み始めた。
「あ~、やっぱりいた、今日欠勤だからな。俺がシフト代わってやったんだから感謝しろよな」
俺はアツアツのラーメン丸ごと奴に投げつけてやったが、交わしやがって当たらなかった。
「出て行けクソ野郎っ! 俺の出勤やら成果盗むことしか考えられないのかっ? 俺は昨日辞表出して辞めたんだ、二度と来るなっ!」
基地外は王子にへばりついてヘラヘラしてる悪訳令嬢みたいに、ニヤけ顔で笑っていた。
「辞められないよ? ダッテ周囲の村、魔物に襲われてるし、お前俺の養分だから」
カチーンと来た俺は、ドアを開けて外に出て、外側に引き摺り出してフィニッシュブローを食らわせてやった。
「退魔っ、八卦九楊陣っ!」
俺はスキルでナベワタを空中に投げて固定し、天空剣で切る前のコンバトラーV的な刀術や忍術の方のスキルで、チャクラの上から順番に破壊して行って「ズドドドドドドドッ!」と擬音が付くような、心も体も砕け散るように挫滅させ、漫画の見開きで九回フィニッシュブローを叩き込む所を、1カメから9カメまでいろいろな角度から描写してやった。
スカイトリプルダンシングの三倍、志那虎のローリングサンダーの三倍の拳をブチこんでやった。
奴も伸身の三回転ぐらいで吹き飛び、ヤラレ役のザコキャラみたいに、聖衣を撒き散らしながら「ザシャアアッ!」と倒れた。
悪は滅びた。ラーメンの大半を失ったが正義は実行された。
奴は出動もしないで席に座っていただけなので、金等級のくせにこんなスキルは使えないし、防御することもできない。
「眠れない……」
馬鹿を張り倒してやって、正義は実行されたのだが、目が冴えて眠れない。
夕食的な物を作り直して、ツマミにして酒でも飲んでみたが眠れない。
ベッドでゴロゴロしてみたが眠れなかった。
翌朝、また被害届が出されていて衛兵がやって来た。
何でも「社内の事なので内々に収めたい、出社して仕事をしてくれたら取り下げる用意がある」とかホザき始めた。
「前の日に辞表出して辞めてるんです、一か月前に通告してましたけど、辞められないんだとか急に言われても困るとか言い出しまして、昨日も欠勤扱いだ、お前は俺の養分だとか言って、施錠してなかった窓から入って来ようとしたので掴みだして放り上げて処刑してやりました。敷地内侵入ですから射殺されても文句言えませんよねえ?」
今回も「民事不介入」のはずだが、よく話し合って退職するよう言われて、「有形力の行使」についても、また厳重注意された。
不法侵入の現行犯で処刑された奴は、無い事無い事言いふらしまくって、それでも無罪放免された。
ストーカー犯罪として申告しておいたので、もう一回同じことをやると接近禁止命令が出る。
その日もゴロゴロして過ごしたが眠れない、ヘベレケになるまで飲んだが、便所で便器抱えてゲーゲー嘔吐するだけで余計眠れなかった。
朝まで苦しんで、ベッドに帰ってよ~~~~やく眠れたような気がした所で、またドアをガンガン叩く馬鹿が出現した。
「オイッ! 君が出勤してこないからっ、魔物が村を何か所も潰して、この街に現れたんだっ! 君にはセキニンを取って貰うぞっ、あの魔物を倒せるのは君だけだっ、早く出てきたまえっ!」
クソ上司だ。なんとまあ退職した人間にセキニンがあるんだとさ。
お前ギルドマスターだろうが? そのぐらいの魔物自分で倒せや?
もしかしないでもコネ入社で、現場に一度も立ったことが無いから倒せないのか?
そういやあベテランからも、「あいつが現場で汚れ仕事してる所なんか一回も見たことが無い」って言われてたなあ。
「聞いてるのかっ? 早く出てきたまえっ、これは重大な責任問題だぞっ? 領主様の所で処刑されてしまうぞっ?」
子供を脅す手段で来たが、この世に眠れない以上の苦しみがあるとでも言うのか?
「ギャオオオオオオオンッ!」
「うわああっ!」
外からリザード系の魔物の声が聞こえた。
倒せないつってるから金属系だろう、鉄ぐらいなら誰かがどうにかしてるから、ミスリルリザードかオリハルコンリザード。
大きさや声からもそのクラスだろう。脅威度鬼ぐらいの災害級。
「早くっ、早く出て来てくれっ、でないとっ」
食われて死ね、俺が手を下すまでも無い。
それでもドンドンガンガン続けて、蹴り入れやがったのかドッカンドッカンやり始めた。
「我の眠りを妨げるのは誰か?」
またレビテーションして浮いてやり、目を赤くビカビカビカーと光らせて、斜線で真っ黒の崩れたままの顔で起きた。
コイツとは会話すら成立しない自己愛性人格障害で妄想癖もあって、発達障害で立場認識すらできないバカなので、扉開けたら五秒でフィニッシュブロー。
「ゴッドインパクトッ、サウザントゴマダレクラッシュ!!」
天上人である神闘士(ゴッドウォリアー)が放つような奇跡のパンチを馳走してやり、クソ上司は50メートルパンチでも喰らったように飛んで、ミスリルリザードの口から腹の中にホールインワン。
悪は滅びた、リザードに食われて俺が処理するまでも無く滅びた。
「ギャオオオオオオオンッ!」
扉を閉めて寝ようとしても、リザードの奴がうるさくして暴れて、民家とか踏み潰してたので処す。
「一の火太刀、次元刀」
何代目かの魔王が、次元を切り裂く力を持っていて、悪魔の斧かなんかでぶった切ってたのと同じ技で切り裂いてやる。
武士や侍大将のスキルで、高レベルで刀術を極めたら誰でも出現させられるスキルだが、クソ上司とか教会の馬鹿が「悪魔のスキルだ」とか何とかホザき始め、使用禁止だとか「お前は悪魔だ」とかホザいて、点数引こうとしてきたスキル。
「ギャオオオンッ、ギャオオオオオオオンッ!」
「一刀両断っ!」
銃夢に出てくる、モーターボール編のB級ボスみたいに、トランスアキシャル面からたちまち両断してやって、悪は滅びた。
この時、食われていたクソ上司も両断してやればよかったのだが、胃袋の曲がったところに隠れていたのか両断できなかった。
「眠れない……」
上司を神のスキルとフィニッシュブローで打ち砕いて、ミスリルリザードも次元刀で仏陀義理してやって、目が冴えてしまって眠れない。
そうこうしていると、領主家の馬車がやって来て、俺を迎えに来た。
「告、本日1100より領主家で面会を要求されている、直ちに正装して出頭し、昼食会と園遊会にも出席せよっ」
聞く所によると、ミスリルリザードを倒した奴は、街中でパレードするレベルで、領主家に呼ばれて質疑応答に答え、昼食会と園遊会に参加して勲章貰えるらしい。
今までこの程度のザコ、数えきれないほど潰して来たのに、受付嬢の魅了魔法と、上司とかナベワタが手柄横取りして来たんだろう。
「この時間なら誰でも起きてると思ったか? 俺は夜中でも寝られないで、夜明けごろ眠れたと思ったらコイツに叩き起こされた、俺は今からでも寝る」
「何を訳の分からない事を言っているのか? 領主様の命令は絶対で、これからお前は正装して領主家へと招かれ、昼食会などに参加しなければならないのだっ!」
脳金の馬鹿でアホウマヌケが叫びまくって頭にジンジン来る。
昨日寝るために飲み過ぎて便器掴んでゲーゲーやったので気分が悪い、昼食会なんか行けるかよ。
「お前の主人は俺に「丁重にお迎えしろ」と言ったのか? それとも「首に縄付けてでも引き摺り出して来い」と言ったのか、どっちだ?」
「ええいっ、抵抗するかっ? 引っ立ていっ!」
領主は俺の事を「生死を問わず、引き摺ってでも連れて来い」と言ったようなので抵抗する。
「アトミック・スカイ・イレブン・クリミナルッ!」
奇跡のフィニッシュブローを繰り出して、騎士隊か衛士隊の隊長を11分割して粉砕してやり、やっぱり伸身の半捻りで飛行させてやった。
まだ副官が怖い顔してみていたので、聞いてやった。
「領主の所の兵隊は千人ほど。オマエラはミスリルリザードに敵わないで逃げ出した。俺はミスリルリザードを真っ二つにして殺してやった。今度はオマエラ千人と俺の戦いだ、どっちが勝つと思う?」
何か考えて逡巡していた副官は、素っ頓狂な声を出した。
「引っ立て~~いっ!」
馬鹿の計算では「人間一人と千人、どっちが勝つでしょうか?」に変換されたようだ。
「エレキング・テイム・ファイティングアローーッ!!」
またエレキングでもテイムする、奇跡のフィニッシュブローが炸裂して、副官も伸身の三回転半捻りで飛んで「ザシャアアッ!」と着地した。
呆然と見ていた奴らを尻目に、俺はドアを閉めて眠る準備をした。
「眠れない……」
告知に来た上官と副官を倒したので、目が冴えて眠れない。
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