幕間(第15.5話)


 「わたしの知らないうちに、

  葉菜ちゃんと留美ちゃんと、勉強会してたんでしょっ?」


 のトコです。


************


「おかえり、まーくん。」


 おおう。


「あははは、おじゃましてまーす。」


 お前ら、全員合鍵作りやがったな。

 って、雨守は?


「あー、そう言っちゃうあたり、ほんと無神経だと思うけどさー、

 郁ちゃんは勉強モードだよ。もんの凄い集中力。」


 なるほどな。

 って、俺らもやらんとだろ。


「そーそー。

 だから、勉強会しようって。」

 

「駄目だ。

 勉強会なんてもんは、だいたい遊んじまうんだから。」


「じゃー、思いっきりあそぼーっ!」


「お前なっ。」


「あははは、まぁ半分冗談だけどさー。」


 半分かよ。


「ほら、この三人って、科目別に学力がばらついてるでしょ?」


「そうなのか?」


「まず、葉菜は国語、学年五位以内。」


「ほう。そりゃ凄いな。」


「で、真人は、数学だけなら、上位でしょ?」


「上位っつーか、まぁ、三十位以内に入るな。」


「んで、あたしは英語だけなら、一応は上のほうなんだよ。」


「そうなのか。」


「そーそー。

 だから補い合っていけるんじゃないかなーって。」


 一応、考えてはいるわけか。

 でもな。


「できる、ってのと、教える、ってのは相当違うぞ。」


「まぁまぁ、カタいこと言わないの。

 ちゃんと監視してあげるからさー」


監視ってなんだよ。


*


 ……確かに、ちゃんと勉強会にはなったが。


「んーーーーーっ!

 ……いやー、時間、かかったねぇー。」


 科目別のできない組の基礎力が無さ過ぎて、

 全員、一年生からやり直しになっちまった。

 たぶん、倍くらいかかったろう。


「中学の因数分解からやらせるなんて鬼だよー。

 うあー、頭がまだぐるぐるしてるー。」


 コイツ、数学はホントに苦手だったんだな。


「真矢野は私立文系か?」


「あー、そうだねー。

 今日まではそう思ってたけどねー。

 あたし、いけるんじゃないかって気がしてきたよ。」


 ほぅ?


「真人は御成大でしょ?」


 ……プライバシーねぇなぁ。

 まぁ、いまんとこな。志望するだけなら自由だから。


「郁ちゃんは、給付のいいトコにするか、

 帝都大とか、雉子橋大とかにするかって感じかなー。」

 

 いまの成績を維持できるなら、そうなるな。


「あたしも東京にしよっかなー。」


 お前は縛り、掛かってないのか。

 

「うわ。先廻られたなー。

 それもあるんだわー。

 

 ……この部屋、防音、大丈夫なの?」


「音大生ほどじゃないけど、まぁ標準的なレベルだぞ思うぞ。

 お前ら、どうせ盗聴器とかぜんぶやったんだろ。」


「あはははは、まぁねー。

 わかってくれると助かるよー。

 んでね。

 

 これはいろいろ関係した話なんだけど、

 葉菜を、この街から連れ出すかどうかってトコ。」


「あー。」


「ぶっちゃけて言うとさ、

 葉菜のルートって、決まってたんだよ。

 

 地元の国立大か、旧師範大出て、清明君と結婚。

 オトコの子、最低二人作って、

 一人は東郷家、一人は沢名家を継ぐ。」


 なるほど。

 鎌倉時代を彷彿とさせるな。


「ところがさ、清明君が崩れたから、向こうの後継者が変わるんだよ。

 で、沢名家からしたら、東郷建設の後継者じゃないなら、

 葉菜を嫁がせる理由なんかないんだよ。

 家格からしたら、もともと格下だしね。

 ま、葉菜が清明君に好意を持ってるなら別だけど。」


 わざわざありえねぇことを確認すんなよ。

 沢名、苦笑しかしてねぇじゃねぇか。


「で、真人のおかげで、建設業界の大手と繋がりを持っちゃった。

 沢名家からすると業界違いなんだけど、

 そこは良くて、さすが大手の全国企業だからさ、

 海外のJVとかバリバリ参加してるわけ。

 

 つまり、沢名家としては、身元保証先の業種を理由に、

 国内に、まして、同じ町の中に拘る理由もなくなったんだよ。」


 と、いうことは……。


「そー。

 沢名葉菜ちゃんは、晴れて自由の身っ!

 ぱちぱちぱちぱちーっ」


 おおー、そういうことか。

 そりゃ良かったな。


「と、言いたいところなんだけどさー、

 それは本家だけを考えた場合。

 分家筋とかが、やいやい言ってくるわけ。」


 ふーむ。


「あたしとしてはだけど、分家の中に出来る奴がいれば、

 、まぁ究極? 召し上げてもいいんだけどさ、

 うちの高校にすら入れない奴らばっかりなんだよ。」

 

 なんでそんなできないんだ?

 分家つったってカネ持ってるだろうに。


「さぁー。それは分からないけど。

 あー、分家の一つに、いま5歳くらいの男の子がいてさ、

 その子は神童って言われてる。実際、かなり賢いみたい。

 ただ、年齢の釣りあい考えると、いくらなんでもね。」


 そこは戦国時代と違うのな。


「まぁ男女逆だったら分家も納得するんだろうけれどねー。」


 真矢野の奴、さりげなくそうだけど。

 っていうか、分家の連中、どこまで凝り固まってるんだよ。

 

「そんなもんだよ?

 あたしはそれが嫌で、東京で役者やろうと思ってたんだから。」


 なのに、芸能村の閉鎖的な掟に従わなかったと。


「あははは、真人、痛いとこ突くなー。

 あの頃のあたしは、夢、見すぎたって思うよ。

 東京はもっと、実力だけで渡れる場所だと思ってた。

 もう一回やれれば、きっと、と思う。」

 

 そうか。

 それなら。


「もう一度、やりゃいいだけだろ。」


「……ぇ。」


「お前が大切にしてるのは、

 沢名家っつーよりも、沢名葉菜、なんだろ?」

 

「……どう、して。」


離れのババアもう死んでるに仕えてるようにゃ見えなかった。

 それに、学校内でのお前の行動原理は、

 ほぼ、沢名の利益を護るって感じだったからな。」


「……そう、だけど。」


「安心しろ。

 お前らのことは、俺は、ほとんど知らない。

 なにしろ、東條家がどんな家なのかすらも、知らんかったんだからな。」


 そう、か。

 雨守を通じて、真矢野が俺に繋いできた理由も。


「お前から見りゃ、確かに俺は胡散臭いわな。

 地元の人間じゃない奴が、こんな田舎きて、

 沢名と一緒に放送委員なんてやってて、

 疎遠になったかと思えば、命だけは護ったわけだから。」


「……うん。」


「俺が、誰かの意図によって、

 沢名と接近しようとしてる、って考えたんだろ?」


「……そうだよ。」


「その発想力は、女優よか劇作家向きかもしらんな。

 ま、沢名がまだ狙われてる以上、

 危険察知アンテナを張り続けようとする気概は買うわ。」


「……。」


「ところでな、沢名。」


「んー? なにー?」


 これだよ。

 コイツは放送委員会でもそうだったけど、

 ほんと、人の輪に入らずになんだよ。


「お前は、どうしたいんだ?」


「んー。

 わたしは、まーくんのいるところにいたいなぁ。」


 ……あぁ、なんていうか、

 沢名は、沢名だわ……。

 絶妙にあざと儚い目線、やめろっての。


「試験、がんばろーね?」


 ……あぁ、そうだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る