第11話 お兄ちゃん、おやすみ
「そろそろ寝よか。え? ウチがベッド? いやいや、お兄ちゃんがベッド使ってや。ウチは床にタオル敷いて寝るから」
「お兄ちゃんが床で寝るって? そんなんダメやって! 硬い床やと、ぐっすり寝られへんやろ? お兄ちゃんは部活で疲れた体、しっかり休めへんと」
「それでもウチにベッド使ってほしいって? ……せやったら、一緒にベッドで寝えへん?」
「うん……、ウチはかまへんで、お兄ちゃんと一緒のベッドで」
「――お兄ちゃんと並んで寝るなんて、いつぶりやろ。実家じゃ、いつの間にか部屋も別々なって、こうして一緒に寝ることもなくなったから」
「うん、自分だけの部屋ができたんはウチも嬉しかったで、秘密基地みたいで。やけど……、ちょっぴり寂しくもあったかな」
「……お兄ちゃんはどうやった?」
「覚えとる? 家族で夏に遊園地に行って、ウチが迷子になったときのこと。確かウチが小学二年生のときやったかな」
「お気に入りのキャラの着ぐるみに目ぇ奪われて、ノコノコついていってもうてな……。気づいたときには家族とはぐれてて、周りに知らない人ばっかりやった。思わず泣いてもうてな。たまたま近くにキャストの人がいて、迷子センターまで連れていってくれたんや」
「迷子センターで泣きながら待っとったら、『家族の人が来ましたよ』聞こえてな。見たら、パパとママしかおらへんねん。二人に『お兄ちゃんは?』って訊いたら、『お兄ちゃんも迷子になった』言われて、ほんまに驚いたわ」
「お兄ちゃん、ウチがいなくなったことに気づいて、ウチを捜すために一人で飛び出したんやって? それでパパとママとはぐれて、お兄ちゃんも迷子になったわけや」
「くすっ。当時はそれどころやなかったけど、今思い返すと笑えるな。迷子を捜しに行って、それで迷子になるって……ふふっ」
「結局、お兄ちゃんはウチの迷子のアナウンス聞いて、迷子センターまで駆けつけてくれたんやろ。よっぽど走り回ったんか、お兄ちゃんの全身汗だくやったん、よう覚えとるわ。今となっては、いい思い出や」
「お兄ちゃん、まだ起きとる?」
「眠っちゃったか。今日も部活で体いっぱい動かして、疲れてたんやろな。急に誕生日パーティーしよう言うたウチに、付きおうてくれてありがとうな」
「……大好きやで」
「おやすみ」
お兄ちゃんの誕生日~大阪の妹と過ごす夜~ まにゅあ @novel_no_bell
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