「服だ。洋服だ。洋服は着てるか?」

「服だ。洋服だ。洋服は着てるか?」

 このとき薫はアロハシャツ、短パン、ビーチサンダルという格好。

 誠司はダチョウ革の靴を履き紫紺のスリーピーススーツを着てネクタイのかわりに金色のスカーフを巻いている。髪型は白いメッシュを入れたオールバックだ。

「……俺が全裸に見えるんかよ親父」

「そうじゃない。わしの力でエロマンガ島でも世界中のブランドが即日届くようにしただろう。専属デザイナーも五〇〇人ほど呼び寄せた。要するに――」

「『いろんな服を着て楽しんでるか』ってことか」

「そうだ」

 薫は舌打ちして、

「ブランドもデザイナーも俺はわかんねえよ」

「そうか」

 海を見たままの誠司がぶっきらぼうに言う。

 昔から父は息子のことを思わない人間だったと薫は記憶している。授業参観には仕事だ会議だと言っていつも出席せず、かわりにツンデレ電撃メイドロボ「美琴ちゃん」やヤマアラシ型自走監視カメラ「ジレンマくん」を行かせるだけだった。

「薫、飯は食ってるか」

「チッ……食ってるよ。メイドロボが毎朝漁船を出して海鮮丼を作ってる」

「南の魚はうまいか」

「さっぱりしてて俺好みだ」

「なら、別荘は快適か。古いなら建て替えさせるが」

 薫は立ち上がって叫ぶ。

「おい親父、衣食住全部聞いてどうする!? その程度のことしゃべりに来たのか!? 俺はな、ゆっくりしてえんだ。そのためのエロマンガ島だ。ここで休めと言ったのは親父じゃねえか。だからほっといてくれ!」

 父は仏頂面のままだ。

「一人でいたいんだ! わかるだろ!?」

「……」

「俺の右手は――ボールを握れないんだ!!」

「…………」

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