薫の曽祖父は戦争のときこのエロマンガ島に

 薫の曽祖父は戦争のときこのエロマンガ島に潜伏し、アメリカ軍・オーストラリア軍の船をかたっぱしからボコって略奪し、帰国後に戦利品を闇市で売ってボロ儲けした。日本屈指の巨大資本・王乃ホールディングスはこうして誕生したのである(参考文献:王乃誠司せいじ[編著]『王乃ホールディングス70年史』2015年、酷書刊行会)。

 プライベートビーチで海をながめていたら、薫の父・誠司が水平線の向こうから迷彩柄の軍用ヘリコプターでやってきた。

 砂浜に降りようとするヘリコプターは非常にうるさい。着陸の前にドアを開けて誠司が叫んだ。

「――、――……――!」

「何言ってるか聞こえねえよ親父!」

「ヘリがうるさいだと? こんなものは二〇〇三年、乱神らんしんタイガースが一八年ぶりに本拠地・孟子園もうしえん球場で開いた日本シリーズ・第三戦の盛り上がりに比べればなんともない!」

「ヘリと大声で張り合うな親父!」

「乱神の外国人左腕テリー・ムーワが一回表、福岡背泳ホークスの先頭バッター柴畑均しばはたひとしに一球投げるたび、地鳴りのような声援で孟子園が震えたんだ! 第二戦まで乱神タイガースは福岡で連敗していたから乱神ファンはこの試合に賭けていた! 絶叫のごとく応援し、その甲斐もあって、なんと乱神は孟子園で三連勝して――」

「全部知ってるよ! 結局そのあと四勝三敗で背泳が日本一だろ! いいから早く着陸しろ!」



 親子ならんでビーチに座った。静かに波が寄せてくる。

 軍用ヘリコプターが沖のほうで燃えていた。静かに飛べない「不良品」を誠司が爆破したのだった。

 父が息子を見ずに海のほうを向いたまま聞いた。

「お前、服は着てるか?」

「は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る